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5.時間
271.修学旅行
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千陽が露天風呂から出て、屋内に入った。
「永那~、さ、さすがに、永那は、ダメじゃない?」
優里ちゃんが苦笑する。
「そう?なんで?」
「いや~…なんでって…ほら、永那がさわるとき、手つきが、エロいし…」
「えー、違いがわからん」
「みんな言ってたよ?永那がさわるとエロいって」
「マジ?んー…これからは気をつけるか」
みんな…。
いつか、千陽が“胸をさわるなんて、女子同士ではよくあること”と言っていたけれど、やっぱり永那ちゃんも他の子の胸、さわったことあるんだ。
ほんの少し胸が痛むのを感じながら、森山さんを支えながら屋内に入った。
もう千陽はいなくて、私達もシャワーを浴びて脱衣所に行く。
千陽は下着姿で、ちょうど浴衣を着ようとしていた。
いつもなら視線をこちらに向けてくれるのだろうけど、今日は一切振り向かなかった。
私が彼女の顔を覗き込んでも、ぷいとそっぽを向いてしまう。
「千陽怒んなよ」
永那ちゃんが言う。
千陽は無反応で、淡々と身支度を整えた。
千陽がドライヤーをかけに行く。
「どっちが前だっけ?」
「左だよ」
永那ちゃんが頷いて、適当に浴衣を着るから、私が着付け直す。
へへへと嬉しそうに笑うから、私も笑みを返す。
「永那ちゃん」
「ん?」
「…あれは、ダメだよ」
永那ちゃんが左眉を上げて、首を傾げる。
優里ちゃんが森山さんに話しかけているのを見てから、永那ちゃんのそばに寄る。
「千陽、本当に永那ちゃんが好きなんだよ?本当に、永那ちゃんを大事に思ってくれてるんだよ?」
永那ちゃんは、まだ何も理解できていないみたいに頷く。
「好きな人に…あんなふうに、さわられたら、悲しいと思う。私だったら、嫌」
永那ちゃんの目が見開く。
私はグッと下唇を噛んで、ジッと彼女を見つめた。
「私と永那ちゃんは、恋人だし…それは、いいけど…。千陽は…違うでしょ?」
永那ちゃんの顔が真剣になって、フゥッと息を吐きながら、頷いた。
「優里ちゃんみたいに、普段からさわってるなら良かったのかもしれない。でも、永那ちゃん、普段からさわってるわけじゃないでしょ?」
「…初めて、だった」
「じゃあ、なおのこと、ダメだよ」
「ごめん…」
「私じゃなくて…」
「うん、千陽にも、言う」
永那ちゃんはポリポリ頭を掻きながら、千陽を見た。
千陽はドライヤーをかけ終えて、髪を梳かしていた。
「ちょっと…行ってくる…」
「うん」
私は濡れた髪を櫛で梳いて、荷物をまとめる。
次の班の人達が入ってきて、永那ちゃんが囲まれてしまう。
千陽はそれを横目に、脱衣所から出て行った。
優里ちゃんと森山さんも準備を終えたから、脱衣所から出る。
「千陽、待って」
私が言うと、振り向いてくれる。
「穂、可愛い」
落ち込んでるものと思っていたから、急な褒め言葉にドキッとする。
「千陽~、私はー?」
優里ちゃんが浴衣の袖を持ちながら、くるりと回る。
「可愛い可愛い」
へへへと優里ちゃんが笑う。
「千陽も可愛い!」
「当たり前でしょ」
千陽が流し目をしながら、口角を上げる。
「千陽…大丈夫?」
小声で言う。
優里ちゃんは俯く森山さんの腕を引っ張って、自販機の前で何を買おうか悩んでいた。
「なにが?」
「…さっきの」
彼女が左腕を右手で擦る。
「ハァ」と息を吐く。
「べつに…永那が考えなしなのは、わかってるし」
「そっか…」
「あ、みんないた」
永那ちゃんが頭をポリポリ掻きながら歩いてくる。
「千陽、ごめんね?」
千陽が目を見開く。
俯いて、また左腕を右手で擦った。
「千陽?」
永那ちゃんが千陽の顔を覗き込む。
「ごめんね?」
ジュースを片手に、優里ちゃんが永那ちゃんの頭にチョップする。
「いった!」
「千陽を泣かすな!永那のバカ!」
「ご、ごめんて…」
「あたし泣いてないんだけど」
「泣いてないって」
永那ちゃんが両眉を上げながら優里ちゃんを見下ろす。
「永那、最低」
優里ちゃんが睨む。
永那ちゃんの顔が引きつって、頬をポリポリ掻いた。
永那ちゃんが自販機にお金を入れる。
グレープソーダを1本買って、もう一度お金を入れた。
もう1本同じのを買って、「千陽」と千陽に向かってペットボトルを投げた。
千陽が胸元でキャッチする。
「お詫び。こんなんじゃ、何のお詫びにも…ならないかもしれないけど」
反省するように、永那ちゃんは「ハァ」とため息をつく。
「はい、穂」
「私に?」
永那ちゃんが頷く。
「ありがとう…」
「ずるいずるい!私も買ってー!」
「優里、もう買ってんじゃん」
「買ってない!」
優里ちゃんが、持っていたジュースを背中に回して隠す。
永那ちゃんはまたため息をついて「どれ?」と聞く。
…ああ、かっこいいな。
千陽を見ると、眉間にシワを寄せながらも、ジッとペットボトルを眺めていた。
綻びそうになる口元を、唇を噛んで抑えているような、そんな顔をしていた。
「森山さんは?」
「わ、私ですか!?あの、私は」
「どれ?」
永那ちゃんの目がスッと細くなる。
「あ…じゃ、じゃあ…これで…」
フフッと笑ってしまう。
こういうときの永那ちゃんには、なかなか逆らえないよね。
「わーい!」
優里ちゃんがペットボトルを2本抱えながら、くるくる回ってる。
永那ちゃんが文化祭で言っていた、友達との距離の取り方が、なんとなく…ほんの少しだけ、わかった気がした。
「永那~、さ、さすがに、永那は、ダメじゃない?」
優里ちゃんが苦笑する。
「そう?なんで?」
「いや~…なんでって…ほら、永那がさわるとき、手つきが、エロいし…」
「えー、違いがわからん」
「みんな言ってたよ?永那がさわるとエロいって」
「マジ?んー…これからは気をつけるか」
みんな…。
いつか、千陽が“胸をさわるなんて、女子同士ではよくあること”と言っていたけれど、やっぱり永那ちゃんも他の子の胸、さわったことあるんだ。
ほんの少し胸が痛むのを感じながら、森山さんを支えながら屋内に入った。
もう千陽はいなくて、私達もシャワーを浴びて脱衣所に行く。
千陽は下着姿で、ちょうど浴衣を着ようとしていた。
いつもなら視線をこちらに向けてくれるのだろうけど、今日は一切振り向かなかった。
私が彼女の顔を覗き込んでも、ぷいとそっぽを向いてしまう。
「千陽怒んなよ」
永那ちゃんが言う。
千陽は無反応で、淡々と身支度を整えた。
千陽がドライヤーをかけに行く。
「どっちが前だっけ?」
「左だよ」
永那ちゃんが頷いて、適当に浴衣を着るから、私が着付け直す。
へへへと嬉しそうに笑うから、私も笑みを返す。
「永那ちゃん」
「ん?」
「…あれは、ダメだよ」
永那ちゃんが左眉を上げて、首を傾げる。
優里ちゃんが森山さんに話しかけているのを見てから、永那ちゃんのそばに寄る。
「千陽、本当に永那ちゃんが好きなんだよ?本当に、永那ちゃんを大事に思ってくれてるんだよ?」
永那ちゃんは、まだ何も理解できていないみたいに頷く。
「好きな人に…あんなふうに、さわられたら、悲しいと思う。私だったら、嫌」
永那ちゃんの目が見開く。
私はグッと下唇を噛んで、ジッと彼女を見つめた。
「私と永那ちゃんは、恋人だし…それは、いいけど…。千陽は…違うでしょ?」
永那ちゃんの顔が真剣になって、フゥッと息を吐きながら、頷いた。
「優里ちゃんみたいに、普段からさわってるなら良かったのかもしれない。でも、永那ちゃん、普段からさわってるわけじゃないでしょ?」
「…初めて、だった」
「じゃあ、なおのこと、ダメだよ」
「ごめん…」
「私じゃなくて…」
「うん、千陽にも、言う」
永那ちゃんはポリポリ頭を掻きながら、千陽を見た。
千陽はドライヤーをかけ終えて、髪を梳かしていた。
「ちょっと…行ってくる…」
「うん」
私は濡れた髪を櫛で梳いて、荷物をまとめる。
次の班の人達が入ってきて、永那ちゃんが囲まれてしまう。
千陽はそれを横目に、脱衣所から出て行った。
優里ちゃんと森山さんも準備を終えたから、脱衣所から出る。
「千陽、待って」
私が言うと、振り向いてくれる。
「穂、可愛い」
落ち込んでるものと思っていたから、急な褒め言葉にドキッとする。
「千陽~、私はー?」
優里ちゃんが浴衣の袖を持ちながら、くるりと回る。
「可愛い可愛い」
へへへと優里ちゃんが笑う。
「千陽も可愛い!」
「当たり前でしょ」
千陽が流し目をしながら、口角を上げる。
「千陽…大丈夫?」
小声で言う。
優里ちゃんは俯く森山さんの腕を引っ張って、自販機の前で何を買おうか悩んでいた。
「なにが?」
「…さっきの」
彼女が左腕を右手で擦る。
「ハァ」と息を吐く。
「べつに…永那が考えなしなのは、わかってるし」
「そっか…」
「あ、みんないた」
永那ちゃんが頭をポリポリ掻きながら歩いてくる。
「千陽、ごめんね?」
千陽が目を見開く。
俯いて、また左腕を右手で擦った。
「千陽?」
永那ちゃんが千陽の顔を覗き込む。
「ごめんね?」
ジュースを片手に、優里ちゃんが永那ちゃんの頭にチョップする。
「いった!」
「千陽を泣かすな!永那のバカ!」
「ご、ごめんて…」
「あたし泣いてないんだけど」
「泣いてないって」
永那ちゃんが両眉を上げながら優里ちゃんを見下ろす。
「永那、最低」
優里ちゃんが睨む。
永那ちゃんの顔が引きつって、頬をポリポリ掻いた。
永那ちゃんが自販機にお金を入れる。
グレープソーダを1本買って、もう一度お金を入れた。
もう1本同じのを買って、「千陽」と千陽に向かってペットボトルを投げた。
千陽が胸元でキャッチする。
「お詫び。こんなんじゃ、何のお詫びにも…ならないかもしれないけど」
反省するように、永那ちゃんは「ハァ」とため息をつく。
「はい、穂」
「私に?」
永那ちゃんが頷く。
「ありがとう…」
「ずるいずるい!私も買ってー!」
「優里、もう買ってんじゃん」
「買ってない!」
優里ちゃんが、持っていたジュースを背中に回して隠す。
永那ちゃんはまたため息をついて「どれ?」と聞く。
…ああ、かっこいいな。
千陽を見ると、眉間にシワを寄せながらも、ジッとペットボトルを眺めていた。
綻びそうになる口元を、唇を噛んで抑えているような、そんな顔をしていた。
「森山さんは?」
「わ、私ですか!?あの、私は」
「どれ?」
永那ちゃんの目がスッと細くなる。
「あ…じゃ、じゃあ…これで…」
フフッと笑ってしまう。
こういうときの永那ちゃんには、なかなか逆らえないよね。
「わーい!」
優里ちゃんがペットボトルを2本抱えながら、くるくる回ってる。
永那ちゃんが文化祭で言っていた、友達との距離の取り方が、なんとなく…ほんの少しだけ、わかった気がした。
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