いたずらはため息と共に

常森 楽

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6.さんにん

381.ふたり

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「早く開けろよ」
既にドアの鍵は開いていて、ドアチェーンがかかっていて入れない…ということらしい。
ドアをガチャガチャ開けられる。
ドアチェーンかかってて良かったー!

走って穂の元へ。
「穂!穂!起きて!」
「んぅ…?」
「お姉ちゃん来た!やばい!」
穂が飛び起きる。
私が彼女のブラをつけてあげて、彼女はショーツを穿く。
「なんで!?」
「知らないよ!!マジで連絡の1つくらいよこせよ、ホント!」
「ねえ、私、髪ぐしゃぐしゃじゃない?」
「大丈夫」
小声で言い合う。

「おーい!早く開けろよ、何やってんだよ」
「うっせーよ!少しは待てよ!」
穂が服を着終えて、パタパタと洗面台に走っていく。
私がドアチェーンを外すと同時にドアが開く。
お姉ちゃんが舌打ちしながら靴を脱ぐ。
「来んならメッセージくらい送れよ」
「は?なんで?ここ私の家なんですけど?」
「ほとんど帰ってこないくせに何言ってんだよ」
「…あ、あの!」
お姉ちゃんが穂のほうを向く。
「誰?」
「あ、私」
「関係ねえだろ」
私は穂の前に立つ。
「あんた、また」
「ちげーよ。ふざけんな」
「“ふざけんな”って、あんたが何したか忘れたの?私が全額」
「わかったから!わかってるから…。この子は、ただの、友達だから」
奥歯を強く噛む。
胸がズキズキと痛む。

空井そらい穂です。永那ちゃんとは、高校のクラスが一緒で」
「ふーん。…あの、写真に写ってた子」
飾っていた写真をお姉ちゃんが覚えているとは思わなかった。
「ハァ」とお姉ちゃんはため息をついて、「急に邪魔して、ごめんね」と穂に謝った。
「い、いえ!私のほうこそ、勝手に家にお邪魔させていただいて…」
「んで、なに?何の用?」
「“何の用”って、明後日お母さん帰ってくるでしょ」
「だから何?」
「あんたひとりじゃ頼りないから、来てやったの」
「必要ねえよ、帰れよ」
「え、永那ちゃん…!」
穂に袖を掴まれる。
「ダメだよ、そんな言い方しちゃ」
「穂…」
彼女が優しく微笑む。

お姉ちゃんがコートを脱いで、リビングに行く。
穂があったかいお茶を淹れて、テーブルに置いてくれた。
「私、帰るよ」
「嫌だ」
「でも…」
「嫌」
穂の手を掴んで、離さない。
穂が困った顔をしているのはわかってる。
でも見たくなくて、俯いた。
「…穂が帰るなら、私も穂の家行く」
「永那ちゃん…」
お姉ちゃんがため息をついて、私達を見た。
「ここに…2人で寝泊まりしてるの?」
穂の荷物や、並んでいる2枚の布団を見れば、泊まっていることは明白だ。
「お姉ちゃんには関係ないだろ!」
「永那ちゃん…!ちゃんと説明しようよ」
ギリリと奥歯が鳴る。
「どうせわかってくれない。私の話なんか、聞いてくれない」
「あんたの考えはいつも短絡的で、後先考えずに行動する。私があんたの話を聞かないんじゃなくて、あんたの言動が信用できないから聞く価値がないだけ」
「お前…!」
頭に血が上って、お姉ちゃんに掴みかかろうとすると、穂に止められた。抱きしめられて。

「お姉さんは、永那ちゃんの努力を認めてくださったんじゃないんですか?」
「…は?」
「確かに永那ちゃんは、後先考えずに行動しちゃうところはあると思います。でも私にとっては、それがすごく魅力的だし、私が“やめて”って言えば、ちゃんと話も聞いてくれる。だから、勝手に、決めつけないでください。話を聞く価値がないなんて、勝手に決めつけないでください」
涙が溢れそうになって、目を掻くフリをする。
「ふーん。…じゃあ、何を聞けばいいの?」
既に座っているお姉ちゃんはテーブルに頬杖をついて、穂を睨む。
「永那ちゃん」
目を擦っても擦っても涙が止まらない。
「無理だよ…」
「大丈夫。…ね?」
穂に手を引かれて、座った。
「私から話す?」
顔を覗き込まれる。
私は頷きたい気持ちをグッと堪えて、首を横に振る。
「穂のお母さんが、ひとり暮らしをさせるのは心配だって言ってくれて、1週間おきに、お互いの家で寝泊まりしてる。本当は3ヶ月間穂の家にいて良いって言ってもらったんだけど、うちにはお母さんが大事にしてる花もあるし、ずっと空けておくのは心配だったから、1週間おきにしてもらった」
お姉ちゃんは相槌も打たずに、お茶を啜る。

他に何を話せばいいのかわからなくて、穂を見る。
穂が優しい笑みを浮かべて、ギュッと手を握ってくれた。
…なんか、私、すごいかっこ悪い。
「それで、今週は永那ちゃんのお母さんが帰ってくるので、それまで私がこの家にお泊りさせていただいています。掃除とか、棚に鍵をかけるのとか、お花の世話とか…ご飯の作り置きなんかも、手伝おうと思って」
お姉ちゃんはお茶を見たまま、何も言わない。
「永那ちゃんが作るご飯ってカレーばっかりなんです。お姉さん、知ってましたか?カレーばっかりだけど、永那ちゃん、ちゃんとお母さんのためにご飯作ってたんですよ?…ね?」
ギュッと胸が締め付けられる。
穂が、好きだ。
やっぱり、好きだ。
ずっと好きなんだから“やっぱり”なんておかしいけど…。
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