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1.恋愛初心者
37.靄
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目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
たまにこういうときがあるけど、興奮しているから眠りが浅いのか、我ながらビックリする。
期末テストの日にはよくあることだ。
昨日の夜、クローゼットの扉に今日着る服を掛けておいた。
前に永那ちゃんが選んでくれた服。
もうかなり暑くなってきたから、これだけでも大丈夫かもしれない。でも朝方で少し肌寒い可能性もあるから、袖がゆったりしている薄手の白のカーディガンを羽織る予定だ。
もう一度鏡の前で服をあててみる。
散歩なのだから、もっとラフな格好でも良いのかもしれないけど、せっかくなら永那ちゃんに見てもらいたい。
私は頷いて、洗面台に向かった。
お母さんと誉を起こさないように、そーっと家を出た。
こんなに朝早いのは初めてかもしれない。
生徒会の活動でも、早くて駅に8時集合だ。
日曜日ということもあってか、駅前にはまだあまり人がいない。
朝の空気を目一杯吸い込んで、電車に乗った。
永那ちゃんの家の最寄り駅、電車で通り過ぎたことはあったけど、降りたことは一度もない。初めての場所。
しかも、こんな朝一番に永那ちゃんに会える…!それがたまらなく嬉しい。
ブラウンのポシェットの紐を握りしめる。
このバッグは、お母さんにプレゼントされたもの。家族で出かけるときは使ったことがあるけれど、同級生とのお出かけで使うのは初めてだ。
ワクワクしながら窓の外を眺めていると、あっという間に降りる駅についた。
改札を出ると既に永那ちゃんはいた。
彼女は黒のテーパードパンツに、黒のスウェットを着ていた。
私と目が合うと、ニコニコ手を振って、こちらに歩いてくる。
私も駆け寄ると「可愛い」と、頭をポンポンされた。
「服、よく似合ってるね」と微笑まれ、肩を撫でられる。
ああ、なんだか彼女みたい…。と、つい幸せに浸る。
「おはよ、穂」
永那ちゃんはどことなく疲れているようだった。
「おはよう、永那ちゃん」
彼女の目の下にはクマができている。
皮膚が薄いのか、彼女の肌は透き通っている。
だからクマはけっこう目立って、すごく具合が悪そうにも見える。
「永那ちゃん、無理してない?」
彼女の目が大きく開かれる。すぐに弧を描いて細くなる。
「無理してない。…会いたかったよ、穂」
ギュッと抱きしめられる。
私も抱きしめ返して、彼女の肩に顔を添えた。
私より少し背の高い彼女の肩は、なんだか居心地がいい。
彼女の匂いが鼻を通って、安心感を抱く。
「永那ちゃん、いい匂い」
「そう?何もつけたりしてないけど」
首元に鼻を近づけて、スンスンと匂いを嗅ぐ。
永那ちゃんは「くすぐったいよ」と笑った。
「ああ、でもシャワーは浴びてきたわ」
「そうなんだ」
「私は朝シャン派なんだ」
彼女の声も心地良い。このまま眠りたくなるくらい、心地良い。
「穂、寝てる?」
「…ん?」
顔を上げると、永那ちゃんが歯を見せて笑った。
「眠そう」
目元をさすってくれる。
「ごめんね、こんな朝早くて」
私は首を横に振って、さっき自販機で買ったお茶を飲む。
「私、永那ちゃんに会いたかったから」
「穂は眠いと、こんなに素直になるんだね。可愛い」
そう言われて、だんだん恥ずかしくなってくる。
ワクワクしすぎて興奮状態だったからか、永那ちゃんに会えた途端、プツンと糸が切れたみたいに、まどろみのなかにいた。
「あ、うぅ…。体育祭終わっても、結局2人であんまり話せなかったし」
「そうだね、ごめんね」
唇を尖らせると、彼女の唇が重なった。
一気に目が冴える。
彼女の背中の服をギュッと掴んで、ゾワリと鳥肌が立つ。
心臓がようやく目を覚ましたみたいに、ドクドクと音を立て始める。
彼女が優しく笑って、手を差し伸べた。
その手に私の手を重ねると、彼女は歩き出す。
しばらく何も話さないまま、ゆっくり街を歩いた。
小さな公園について、ベンチに座る。
「永那ちゃん」
「ん?」
「永那ちゃんは、どうして私を選んでくれたの?」
永那ちゃんは何度かまばたきをして、まっすぐこちらを見る。
少し考えるように宙を見て、もう一度目が合う。
「同じクラスになって、すぐ」
握っている手元を見つめる。
「すぐ、穂のことを好きになった」
「え?すぐ?」
同じクラスになってから、私達の接点なんてほとんどなかったはず。
「なかなか話す機会がなくて、でもずっと、2人で話したいなって思ってた」
その答えに戸惑いを隠せない。
「そしたら穂が“いたずらする”なんて耳元で囁くから、絶対このチャンスを逃したくないって思ったんだよ。仲良くなって、穂のことをたくさん知れて、やっぱり好きだなあって思った。…そしたら、誰にも取られたくないって焦ったし、私のことも好きになってほしいって思ったんだ」
モテる、恋愛経験豊富な永那ちゃんでも、焦ることがあるのだと、衝撃を受ける。
たまにこういうときがあるけど、興奮しているから眠りが浅いのか、我ながらビックリする。
期末テストの日にはよくあることだ。
昨日の夜、クローゼットの扉に今日着る服を掛けておいた。
前に永那ちゃんが選んでくれた服。
もうかなり暑くなってきたから、これだけでも大丈夫かもしれない。でも朝方で少し肌寒い可能性もあるから、袖がゆったりしている薄手の白のカーディガンを羽織る予定だ。
もう一度鏡の前で服をあててみる。
散歩なのだから、もっとラフな格好でも良いのかもしれないけど、せっかくなら永那ちゃんに見てもらいたい。
私は頷いて、洗面台に向かった。
お母さんと誉を起こさないように、そーっと家を出た。
こんなに朝早いのは初めてかもしれない。
生徒会の活動でも、早くて駅に8時集合だ。
日曜日ということもあってか、駅前にはまだあまり人がいない。
朝の空気を目一杯吸い込んで、電車に乗った。
永那ちゃんの家の最寄り駅、電車で通り過ぎたことはあったけど、降りたことは一度もない。初めての場所。
しかも、こんな朝一番に永那ちゃんに会える…!それがたまらなく嬉しい。
ブラウンのポシェットの紐を握りしめる。
このバッグは、お母さんにプレゼントされたもの。家族で出かけるときは使ったことがあるけれど、同級生とのお出かけで使うのは初めてだ。
ワクワクしながら窓の外を眺めていると、あっという間に降りる駅についた。
改札を出ると既に永那ちゃんはいた。
彼女は黒のテーパードパンツに、黒のスウェットを着ていた。
私と目が合うと、ニコニコ手を振って、こちらに歩いてくる。
私も駆け寄ると「可愛い」と、頭をポンポンされた。
「服、よく似合ってるね」と微笑まれ、肩を撫でられる。
ああ、なんだか彼女みたい…。と、つい幸せに浸る。
「おはよ、穂」
永那ちゃんはどことなく疲れているようだった。
「おはよう、永那ちゃん」
彼女の目の下にはクマができている。
皮膚が薄いのか、彼女の肌は透き通っている。
だからクマはけっこう目立って、すごく具合が悪そうにも見える。
「永那ちゃん、無理してない?」
彼女の目が大きく開かれる。すぐに弧を描いて細くなる。
「無理してない。…会いたかったよ、穂」
ギュッと抱きしめられる。
私も抱きしめ返して、彼女の肩に顔を添えた。
私より少し背の高い彼女の肩は、なんだか居心地がいい。
彼女の匂いが鼻を通って、安心感を抱く。
「永那ちゃん、いい匂い」
「そう?何もつけたりしてないけど」
首元に鼻を近づけて、スンスンと匂いを嗅ぐ。
永那ちゃんは「くすぐったいよ」と笑った。
「ああ、でもシャワーは浴びてきたわ」
「そうなんだ」
「私は朝シャン派なんだ」
彼女の声も心地良い。このまま眠りたくなるくらい、心地良い。
「穂、寝てる?」
「…ん?」
顔を上げると、永那ちゃんが歯を見せて笑った。
「眠そう」
目元をさすってくれる。
「ごめんね、こんな朝早くて」
私は首を横に振って、さっき自販機で買ったお茶を飲む。
「私、永那ちゃんに会いたかったから」
「穂は眠いと、こんなに素直になるんだね。可愛い」
そう言われて、だんだん恥ずかしくなってくる。
ワクワクしすぎて興奮状態だったからか、永那ちゃんに会えた途端、プツンと糸が切れたみたいに、まどろみのなかにいた。
「あ、うぅ…。体育祭終わっても、結局2人であんまり話せなかったし」
「そうだね、ごめんね」
唇を尖らせると、彼女の唇が重なった。
一気に目が冴える。
彼女の背中の服をギュッと掴んで、ゾワリと鳥肌が立つ。
心臓がようやく目を覚ましたみたいに、ドクドクと音を立て始める。
彼女が優しく笑って、手を差し伸べた。
その手に私の手を重ねると、彼女は歩き出す。
しばらく何も話さないまま、ゆっくり街を歩いた。
小さな公園について、ベンチに座る。
「永那ちゃん」
「ん?」
「永那ちゃんは、どうして私を選んでくれたの?」
永那ちゃんは何度かまばたきをして、まっすぐこちらを見る。
少し考えるように宙を見て、もう一度目が合う。
「同じクラスになって、すぐ」
握っている手元を見つめる。
「すぐ、穂のことを好きになった」
「え?すぐ?」
同じクラスになってから、私達の接点なんてほとんどなかったはず。
「なかなか話す機会がなくて、でもずっと、2人で話したいなって思ってた」
その答えに戸惑いを隠せない。
「そしたら穂が“いたずらする”なんて耳元で囁くから、絶対このチャンスを逃したくないって思ったんだよ。仲良くなって、穂のことをたくさん知れて、やっぱり好きだなあって思った。…そしたら、誰にも取られたくないって焦ったし、私のことも好きになってほしいって思ったんだ」
モテる、恋愛経験豊富な永那ちゃんでも、焦ることがあるのだと、衝撃を受ける。
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