君の行く末

常森 楽

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彼女はいつも明るかった。
人の些細な変化によく気がついて、それを褒めていた。

でも 全部を褒めるわけでもなく、本当に 素直に 自分が良いと思ったことを褒めているのが伝わってくる。

誰にでも優しいけど、必ず ずっと優しいわけじゃない。
誰にでも褒めるけど、絶対に 全部を褒めるわけじゃない。
そういう、絶妙な人間らしさみたいなのが、人を惹き付けたんだと思う。

彼女はたくさんの人と恋仲になって、短期間でたくさんの人を振った。
それでも彼女を恨む人がいなかったのは、彼女が愛らしかったからだと思う。
みんな彼女の優しさに癒されてたからなんだと思う。

私は、彼女とほとんど話したことがなかった。
彼女はいつも誰かに呼ばれていたし、私には程遠い存在だと思ってたから。

ただ、すれ違うときの香りが いつも私をときめかせて、ずっと頭から離れなかった。


高校2年生の秋、幼馴染みの翔太しょうたに告白された。
一緒にいて落ち着くし、友達という関係を崩したくなかったから 付き合うことにした。

耳まで赤く染まった翔太を見て、心が引いていくのを感じた。

私は、最低だった。

何回かデートを重ねて、手もつなぐようになってから、翔太は「今日は親がいないから、家に行こう」と言い出した。

断ろうか迷って、好奇心が勝った。

緊張しながら、慣れていたはずの翔太の家にあがる。
翔太も緊張しているみたいだった。

ミシミシときしむ階段をあがって、翔太の部屋に入る。

昔から変わらない家具。
戦隊ものや自動車のステッカーが、そこらじゅうに貼ってある。
本棚の、お姫様のキラキラしたステッカーは、私が貼ったんだ。

懐かしさを感じながら、ベッドを背に 床に座る。
翔太の息づかいで現実に引き戻された。

実結みゆ

彼の指が、そっと髪に触れた。
それだけで、全身がこわばった。

「し、翔太は……いつから、私のこと?」
「え?」

意表を突かれたように、彼は私から少し距離をとった。

「まあ、高校入ってからかな。でも、まさか実結も俺を好きだったなんて 信じられなくて、嬉しいよ」
「そっか」

精一杯の笑顔をつくった。

付き合ってから、彼には一度も「好き」と言ったことはなかった。
それが私の唯一の境界線に思えた。
超えたくない境界線。

翔太の細長い手が、腰にまわる。

「実結、俺……ずっとこうしたかった」
抱き寄せられて、翔太の固い胸板に顔をうずめる。

私の顎に指を添えて、彼は唇を近づけた。

私はバランスを崩しそうになって、慌てて彼の太ももに手をついた。
彼のモノが、硬くて 熱くなっていることに気づく。

制服越しにも伝わるその温度は、初めての感触で 怖くなった。

彼から離れようとして、止められる。

腕を掴まれ、彼のモノに手を押し当てられる。

強引に唇を重ね合わせ、彼の舌が口の中に入ってきた。

「んっ……やめ……」
引き離そうとするのに、力が強くて敵わない。

床に押し倒され、胸を揉みしだかれる。
生理前で、少し張った胸が痛い。

「実結って、おっぱい大きいよな」
ニヤついた翔太が、別人に思えた。

『ずっとこうしたかった』って、こういうこと?
翔太は、もしかして 私を" そういう対象 "としてしか見てなかったってこと?

怖くて、後悔しても遅くて、涙が溢れた。
自業自得なのはわかってて、翔太は何も悪くないこともわかってる。

(私って、ほんとバカだなあ……)

" 翔太なら大丈夫かもしれない "と、一瞬でも思った自分を殴りたい。
翔太だって、ちゃんと男の子じゃん。
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