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夜間歩行
愛しさ
しおりを挟む颯斗くんにスマホからメッセージを送る。
【風邪、どうですか? お見舞いに行っても大丈夫?】
先生は、行くなと言ったけど。やっぱり心配だし、会いたかったから。
授業中、ブブ♪ と鞄のスマホが振動すると、早く確認したくてウズウズしていた。
休み時間にメールを開くと、やっぱり颯斗くんからの返事。
【もう平熱なんだ。インフルエンザじゃないけど、美海にうつっちゃうよ】
これは、きっとダメだという返事じゃない。
【うつっても馬鹿だから平気】
ブブ♪
冗談なのに、怒ったスタンプ付きで返事がきた。
【馬鹿とか言うな。マジでうつっても知らないぞ】
【はーい】
【来るのかよ。うそ。会いたいよ、俺も】
″ 会いたい ″ ……
ニヤニヤが止まらない。
私は、颯斗くんの好きな食べ物を買って行くことにした。
「あら、美海さん、こんにちは」
颯斗くんのお家に行くと、何処かへ出かける様子のお母さんが出てきた。
「お見舞いに来てくれたの? あの子元気なのに申し訳ないわね」
その言葉にホッとする。
「いえ、プリントとか渡さないといけなかったし、私も颯斗くんとお話したくて」
……て。
彼のお母さんに言うのって変だよね。
「そう、ならゆっくりしていって。私、ちょうど買い物に行く所だったから」
フフ、と笑ったお母さんは私を快く部屋に上げてくれた。
「はい、お見舞い」
颯斗くんはベッドにいたけれど、お母さんの言うように、顔色良くて元気そう。
私は、ベッドそばの椅子に腰をおろした。
「めっちゃいい匂いがする。開けていい?」
「うん」
私からのお見舞いの食べ物を嬉しそうに開ける颯斗くん。
中を見て、私を見て、目を丸くしていた。
「すげーな、これ、唐揚げにチョコケーキ」
「颯斗くんの好きなモノばっかりだよ」
唐揚げは、颯斗くんが教えてくれた居酒屋さんの。
初めて寄り道して食べた時の、あの美味しさは忘れられない。
「確かに好き」
颯斗くんは、笑って唐揚げを一つつまんだ。
そして、直ぐにその顔を曇らせた。
「……ちゃんと考えて、なんて言ったくせに、俺も柔い奴だよな」
「……」
そうだった。
この間、そんな重い話をして終わったんだった。
人の何倍も老化が早い颯斗くん。
私の為にも、自分の為にも、一緒にいない方がいいのではって言っていた。
「それなのに。たった数日会えないだけで、俺は、とても辛かった。冬休みにアメリカに行った時よりも、なぜかとても長く感じたんだ」
純真で優しくて、六歳の頃から、大人の歪みや汚れを知らない颯斗くん。
「きっと、俺がああ言ったことで、美海が離れていくかもしれないって思ったからだ」
彼の言葉には、いつも偽りはない。
私は、大人の顔をして、子供のように悄気る颯斗くんが、とても愛しく思えた。
「私も、颯斗くんが風邪引いて学校来ないだけで、もうずっと会えない気がして、苦しかった」
私の言葉にも、偽りはない。
あの夜から丸々3日、私は眠れていないのだから。
お父さんとお母さんが喧嘩ばかりしていた頃みたいに、不安で、ドキドキして、目が冴えて、夜がとても怖かった。
「……それで、美海、クマが出来てたんだな」
颯斗くんは、クスッと笑って私のほっぺを軽くつねった。
「風邪、うつしても、いい?」
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