いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
上 下
193 / 595
4.踏み込む

192.文化祭準備

しおりを挟む
「穂、ご飯どうする?」
「あ、そっか。…じゃあ、そろそろ帰ろうかな?」
「え~もう帰っちゃうの?」
お母さんに腕を掴まれる。
「食べていったらいいじゃない?…私が作るよ!」
「お母さん、ご飯は私に作らせて?」
「え~、いつも永那が作る~」
「私のご飯、嫌い?」
「嫌いじゃ、ないけど…」
永那ちゃんがお母さんの頭を撫でる。
「穂、食べてく?」
「いいの?」
「うん」
お母さんは私に抱きついて、「わ~い!」と嬉しそうに笑った。
「手伝おうか?」と聞いたけど、「大丈夫」と頭を撫でられた。

「ねえ、穂ちゃんは~部活とかしてるの?」
「生徒会を」
「生徒会?…難しそう」
「もうすぐ文化祭なので、今は忙しいですけど、楽しいですよ」
「文化祭!?永那から聞いてない~」
言ってはいけないことだったのかと思って焦ったけど、永那ちゃんはご飯を作り続けていた。
「永那~聞いてない~」
「どうせ私は参加しないんだから、いいでしょ」
“参加しない”という言葉に、胸がズキリと痛む。
「え~、やったらいいのに~。お母さん、文化祭好きだったな~」
「めんどくさいから、私はいいんだよ」
これは…永那ちゃんの、嘘。
永那ちゃんがいないと、パニックを起こしてしまうお母さんへの、優しさ。
「文化祭、楽しいですよね」
「うん!私ね、学校で一番かっこいい人がいて、その人に告白されたの~、あれは恥ずかしかったな~。でも、嬉しくて…良い思い出」
「それは、ドキドキしそうですね」
「ドキドキ!そう!ドキドキした~!…穂ちゃんは、彼氏いるの?」
彼氏。
…そりゃあ、そうだよね。
「お付き合いしてる人は…います」
「えー!イケメン?」
「はい、かっこいいです」
「きゃー!いいな~!私も高校生に戻りた~い!」

お母さんから学校生活について聞かれたり、永那ちゃんのことを聞かれたりして、話していたら、永那ちゃんがカレーを出してくれる。
…これが、永那ちゃんがほぼ毎日食べているというカレー。
事前に誉に連絡して、夜ご飯はいらないと伝えた。
最近誉も自分で料理をするようになって、家事の心配はグッと減った。
「いただきま~す」
お母さんが食べ始める。
それに続いて私達も食べ始める。
「おいしい」
そう言うと、永那ちゃんが鼻で笑う。
「おいし~ね~!」
お母さんも言う。

「ごめんね、駅まで送れなくて」
「大丈夫だよ」
ご飯を食べ終えて、私は家に帰る。
「気をつけてね」
「うん」
「穂ちゃ~ん!また来てね~!」
「はい、お邪魔しました」
永那ちゃんは私が見えなくなるまで、ドアを開けて手を振ってくれていた。

クラスメイトから普通に話しかけられる日常に慣れないながらも、1週間経った、3ヶ月記念日。
“3ヶ月記念を、盛大にしよう”と、永那ちゃんと約束していた。
1ヶ月記念はプレゼントが遅くなってしまったし、2ヶ月記念は会えもしなかった。
全部私が、記念日をそこまで重要視していなかったことが原因だけど。
だからこそ、今回はちゃんとやりたかった。
とは言え、平日ということもあって、どうしたらいいのか、悩ましかった。
“盛大”と言うと、なんとなく誕生日が思い浮かんで、誕生日と言えばケーキかな?と思い、手作りのケーキを用意した。
学校に持ってくるのは不安だったから、学校が終わったら家に取りに行こうと思ってる。
…でも、それだけでいいのかな?

2人で過ごすために、また永那ちゃんの家に行くことは決まっている。
だから夜ご飯も作ろうと思ってる。
あれから、永那ちゃんのお母さんは、しきりに私が次いつ家に来るのか聞いてくるらしい。
永那ちゃんは“せっかくの記念日なのに”と申し訳なさそうにしていたけど、嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなった。
ケーキと夜ご飯とお母さんに会うこと…その3つをプレゼントとするには、なんだかまだ足りない気がした。
飾り付け…。
何か、永那ちゃんが家で癒やされるような…そんな物がプレゼントできたらいいかな?
何がいいかな?
…こんなにも楽しく、授業中にも考えてしまう自分がいるなんて、想像したこともなかった。

永那ちゃんには、後で家に行くことを伝えて、私は家に帰った。
冷蔵庫からケーキを取って、袋に入れた。
夜ご飯用の食材をスーパーで買う。
何か他にあげられるものがないか、駅前のお店を少し覗いて歩く。
「ああ、これがいいかな」
私はそれも買って、永那ちゃんの家に向かった。
インターホンを押すと、すぐに永那ちゃんが開けてくれる。
「おお、荷物いっぱいだね!…大変だったんじゃない?」
「平気。…冷蔵庫開けてもいいかな?」
「うん、好きにして」
「穂ちゃ~ん!会いたかった~!」
荷物を持った状態でお母さんに抱きしめられた。
「ちょ、お母さん…!穂、ごめん」
永那ちゃんが垂れた眉を掻きながら、お母さんを引き離す。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...