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2.変化
109.夏休み
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優里と千陽はまたスライダーをすると言って、いなくなった。
穂が少し寂しそうに2人の背中を見送る。
「穂、流れるプールでも行く?」
少し考えてから、彼女は頷いた。
今度はちゃんと浮き輪を支えて、彼女を乗せる。
「本当は、永那ちゃんもスライダーに行きたかったよね?」
穂の声が不安げだから、彼女の手を握る。
「全然。私は穂と一緒にいたい」
「本当?」
「本当だよ。2人きりになれると思ってなかったから、嬉しい」
そう言うと、彼女は安心したように笑った。
「私も、永那ちゃんといられて嬉しい」
…あぁ、キスしたい。
普通にキスしているカップルが羨ましい。
日本人は道端でカップルがキスすることは少ないけど、プールになると開放的になるのか、キスしているカップルをよく見かける。
やっぱ水着だと露出が多くなるもんね。
「永那ちゃん?」
「ん?」
「私ね、何か、永那ちゃんと共通の趣味?みたいのを作りたい」
突然の提案に目を白黒させる。
「趣味?」
「うん、何かないかなあ?…永那ちゃん、前に漫画読むって言っていたけど、どんな漫画読むの?」
「あー…読むって言っても、友達に借りたり図書館にあるやつを読むって感じだから、趣味とまでは言えないかも」
「そっか」
私の趣味ってなんだ?
強いて言うならエロいこと…だけど…そんな趣味おかしすぎるだろ!恥ずかしくて人に言えないわ!
「穂は、本を読むのが好きだよね?」
「うーん…私も、なんていうか…暇潰しみたいな。もちろん嫌いじゃないけど、趣味とまでは言えない気がする」
「そっか」
趣味って難しいな。
「2人でできることなら、料理とか?」
「料理かー」
「私、この前穂が生姜焼き作ってくれたの思い出して、家でも作ったよ」
「そーなの?」
「うん。でもやっぱ、穂が作ったやつのほうがおいしかった」
「じゃあ、明日は一緒に作ってみる?」
「うん、いいよ。…あ、一緒にスーパー行きたい」
私達はしばらく水の流れに身を任せて、ぷかぷか浮いていた。
時計の針が3時半を指し示す。
事前にみんなには、この時間に帰ることを伝えてあったから、千陽も優里もレジャーシートに来てくれた。
べつに私1人で帰っても良かったんだけど、3人とも一緒に帰ってくれるみたいだった。
シャワーを浴びて、服に着替える。
この時間に帰る人は少なくて、朝は混み合っていた更衣室が、すいている。
穂の着替えているところを見たかったけど、キッと睨まれたから、おずおずと外に出る。
「あー、楽しかった」
壁に寄りかかって待っていたら、優里が出てきた。
優里が空を見上げて言う。
「だね。…そうだ、誉がみんなで海に行きたいって言ってたんだけど、優里、あいてる日ある?」
「えー!誉君が!?行きたい行きたい!ちょっと待って」
優里がスマホを出す。
「ん?っていうか“言ってた”って…?」
「ああ、一昨日から穂の家に遊びに行ってて」
「ひゃー、ラブラブだねえ」
優里の視線がスマホに戻る。
「優里はさ、私と穂が付き合ってるって、知ってるんだよね?」
「え?今更?」
「確認してなかったし」
「穂ちゃんから聞いたよ」
そっか。いつの間に…。
「18日なら平気そうだけど、どうかな?」
「私は大丈夫。たぶん穂も誉も。…千陽には一応確認しなきゃだね」
そういえば、毎年千陽と夏休みを過ごしていたけど、今年はあいつ、どう過ごすんだろう?
穂と過ごせることにばかり意識が向いて、全然考えられてなかった。
穂と千陽が出てきたから、私達は歩き出す。
2人に海に行く日を確認すると、大丈夫そうで安心した。
私と千陽が先に電車をおりる。
千陽がすぐに駅で別れようとするから、引き止めた。
「千陽、夏休み、どう過ごす予定なの?」
「珍しい…なに?急に」
「いや、いつも一緒に過ごしてたし…今年は私、穂と過ごす予定だから、どうするのか気になって」
千陽の目がスーッと細くなって、でもすぐに笑みを浮かべた。
久しぶりに見る笑顔な気がした。
ピョンピョンとジャンプして、私の腕に抱きつく。
「“1人ぼっちで寂しい。毎日泣いてる”って言ったら、またあたしと一緒にいてくれる?」
腕に胸を押し付けて、彼女は上目遣いに言う。
「本当に、泣いてるの?」
「さあ?…質問に答えてよ」
「…考える」
「じゃあ、もういい」
千陽がパッと手を離して、歩き始める。
「ちょっと待ってよ」
彼女の手を掴んで振り返らせると、唇を尖らせていた。
「泣いてるなら、一緒にいる」
胸がチクリと痛む。
本心は、穂と一緒にいたいと願ってる。
でも、千陽を泣かせたいとも思わない。
「べつに、泣いてないよ」
掴んだ手を、離された。
「あたし、今年はいろいろ計画立ててるから」
「計画?」
「永那には、関係ないこと」
「…そっか」
「…少しは、寂しい?」
「うん」
「嘘」
「本当だよ」
「ふーん」
千陽とジッと見つめ合う。
少しして「じゃあ、また」と手を振られた。
彼女の背中を、見えなくなるまで見続けた。
そして私も歩き出す。
少し寂しい。本当だよ。
でも私は、千陽を選べない。
千陽の好意に甘えている自分がいるのはわかってる。
…それでも私は、穂が良い。
穂が少し寂しそうに2人の背中を見送る。
「穂、流れるプールでも行く?」
少し考えてから、彼女は頷いた。
今度はちゃんと浮き輪を支えて、彼女を乗せる。
「本当は、永那ちゃんもスライダーに行きたかったよね?」
穂の声が不安げだから、彼女の手を握る。
「全然。私は穂と一緒にいたい」
「本当?」
「本当だよ。2人きりになれると思ってなかったから、嬉しい」
そう言うと、彼女は安心したように笑った。
「私も、永那ちゃんといられて嬉しい」
…あぁ、キスしたい。
普通にキスしているカップルが羨ましい。
日本人は道端でカップルがキスすることは少ないけど、プールになると開放的になるのか、キスしているカップルをよく見かける。
やっぱ水着だと露出が多くなるもんね。
「永那ちゃん?」
「ん?」
「私ね、何か、永那ちゃんと共通の趣味?みたいのを作りたい」
突然の提案に目を白黒させる。
「趣味?」
「うん、何かないかなあ?…永那ちゃん、前に漫画読むって言っていたけど、どんな漫画読むの?」
「あー…読むって言っても、友達に借りたり図書館にあるやつを読むって感じだから、趣味とまでは言えないかも」
「そっか」
私の趣味ってなんだ?
強いて言うならエロいこと…だけど…そんな趣味おかしすぎるだろ!恥ずかしくて人に言えないわ!
「穂は、本を読むのが好きだよね?」
「うーん…私も、なんていうか…暇潰しみたいな。もちろん嫌いじゃないけど、趣味とまでは言えない気がする」
「そっか」
趣味って難しいな。
「2人でできることなら、料理とか?」
「料理かー」
「私、この前穂が生姜焼き作ってくれたの思い出して、家でも作ったよ」
「そーなの?」
「うん。でもやっぱ、穂が作ったやつのほうがおいしかった」
「じゃあ、明日は一緒に作ってみる?」
「うん、いいよ。…あ、一緒にスーパー行きたい」
私達はしばらく水の流れに身を任せて、ぷかぷか浮いていた。
時計の針が3時半を指し示す。
事前にみんなには、この時間に帰ることを伝えてあったから、千陽も優里もレジャーシートに来てくれた。
べつに私1人で帰っても良かったんだけど、3人とも一緒に帰ってくれるみたいだった。
シャワーを浴びて、服に着替える。
この時間に帰る人は少なくて、朝は混み合っていた更衣室が、すいている。
穂の着替えているところを見たかったけど、キッと睨まれたから、おずおずと外に出る。
「あー、楽しかった」
壁に寄りかかって待っていたら、優里が出てきた。
優里が空を見上げて言う。
「だね。…そうだ、誉がみんなで海に行きたいって言ってたんだけど、優里、あいてる日ある?」
「えー!誉君が!?行きたい行きたい!ちょっと待って」
優里がスマホを出す。
「ん?っていうか“言ってた”って…?」
「ああ、一昨日から穂の家に遊びに行ってて」
「ひゃー、ラブラブだねえ」
優里の視線がスマホに戻る。
「優里はさ、私と穂が付き合ってるって、知ってるんだよね?」
「え?今更?」
「確認してなかったし」
「穂ちゃんから聞いたよ」
そっか。いつの間に…。
「18日なら平気そうだけど、どうかな?」
「私は大丈夫。たぶん穂も誉も。…千陽には一応確認しなきゃだね」
そういえば、毎年千陽と夏休みを過ごしていたけど、今年はあいつ、どう過ごすんだろう?
穂と過ごせることにばかり意識が向いて、全然考えられてなかった。
穂と千陽が出てきたから、私達は歩き出す。
2人に海に行く日を確認すると、大丈夫そうで安心した。
私と千陽が先に電車をおりる。
千陽がすぐに駅で別れようとするから、引き止めた。
「千陽、夏休み、どう過ごす予定なの?」
「珍しい…なに?急に」
「いや、いつも一緒に過ごしてたし…今年は私、穂と過ごす予定だから、どうするのか気になって」
千陽の目がスーッと細くなって、でもすぐに笑みを浮かべた。
久しぶりに見る笑顔な気がした。
ピョンピョンとジャンプして、私の腕に抱きつく。
「“1人ぼっちで寂しい。毎日泣いてる”って言ったら、またあたしと一緒にいてくれる?」
腕に胸を押し付けて、彼女は上目遣いに言う。
「本当に、泣いてるの?」
「さあ?…質問に答えてよ」
「…考える」
「じゃあ、もういい」
千陽がパッと手を離して、歩き始める。
「ちょっと待ってよ」
彼女の手を掴んで振り返らせると、唇を尖らせていた。
「泣いてるなら、一緒にいる」
胸がチクリと痛む。
本心は、穂と一緒にいたいと願ってる。
でも、千陽を泣かせたいとも思わない。
「べつに、泣いてないよ」
掴んだ手を、離された。
「あたし、今年はいろいろ計画立ててるから」
「計画?」
「永那には、関係ないこと」
「…そっか」
「…少しは、寂しい?」
「うん」
「嘘」
「本当だよ」
「ふーん」
千陽とジッと見つめ合う。
少しして「じゃあ、また」と手を振られた。
彼女の背中を、見えなくなるまで見続けた。
そして私も歩き出す。
少し寂しい。本当だよ。
でも私は、千陽を選べない。
千陽の好意に甘えている自分がいるのはわかってる。
…それでも私は、穂が良い。
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