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変化

微笑み

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  颯斗くんの拳をもろに受けた上級生は、そのまま、壁と一緒に倒れてしまった。

「……ってぇ!く、ソ、血!」

  鼻血を見て、他の二人が反撃に出てきた。

「おいっ!何すんだよ?! 一年の癖にっ!」

「てめ、帰国子女だか何だか知らんけど調子乗んなよ!」

  どちらかの足が颯斗くんのお腹に入る。

  それでも、

「美海に謝れ」

  怯むどころか、颯斗くんは再び暴力に出ようとする。


 「ダメ!!」

 止めようとしても、私の制御なんていとも簡単に振り切る。
  突然変異でも起こしたように、血走ったまま、颯斗くんは上級生三人を殴り続けた。

 「キャアァァ!」「熊川っ!! お前、またっ……」

  クラスメートと、担任の先生がお化け屋敷が中に来た時には、上級生三人ともグッタリしていた。


「……颯斗くん」

  息を切らし、血だらけになった三人を見る彼の拳は、真っ赤に染まってた。

「……なんで……」

  ここまでするの?

  魂が抜けたように立ち尽くす颯斗くん。
  少しだけ私の身体が震えた。

「おい、これ、撤去するぞ!」

 怪我をした三人を運び出す為に、先生達が、お化け屋敷を壊していく。


「何で文化祭で揉め事起こすんだよ」

  先生は、呆然とする颯斗くんの背中を押して、職員室へと連れていこうとした。

「先生、熊川くんは私を助けてくれたんです」

  そんな私の訴えなんて、先生達は聞いていなかった。

「ほら、保護者が救急車呼んじまったぞ」

  あっという間に救急車とパトカーまでやって来た。


「颯斗くん!」

  ボンヤリとしたまま、抵抗することなくパトカーの方へ歩かされる颯斗くんを、生徒達だけじゃなく、文化祭に訪れていた客も遠巻きに見ていた。

「あいつ、また人殴ったんだって」

「こえー」

「あの人、冷凍されてたって本当?」

  私も、事情を聴かれる為に別の車で警察署に行くように促される。


  颯斗くんが、パトカーに乗り込む直前、その足を止める。
  
「おい、立ち止まるなよ」

  警官がグッと彼の肩を掴む。

「……み」

 私の方を振り返って、何か言おうとした途端に、颯斗くんは崩れ落ちた。

「おい!」「熊川!?」

「颯斗くん?!」

  まるで、積み木の真ん中から叩きつけられたように倒れた颯斗くん。
  私と同時に、近くに居た保健室の先生が駆け寄っていた。


「彼もまず病院に!」

  倒れた颯斗くんの意識は無かった。


「え、なに」「今の倒れ方凄くない?」

  集まっていた野次馬が再びザワツキ出す。

「演技じゃね? 警察行きたくなくて」

「いや、魂抜かれたみたいな倒れ方したぜ」

  その中に、私のお母さんの姿を見つけた。


「!」

 
 なぜか。

  微かに笑って颯斗くんを見つめていた。



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