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7.向
409.舞う
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「春休み、絶対パパに出張させる」
“永那ちゃんが、春休みにシようって言ってたよ”と耳打ちすると、千陽は体を私の机に乗り出して言った。
彼女の豊満な胸が机に乗って、思わず視線がいってしまう。
「“させる”って…そんなこと、できるの?」
私が聞くと、千陽は冷めた表情で窓を背もたれにするように座り直した。
「わかんないけど…たぶん?2ヶ月に1回はどこかしら泊まりの出張してるし、大丈夫じゃない?」
髪先を人差し指でくるくる巻いて、千陽は適当に答える。
だから私はただ頷いて、後はこの話を千陽に任せることにした。
「穂?」
「なに?」
「デート、いつする?」
そっか、期末試験終わりに2人で遊ぶ約束をしていたんだった。
「試験終わりの土曜日は卒業式だからなあ…」
「じゃあ、日曜?」
「それでもいいけど…」
「けど?」
私が永那ちゃんをチラリと見ると、千陽がため息をつく。
慌てて千陽を見ると、目を細められていた。
すぐに視線が逸れて、千陽は永那ちゃんを見る。
だから私も、その視線を追うように、また永那ちゃんを見た。
気持ちよさそうに眠っている。
「浮気相手は後回し?」
聞かれて、悩む。
「俺も佐藤さんとデートしたいなあ?」
そんな声が斜め前から飛んでくる。
千陽は呆れたように小さく首を横に振る。
彼はこの1年弱で何度も千陽に告白しているらしい。
そんなにも積極的であれるのは素直に感心するけれど、しつこくなってしまうのもどうかと思う。
「ねえ、ねえっ」
席から飛び跳ねるように立ち上がって、私の机に頬杖をついてしゃがまれるからビックリする。
「マジで可愛いよなあ、佐藤さん。俺、絶対佐藤さんのこと幸せにするよ?」
“幸せにするよ”というのは、どうなんだろう?
私は永那ちゃんに“幸せにするよ”と言われて、嬉しいかな?
うーん…。
私は、私だけじゃなく、永那ちゃんにも幸せであってほしい。
永那ちゃんが幸せなら私も幸せで…。
「あたし、今幸せだけど?」
それと同じように、千陽が幸せなら、私も幸せだ。
「え~!もっと!もっとって意味!」
千陽が深く息を吐く。
まるで“早くチャイム鳴ってくれないかな?”と言うみたいに黒板上の時計を見る。
「どうして、そんなに千陽が好きなの?」
「え…?」
私が質問したことに驚いたようで、彼は姿勢を崩した。
少し尻もちをついて、お尻をはたきながら立ち上がる。
「えーっと…可愛いじゃん?」
「可愛い…だけ?」
「え!?いや…えー…美人だし、スタイル良いし…あ!髪も綺麗だし、声も好き!いつも良い匂いするし!」
全部表面上のことばかりで驚きを隠せない。
もちろん、千陽の美しさは、彼女が努力した上で成り立ってもいるから上辺を褒めることは問題ではない。
でも、1年間も“好き”と言い続けて、まさか理由がそれだけとは…。
「え…?俺、なんか間違ってる?」
彼の顔が引きつる。
千陽がぷっと楽しそうに笑った瞬間、チャイムが鳴った。
「穂、ありがと」
彼が頭を掻きながら席に戻り、千陽は前を向いた。
ちなみに彼は斜め前の席ではない。
たまにこうして千陽に話しかけるために、休み時間に他人の席に座っている。
何が“ありがとう”なのか全然わからないけれど、先生が教室に入ってきたから、意識はすぐに授業に向いた。
「穂」
次の休み時間、また千陽が体をこちらに向ける。
席替えしたばかりの頃こそ慣れなかったけれど、毎日毎回こうされると嫌でも慣れる。
相変わらず、熱烈な愛だ。
「ん?」
「それで、デート、いつ?」
「ああ…。その前に、どこ行く?」
彼女が優しく微笑む。
「買い物」
迷いなく言うから、最初から決まっていたのだと知る。
「全力で可愛くして、買い物する」
「全力で可愛く…」
「うん。穂のメイク、あたしがする」
「わかった」
なんだか少し、照れくさい。
「で、いつ?」
「それなら…日曜日でも大丈夫かな」
彼女の笑みが満面に浮かぶ。
「楽しみ」
「私も」
休み時間が終わるまで、千陽はファッションの話をしたり、最近見た動画の話をしてくれたりする。
いつもひとりで本ばかり読んでいた時間が、華やかに彩られている。
本を読む時間も大事だけれど、それはひとりの時でいい。
期末試験1週間前になって、前と同じように、放課後4人で勉強会を開いた。
月水金は私の家で、火木は永那ちゃんの家。
千陽と優里ちゃんは永那ちゃんのお母さんと久々の再会だった。
お母さんは開口一番「怪我して入院しちゃったんだよね」と俯きながら言った。
千陽も優里ちゃんも事情は知っていたけれど、お母さんの話に合わせていて、心なしか永那ちゃんがホッとしているように見えた。
…そういえば、退院してから最初に私に会った時はお母さん、何も言っていなかった気がする。
ただ永那ちゃんと3人で百貨店に行って、パフェを食べた。
あれは、会うのがサプライズみたいになったから、言うタイミングがなかったってことなのかな?
“永那ちゃんが、春休みにシようって言ってたよ”と耳打ちすると、千陽は体を私の机に乗り出して言った。
彼女の豊満な胸が机に乗って、思わず視線がいってしまう。
「“させる”って…そんなこと、できるの?」
私が聞くと、千陽は冷めた表情で窓を背もたれにするように座り直した。
「わかんないけど…たぶん?2ヶ月に1回はどこかしら泊まりの出張してるし、大丈夫じゃない?」
髪先を人差し指でくるくる巻いて、千陽は適当に答える。
だから私はただ頷いて、後はこの話を千陽に任せることにした。
「穂?」
「なに?」
「デート、いつする?」
そっか、期末試験終わりに2人で遊ぶ約束をしていたんだった。
「試験終わりの土曜日は卒業式だからなあ…」
「じゃあ、日曜?」
「それでもいいけど…」
「けど?」
私が永那ちゃんをチラリと見ると、千陽がため息をつく。
慌てて千陽を見ると、目を細められていた。
すぐに視線が逸れて、千陽は永那ちゃんを見る。
だから私も、その視線を追うように、また永那ちゃんを見た。
気持ちよさそうに眠っている。
「浮気相手は後回し?」
聞かれて、悩む。
「俺も佐藤さんとデートしたいなあ?」
そんな声が斜め前から飛んでくる。
千陽は呆れたように小さく首を横に振る。
彼はこの1年弱で何度も千陽に告白しているらしい。
そんなにも積極的であれるのは素直に感心するけれど、しつこくなってしまうのもどうかと思う。
「ねえ、ねえっ」
席から飛び跳ねるように立ち上がって、私の机に頬杖をついてしゃがまれるからビックリする。
「マジで可愛いよなあ、佐藤さん。俺、絶対佐藤さんのこと幸せにするよ?」
“幸せにするよ”というのは、どうなんだろう?
私は永那ちゃんに“幸せにするよ”と言われて、嬉しいかな?
うーん…。
私は、私だけじゃなく、永那ちゃんにも幸せであってほしい。
永那ちゃんが幸せなら私も幸せで…。
「あたし、今幸せだけど?」
それと同じように、千陽が幸せなら、私も幸せだ。
「え~!もっと!もっとって意味!」
千陽が深く息を吐く。
まるで“早くチャイム鳴ってくれないかな?”と言うみたいに黒板上の時計を見る。
「どうして、そんなに千陽が好きなの?」
「え…?」
私が質問したことに驚いたようで、彼は姿勢を崩した。
少し尻もちをついて、お尻をはたきながら立ち上がる。
「えーっと…可愛いじゃん?」
「可愛い…だけ?」
「え!?いや…えー…美人だし、スタイル良いし…あ!髪も綺麗だし、声も好き!いつも良い匂いするし!」
全部表面上のことばかりで驚きを隠せない。
もちろん、千陽の美しさは、彼女が努力した上で成り立ってもいるから上辺を褒めることは問題ではない。
でも、1年間も“好き”と言い続けて、まさか理由がそれだけとは…。
「え…?俺、なんか間違ってる?」
彼の顔が引きつる。
千陽がぷっと楽しそうに笑った瞬間、チャイムが鳴った。
「穂、ありがと」
彼が頭を掻きながら席に戻り、千陽は前を向いた。
ちなみに彼は斜め前の席ではない。
たまにこうして千陽に話しかけるために、休み時間に他人の席に座っている。
何が“ありがとう”なのか全然わからないけれど、先生が教室に入ってきたから、意識はすぐに授業に向いた。
「穂」
次の休み時間、また千陽が体をこちらに向ける。
席替えしたばかりの頃こそ慣れなかったけれど、毎日毎回こうされると嫌でも慣れる。
相変わらず、熱烈な愛だ。
「ん?」
「それで、デート、いつ?」
「ああ…。その前に、どこ行く?」
彼女が優しく微笑む。
「買い物」
迷いなく言うから、最初から決まっていたのだと知る。
「全力で可愛くして、買い物する」
「全力で可愛く…」
「うん。穂のメイク、あたしがする」
「わかった」
なんだか少し、照れくさい。
「で、いつ?」
「それなら…日曜日でも大丈夫かな」
彼女の笑みが満面に浮かぶ。
「楽しみ」
「私も」
休み時間が終わるまで、千陽はファッションの話をしたり、最近見た動画の話をしてくれたりする。
いつもひとりで本ばかり読んでいた時間が、華やかに彩られている。
本を読む時間も大事だけれど、それはひとりの時でいい。
期末試験1週間前になって、前と同じように、放課後4人で勉強会を開いた。
月水金は私の家で、火木は永那ちゃんの家。
千陽と優里ちゃんは永那ちゃんのお母さんと久々の再会だった。
お母さんは開口一番「怪我して入院しちゃったんだよね」と俯きながら言った。
千陽も優里ちゃんも事情は知っていたけれど、お母さんの話に合わせていて、心なしか永那ちゃんがホッとしているように見えた。
…そういえば、退院してから最初に私に会った時はお母さん、何も言っていなかった気がする。
ただ永那ちゃんと3人で百貨店に行って、パフェを食べた。
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