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6.さんにん
347.まだ
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フラッシュバックのことなんて、覚えてるんだ。
中学と高校1年生の初めのとき、男に肩を抱かれたり手を掴まれたりすると、小学生のときのことがフラッシュバックして、パニックを起こした。
女子でも、甲高い笑い声が聞こえると怖くて、手が震えた。
…永那には、突き飛ばされても、怖いと思わなかったな。
「千陽?」
「ホント、なんでもないから」
抱きしめられる力が強まって、嬉しさが胸の内から込み上げて来る。
「私、穂が泣いて…マジで怖かった。傷つけちゃったんじゃないかって。…だからさ?お前も、ちゃんと言って?」
今までの永那なら“ふーん”で終わってたはずなのに…なにそれ。
ちゃんと、ね。
ちゃんと言っても、どうにもならないってわかってる。
だって、永那は今すぐにでも穂に会いたいんでしょ?
早くあたしが休まってほしい、早くあたしを家に送って穂に会いたいって、思ってるんでしょ?
それで…言ってどうなるの?
永那があたしの肩に頬をつけた。
彼女の息が首筋にかかる。
こんな、あたしの答えをジッと待ってくれるなんて…信じられない。
「なんでも言っていいよ」
「言っても、意味ないし」
「あるよ」
大好きな永那の声が、脳に響く。
「ないよ」
「勝手に決めんなよ」
永那のぬくもりが、肌に直に伝ってきて、それだけで安心する。
フゥッと息を吐く。
「…寂しいだけ」
永那は何も言わない。
あたしは精一杯笑みを作る。
「言っても、無駄でしょ?」
「どうすれば、寂しくなくなるの?」
「そんなの…」
永那の手を見つめる。
「わかった」
「え?」
永那が立ち上がって、布団が捲れそうになったから慌てて手で押さえた。
床に置かれていたスマホを取って、耳に当てる。
「あー、穂。ごめん、今日帰れなさそう」
永那がボリボリと頭を掻く。
ドクドクと鼓動が速まる。
帰れなさそう…?
理解が、追いつかない。
え…?
あたしの、ために…?
永那はフフッと笑って「穂もおいでよ」と言う。
「駅まで迎えに行ってあげる」
永那は楽しそうに笑って話してる。
「1時間後くらいには駅につくように行くから。…ハハッ!そんな急がないでよ。千陽疲れてんだからさ?」
チラリと見られる。
キュンキュンする胸を鎮めたくて、布団をギュッと掴んだ。
「1時間後に駅ね!…わかった、楽しみ。じゃあ、また後で」
永那がニコニコしながらあたしの横に座る。
「穂、ご飯持ってきてくれるって」
「…なんで?」
「え?お腹すくじゃん」
…違う。
「なんで、帰れないの?」
永那の左眉が上がる。
「ああ…。だってお前、寂しくて泣いてるんでしょ?ひとりになんてしておけないだろ」
どこまでも、甘い。
「どうせ明日一緒に遊ぶんだし、いいじゃん?前乗りだよ、前乗り」
「バカ」
「ひどくない!?」
あたしはそっぽを向く。
「お前みたいなやつには…こうしてやる!」
押し倒されて、布団が捲られる。
一気に顔が熱くなる。
ニヤリと永那が笑って、あたしに覆いかぶさる。
「良いおっぱいしてるね、お嬢さん?」
両手の指をぐにゃぐにゃ動かして、あたしの胸に近づける。
「あたし…今夜、パパのパーティがあったんだけど」
永那の手がピタッと止まる。
「え!?マジで!?…ごめん。あ、今から穂に電話すれば」
「いい」
「え?」
「行きたくないもん」
覆いかぶさる永那をまっすぐ見る。
「永那と穂と、いたい」
彼女が優しく笑う。
「そっか。…連絡しとけよ?」
「うん」
永那はあたしの胸を横から寄せるようにして手を添えた。
そこに顔をうずめて、スリスリする。
可愛くて、頭を撫でた。
「やわらけー、でかいー、すごいー」
「ホント、バカじゃないの?」
「んー…今は否定できない」
声の振動が胸に伝わる。
「おっぱいの前に、人類はひれ伏すことになるんだ」
「意味わかんない」
ってか、永那…“べつにおっぱいが好きなわけじゃない”んじゃないの?
「んっ…ちょっと…」
永那が舌を這わす。
たまに唇で肌を挟まれる。
「ねえ」
「なに…っ?」
「私のをさ、千陽に舐めさせたら、穂…悲しむかな?」
「え!?」
「どう思う?」
「し、知らないよ…」
「悩む…」
そう言いながら、また胸に顔をうずめた。
「んー…やっぱダメだよなあ。穂が来たら舐めてもらお」
バッと永那の顔が上がる。
「それも、寂しい?」
「べつに…いいよ…」
ニシシと永那が笑う。
「良かった」
あたしは布団の中で服を着て、パパにメッセージを送った。
ちょっと叱られたけど、気にしない。
永那の腕に抱きつきながら、一緒に駅に向かう。
まだ穂はついていなかったから、駅前のコンビニでショーツを買った。
穂が改札を出て、あたし達を見ると、パタパタと駆け寄ってきた。
前髪を指で梳きながら、モゴモゴと口を動かして、何か言いたげだった。
でも永那は気にせず、穂の手を掴んで歩き出す。
「穂、会いたかった」
永那が笑うと、穂も笑みを返した。
「ご飯なに?」
「おにぎりと、卵焼きと、煮物…作ってきたよ」
「うっしゃー!」
3人で、帰る。
こんなに幸せで、いいのかな。
中学と高校1年生の初めのとき、男に肩を抱かれたり手を掴まれたりすると、小学生のときのことがフラッシュバックして、パニックを起こした。
女子でも、甲高い笑い声が聞こえると怖くて、手が震えた。
…永那には、突き飛ばされても、怖いと思わなかったな。
「千陽?」
「ホント、なんでもないから」
抱きしめられる力が強まって、嬉しさが胸の内から込み上げて来る。
「私、穂が泣いて…マジで怖かった。傷つけちゃったんじゃないかって。…だからさ?お前も、ちゃんと言って?」
今までの永那なら“ふーん”で終わってたはずなのに…なにそれ。
ちゃんと、ね。
ちゃんと言っても、どうにもならないってわかってる。
だって、永那は今すぐにでも穂に会いたいんでしょ?
早くあたしが休まってほしい、早くあたしを家に送って穂に会いたいって、思ってるんでしょ?
それで…言ってどうなるの?
永那があたしの肩に頬をつけた。
彼女の息が首筋にかかる。
こんな、あたしの答えをジッと待ってくれるなんて…信じられない。
「なんでも言っていいよ」
「言っても、意味ないし」
「あるよ」
大好きな永那の声が、脳に響く。
「ないよ」
「勝手に決めんなよ」
永那のぬくもりが、肌に直に伝ってきて、それだけで安心する。
フゥッと息を吐く。
「…寂しいだけ」
永那は何も言わない。
あたしは精一杯笑みを作る。
「言っても、無駄でしょ?」
「どうすれば、寂しくなくなるの?」
「そんなの…」
永那の手を見つめる。
「わかった」
「え?」
永那が立ち上がって、布団が捲れそうになったから慌てて手で押さえた。
床に置かれていたスマホを取って、耳に当てる。
「あー、穂。ごめん、今日帰れなさそう」
永那がボリボリと頭を掻く。
ドクドクと鼓動が速まる。
帰れなさそう…?
理解が、追いつかない。
え…?
あたしの、ために…?
永那はフフッと笑って「穂もおいでよ」と言う。
「駅まで迎えに行ってあげる」
永那は楽しそうに笑って話してる。
「1時間後くらいには駅につくように行くから。…ハハッ!そんな急がないでよ。千陽疲れてんだからさ?」
チラリと見られる。
キュンキュンする胸を鎮めたくて、布団をギュッと掴んだ。
「1時間後に駅ね!…わかった、楽しみ。じゃあ、また後で」
永那がニコニコしながらあたしの横に座る。
「穂、ご飯持ってきてくれるって」
「…なんで?」
「え?お腹すくじゃん」
…違う。
「なんで、帰れないの?」
永那の左眉が上がる。
「ああ…。だってお前、寂しくて泣いてるんでしょ?ひとりになんてしておけないだろ」
どこまでも、甘い。
「どうせ明日一緒に遊ぶんだし、いいじゃん?前乗りだよ、前乗り」
「バカ」
「ひどくない!?」
あたしはそっぽを向く。
「お前みたいなやつには…こうしてやる!」
押し倒されて、布団が捲られる。
一気に顔が熱くなる。
ニヤリと永那が笑って、あたしに覆いかぶさる。
「良いおっぱいしてるね、お嬢さん?」
両手の指をぐにゃぐにゃ動かして、あたしの胸に近づける。
「あたし…今夜、パパのパーティがあったんだけど」
永那の手がピタッと止まる。
「え!?マジで!?…ごめん。あ、今から穂に電話すれば」
「いい」
「え?」
「行きたくないもん」
覆いかぶさる永那をまっすぐ見る。
「永那と穂と、いたい」
彼女が優しく笑う。
「そっか。…連絡しとけよ?」
「うん」
永那はあたしの胸を横から寄せるようにして手を添えた。
そこに顔をうずめて、スリスリする。
可愛くて、頭を撫でた。
「やわらけー、でかいー、すごいー」
「ホント、バカじゃないの?」
「んー…今は否定できない」
声の振動が胸に伝わる。
「おっぱいの前に、人類はひれ伏すことになるんだ」
「意味わかんない」
ってか、永那…“べつにおっぱいが好きなわけじゃない”んじゃないの?
「んっ…ちょっと…」
永那が舌を這わす。
たまに唇で肌を挟まれる。
「ねえ」
「なに…っ?」
「私のをさ、千陽に舐めさせたら、穂…悲しむかな?」
「え!?」
「どう思う?」
「し、知らないよ…」
「悩む…」
そう言いながら、また胸に顔をうずめた。
「んー…やっぱダメだよなあ。穂が来たら舐めてもらお」
バッと永那の顔が上がる。
「それも、寂しい?」
「べつに…いいよ…」
ニシシと永那が笑う。
「良かった」
あたしは布団の中で服を着て、パパにメッセージを送った。
ちょっと叱られたけど、気にしない。
永那の腕に抱きつきながら、一緒に駅に向かう。
まだ穂はついていなかったから、駅前のコンビニでショーツを買った。
穂が改札を出て、あたし達を見ると、パタパタと駆け寄ってきた。
前髪を指で梳きながら、モゴモゴと口を動かして、何か言いたげだった。
でも永那は気にせず、穂の手を掴んで歩き出す。
「穂、会いたかった」
永那が笑うと、穂も笑みを返した。
「ご飯なに?」
「おにぎりと、卵焼きと、煮物…作ってきたよ」
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こんなに幸せで、いいのかな。
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