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6.さんにん
394.冷たい
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■■■
千陽が遊園地のチケットを渡してくれる。
「3人でお出かけなんて、初めてだよね?楽しみ!」
穂が笑う。
それを見て、私も千陽も笑った。
「穂?次は2人でデートしよ?」
「おいおい、穂の恋人は私だぞ?」
千陽が言うから、すかさずツッコむ。
フフッと穂が笑って「千陽とのデートも楽しみ」なんて言うから、項垂れる。
「私の恋人はもちろん永那ちゃんだけど、千陽も大事なんだもん」
可愛く言うから、頷くしかない。
「期末試験が終わったら、どっか行こ?」
千陽は穂の肩に頭を乗せる。
「うん、いいよ」
「穂、私ともちゃんとデートするんだよ?」
「うん、わかってるよ」
穂が眩しいくらいの笑みを浮かべているから、なんだか幸せな気持ちになってくる。
「私、1年生のときに2人と仲良くなっていたかったな」
「なんで?」
「こんなに…楽しいなら、もっと、長く一緒にいたかったなって。3年生になったら受験勉強で忙しくなるだろうし、そしたら、遊べないでしょ?ちょっと、悔しい」
「そっか」
…でも。
1年生のときに出会っていたら、私は穂を好きになれたかな?
当然、嫌いではなかったと思う。
でも、穂のいたずらに、反応できていたかはわからない。
あのときは、まだ“何かあったら、お姉ちゃんが帰ってきてくれるかも”という期待も、少しは残っていた。
それに加えて、お母さんの世話をするのに疲れ切っていた。
2年生になって、もう何もかも諦めて、“どうでもいいや”って吹っ切れたから、穂の言葉に反応できたんじゃないかと思う。
「穂」
「ん?」
「これからもずっと一緒にいるんだから、楽しいこと、たくさんできるよ。そうでしょ?」
“ずっと一緒にいる”
約束するように…いや、約束以上の…まるで契約を交わすかのように、私は言った。
…そっか。
きっと結婚って、契約なんだよね。
まあ、契約したって離婚できるわけだから…ずっと一緒にいられるかどうかなんてわからないけど。
お母さんは、あんなにお父さんが好きだったのに、離れ離れになってしまったわけだし。
…病気で亡くなるとか、そんな可能性もあるわけで。
でも…それでも…ただの口約束じゃなくて、どんなことがあっても一緒に乗り越えようっていう、証明みたいなのは、あったほうがいいんじゃないかと思えてくる。
っていうか、単純に、そのほうが安心する。
「そうだね。大学生になったら、アルバイトして…旅行したいな」
「旅行?」
「そう。私ね、海外に行ってみたいの」
「海外…」
「永那ちゃんは、興味ない?」
「考えたこともなかった!」
海外か…。やっぱり、アメリカとか?
「穂、留学とかするの?」
「留学!?」
目が飛び出そうになる。
「りゅ、留学はしないよ!」
穂がパタパタと手を振る。
「びっくりした…。びっくりさせんなよ!千陽!」
「だって穂、頭良いんだし…国際弁護士とか、かっこいいと思うけど?」
サーッと血の気が引いていく。
「そんな…」
“そんな”と言いながらも思案する穂。
一気に不安になって、穂の顔を覗き込む。
「んー…でも、やっぱり、誉が心配だし…留学はできないよ。留学するとお金もかかるしね」
…誉!!
私じゃなくて…誉…。
ガックリしてると、頭を撫でられた。
上目遣いに穂を見る。
優しく微笑まれた。
可愛い、好き。
「永那ちゃんと、楽しいことたくさんしたいもんね」
「…うん。穂、離れたくない」
「うん、離れないよ」
穂に抱きついてキスしようとすると、「だめー」と避けられた。
…最近の穂はかなり慣れてきて、私がしようとするタイミングがわかるらしい。
くっそー…。慣れって恐ろしい!
「国内も、いろんなところに行ってみたいな」
「いいね!私、全然行ったことないから!」
「…あたしも、一緒に行きたい」
「うん!!千陽も一緒に行こ?」
穂が楽しそうに笑った。
「手始めに…卒業旅行、とか…行ってみるのはどう?…まだまだ、先の話だけど」
千陽が顔を上げて、穂と私を交互に見た。
「卒業旅行…?」
「永那が、行けないなら、べつに、いいけど…」
「隣の県に1泊とかできたら楽しそうだね!…どうかな?永那ちゃん」
穂が目を輝かせて私を見る。
「うん。1泊なら…」
修学旅行のとき、お母さんは1泊なら大丈夫だった…。
例えば、今度はじいちゃんにお母さんと一緒にいるようにお願いしてみるとか…そうしたら、安心して行けるかも。
「私も行きたい」
穂と千陽の笑顔が弾けた。
穂は、わかるけど…千陽も…。
こんな笑顔、見たことない。
2人で楽しそうに笑って、“優里と森山さんも誘おう”とか、“どこに行こうか?”とか話し始める。
…なんか、幸せだな。
大切な2人が、楽しそうに笑っていて、その横に私もいて、“いつか”の話をしている。
穂と出会う前の私は、未来のことなんて、全然考えられなかった。
考える余裕なんて、少しもなかった。
やりたいことがあっても、諦め続けた。
…やりたいこと、か。
私って、何かやりたいこと、あったっけ?
しいて言うなら、お金持ちになりたかった。
お金があれば、お母さんもお父さんも仲良くあれるんだと思っていた。
お金持ち…。社長とか?
千陽が遊園地のチケットを渡してくれる。
「3人でお出かけなんて、初めてだよね?楽しみ!」
穂が笑う。
それを見て、私も千陽も笑った。
「穂?次は2人でデートしよ?」
「おいおい、穂の恋人は私だぞ?」
千陽が言うから、すかさずツッコむ。
フフッと穂が笑って「千陽とのデートも楽しみ」なんて言うから、項垂れる。
「私の恋人はもちろん永那ちゃんだけど、千陽も大事なんだもん」
可愛く言うから、頷くしかない。
「期末試験が終わったら、どっか行こ?」
千陽は穂の肩に頭を乗せる。
「うん、いいよ」
「穂、私ともちゃんとデートするんだよ?」
「うん、わかってるよ」
穂が眩しいくらいの笑みを浮かべているから、なんだか幸せな気持ちになってくる。
「私、1年生のときに2人と仲良くなっていたかったな」
「なんで?」
「こんなに…楽しいなら、もっと、長く一緒にいたかったなって。3年生になったら受験勉強で忙しくなるだろうし、そしたら、遊べないでしょ?ちょっと、悔しい」
「そっか」
…でも。
1年生のときに出会っていたら、私は穂を好きになれたかな?
当然、嫌いではなかったと思う。
でも、穂のいたずらに、反応できていたかはわからない。
あのときは、まだ“何かあったら、お姉ちゃんが帰ってきてくれるかも”という期待も、少しは残っていた。
それに加えて、お母さんの世話をするのに疲れ切っていた。
2年生になって、もう何もかも諦めて、“どうでもいいや”って吹っ切れたから、穂の言葉に反応できたんじゃないかと思う。
「穂」
「ん?」
「これからもずっと一緒にいるんだから、楽しいこと、たくさんできるよ。そうでしょ?」
“ずっと一緒にいる”
約束するように…いや、約束以上の…まるで契約を交わすかのように、私は言った。
…そっか。
きっと結婚って、契約なんだよね。
まあ、契約したって離婚できるわけだから…ずっと一緒にいられるかどうかなんてわからないけど。
お母さんは、あんなにお父さんが好きだったのに、離れ離れになってしまったわけだし。
…病気で亡くなるとか、そんな可能性もあるわけで。
でも…それでも…ただの口約束じゃなくて、どんなことがあっても一緒に乗り越えようっていう、証明みたいなのは、あったほうがいいんじゃないかと思えてくる。
っていうか、単純に、そのほうが安心する。
「そうだね。大学生になったら、アルバイトして…旅行したいな」
「旅行?」
「そう。私ね、海外に行ってみたいの」
「海外…」
「永那ちゃんは、興味ない?」
「考えたこともなかった!」
海外か…。やっぱり、アメリカとか?
「穂、留学とかするの?」
「留学!?」
目が飛び出そうになる。
「りゅ、留学はしないよ!」
穂がパタパタと手を振る。
「びっくりした…。びっくりさせんなよ!千陽!」
「だって穂、頭良いんだし…国際弁護士とか、かっこいいと思うけど?」
サーッと血の気が引いていく。
「そんな…」
“そんな”と言いながらも思案する穂。
一気に不安になって、穂の顔を覗き込む。
「んー…でも、やっぱり、誉が心配だし…留学はできないよ。留学するとお金もかかるしね」
…誉!!
私じゃなくて…誉…。
ガックリしてると、頭を撫でられた。
上目遣いに穂を見る。
優しく微笑まれた。
可愛い、好き。
「永那ちゃんと、楽しいことたくさんしたいもんね」
「…うん。穂、離れたくない」
「うん、離れないよ」
穂に抱きついてキスしようとすると、「だめー」と避けられた。
…最近の穂はかなり慣れてきて、私がしようとするタイミングがわかるらしい。
くっそー…。慣れって恐ろしい!
「国内も、いろんなところに行ってみたいな」
「いいね!私、全然行ったことないから!」
「…あたしも、一緒に行きたい」
「うん!!千陽も一緒に行こ?」
穂が楽しそうに笑った。
「手始めに…卒業旅行、とか…行ってみるのはどう?…まだまだ、先の話だけど」
千陽が顔を上げて、穂と私を交互に見た。
「卒業旅行…?」
「永那が、行けないなら、べつに、いいけど…」
「隣の県に1泊とかできたら楽しそうだね!…どうかな?永那ちゃん」
穂が目を輝かせて私を見る。
「うん。1泊なら…」
修学旅行のとき、お母さんは1泊なら大丈夫だった…。
例えば、今度はじいちゃんにお母さんと一緒にいるようにお願いしてみるとか…そうしたら、安心して行けるかも。
「私も行きたい」
穂と千陽の笑顔が弾けた。
穂は、わかるけど…千陽も…。
こんな笑顔、見たことない。
2人で楽しそうに笑って、“優里と森山さんも誘おう”とか、“どこに行こうか?”とか話し始める。
…なんか、幸せだな。
大切な2人が、楽しそうに笑っていて、その横に私もいて、“いつか”の話をしている。
穂と出会う前の私は、未来のことなんて、全然考えられなかった。
考える余裕なんて、少しもなかった。
やりたいことがあっても、諦め続けた。
…やりたいこと、か。
私って、何かやりたいこと、あったっけ?
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