いたずらはため息と共に

常森 楽

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3.成長

157.夏が終わる

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あたしが壁側(窓側)に寝転んで、空井さんがドア側。
普通に並んで寝られるのがすごい。
やっぱり広いなあ。
「佐藤さん、今日はありがとう。楽しかった」
空井さんが微笑む。
「あたしも、楽しかった」
あたしと目が合うと、空井さんは前髪を指で梳く。
「よかった。…じゃあ、おやすみなさい」
そう言って、あたしに背を向けてしまう。
「ねえ、もう寝ちゃうの?」
「え?」
あたしは空井さんの背中にくっついた。
右手を彼女のお腹に回す。
「空井さん」
「な、なに?」
「どうしてあたしのこと、好きなの?」
しばらくの沈黙がおりる。
彼女の鼓動の速さが、背中から伝ってくる。

「あたし、空井さんが嫌がること、永那にたくさんしたでしょ?…あたしだったら、あたしを好きになれない」
「…私が、佐藤さんから永那ちゃんを盗るみたいになってしまったのは事実で…本来なら、佐藤さんはもっと怒ってもいいと思うし、まして一緒に遊んでくれるなんて、ありがたいなって」
「へえ」
あたしは彼女の背中に額を押し付ける。
「永那ちゃんがずっと佐藤さんを守ってきたこと…大切にしてきたこと…すごく伝わってくる。そんなに大切にされたら…好きになっちゃうよね。私も永那ちゃんに大切にされて、今、誰にも盗られたくないって思う。だから佐藤さんが、どれだけ辛い思いをしたのか想像すると…なんで私と一緒に遊んでくれるんだろう?って思う」
あたしは、永那から離れられなかっただけで、空井さんと一緒にいたかったわけじゃない。
むしろ見たくなかったし、たくさんイライラしてた。
「私、みんなのおかげで、楽しく過ごさせてもらってる。だから私、佐藤さんが好きだよ」

…あたしってこんな単純だったっけ?
空井さんに“好き”と言われただけで、胸がギュッと締め付けられて、嬉しさが込み上げてくる。
空井さんがあたしの辛さを想像してくれていたなんて知らなくて、いつか優里の胸で泣いたことを思い出す。
彼女の服を握りしめる。
涙を必死に堪らえようとして、歯を強く噛みしめるけど、どんどん溢れ出てくる。
「佐藤さん?」
彼女が振り向く。
体を反転させて、あたしに向き合う。
そっと抱きしめられて、止まってほしいのに、見られたくないのに、鼻水まで垂れてくる。
頭を撫でられる。
あたしは彼女の服に縋りつくみたいに手を握りしめた。
あたし、寂しくて、たまらないみたい。

彼女がティッシュで顔を拭いてくれる。
永那が泣いたときみたいに。
暗がりの中で微笑む彼女が綺麗で、あたしは彼女の唇に唇を重ねた。
すぐに彼女が離れる。
「さ、佐藤さん、だめだよ」
「やだ」
「え!?…で、でも」
「空井さんがあたしから永那を盗ったなら、空井さんが埋めてよ。永那を盗った分、埋めてよ」
そう言って、また重ねる。
「寂しい。…寂しいの」
彼女に覆いかぶさるようにして、何度も、何度も。
彼女が永那にやっていたみたいに。
「佐藤さん…!」
彼女に肩を押される。
それだけでまた、涙が溢れてくる。
彼女の頬にあたしの涙が落ちていく。
「あ…佐藤…さん…」
彼女が困ってる。
それでも指で目元を拭ってくれる。

「今だけ…今だけ“千陽”って呼んで?…明日からは、また“佐藤さん”でいいから」
彼女の瞳が揺れる。
「…千陽」
あべこべな気持ち。
永那を盗った相手なのに。
あたしは永那が好きなのに。
本当は、空井さんなんて、嫌いなのに。
なんで、嬉しいの?
彼女に口付けする。
彼女がギュッと目を瞑る。
彼女の唇を舌でなぞる。
永那が、彼女にやっていたみたいに。

ずっと舐めていた。
ふいに彼女が笑う。
「くすぐったいよ…千陽…」
ああ…。
永那に感じていたドキドキが嘘だったみたいに、胸が締め付けられるほどに苦しい。
あたし、これ以上どうすればいいか、わからないよ。
…自分が、わからない。
「穂、好き」
彼女の目が見開かれる。
彼女がゴクリと唾を飲む。
「私は…」
あたしは彼女の唇に人差し指を置く。
「知らない。…知りたくない」
永那は空井さんが好き。
空井さんは永那が好き。
そんなの知ってるし。
「ダメだよ」
あたしの人差し指が、唇の動きと共に動く。
「私は、永那ちゃんが好き。千陽のことは好きだけど、友達でしょ?」
さすが、空井さん。
永那みたいには、甘くない。
…でも、どうかな。
あたしのキスを完全に拒絶していない時点で、甘々かも。
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