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恋心

踏み出す勇気……

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「親が居ない隙に何してんのよ?!」

  二階から聞こえてくる悲鳴のようなわめき声に、颯斗くんは完全に固まっていた。

「勝手に入ってくんなよ?! 別にエッチしてたわけじゃないだろ?!」

「お母さんが入ってこなきゃ、そのままシてたでしょうがっ!」

「するかよ!! 下に妹がいるのにさっ!それに美海だって男連れてきてんじゃん!なんでそっちは何も言わねーんだよ?!」

  恥ずかしい言い合いに、とばっちりを受けそうな予感がした私は、

 「颯斗くん、じゃあね、本当に気をつけて帰ってね!」

「え?、う、うん」

  慌てて颯斗くんを家から閉め出した。

  その直後、バン!!と部屋のドアを閉められてしまったお母さんは、悔しそうな顔をして下へ降りてきた。

 「………な…によ、みんなしてお母さんを邪魔者扱いして、これだから男って……」

  ぶつぶつと文句を言うお母さんと目が合う。

 「……キレ過ぎだよ」

 普段ならスルーするヒステリックだけど、今日のは酷すぎる。
  私が呆れてそう呟くと、お母さんの顔はますます険しくなった。

「頭空っぽの癖に、偉そうな事言わないの!!」

  叫ぶお母さんの顔が、数学の先生の顔に見えた。

  その後しばらく続いたヒステリックに、完全に勉強する気持ちは削げられた。

「あの子ったら、キスしながら女の子の制服に手を入れてたのよ! 勉強ばっかりしてると思ったのに、どこであんなこと覚えたのよ!ホントに不健全!!」

 17・8の男の子が、勉強ばっかりしてたら逆に不健康だ。

  そう言いたいのも我慢してリビングで洗濯物を畳んだりしてた私。


「あの子がうちの病院を継がずに、どうでもいい女と結婚でもしたら、……もう死んだ方がマシよ」

 お母さんの病んだ言葉に、自然と心が傷付いていた。

 お母さんはやっぱり琢磨との生活にしか希望を持っていないんだ……と。

  簡単に″ 死 ″ という言葉を使う人に、病院の未来を心配する資格はないんじゃないかと、無性に腹立たしくもあった。


「……きっと、あの人も今頃あんな風にどこかの女とイチャイチャしてるのよ」

  そして、人を信じられないお母さんを可哀想にも思えた。

  洗濯物は綺麗に畳んだのに、その後もヒステリックを起こすお母さんによって、グチャグチャになって床に放り出される。

 ……お父さん。戻ってきてくれないかな。




  ーーーー


  翌日。
  下駄箱を恐る恐る開けたら、体育館シューズは消えてなかった。
  ……良かった。ホッとした。

  財布も戻ってこないし、お小遣い貰うまでは暫くこれで我慢しなきゃいけないから。

「おはよう」「おっはよ!」

  教室では、私に挨拶をしてくれるクラスメートは相変わらず居ないものの、私をバカにしたり噂するような視線や声は感じられない。

  昨日はあんまり勉強できなかったから、今のうちに理科の勉強しておこう。
  席に着いて参考書を開いていると、

「おはよう」

  颯斗くんの声が入り口から聞こえてきた。
  自然と心は弾む。

「……あ、おー、おはよ」

「……おはよう…」

  だけど。

「なんだ? 皆元気ねぇな」

  颯斗くんが言うように、皆の反応がいつもと違う。挨拶はするけど、ちょっと躊躇うような。

  いつも彼の机の周りは賑やかなのに、今日は一番仲のいい友達だけが颯斗くんに話しかけてるみたい。

  ……まさか。

  私のせい?  私と付き合ってるって噂があるから?


  ……だけど、颯斗くんへの皆の態度が違う理由が、他にもある事が分かった。


  休み時間。

  トイレの個室に入っていると、水道の所で何やら、「えー、きもーい」とか聞こえてきて、てっきりまた私の悪口を言ってるんだろうと出られずにいたら……。


「昨日、野沢ちゃんからライン来たときふざけてるのかと思ったけどさー」

「うん、絶対に違うでしょ?」

「でも颯斗くんが急に大きくなったり、最近の事を知らないってのも、野沢ちゃんのお姉さんの話が本当ならツジツマ合うんじゃない?」

「冷凍解凍人間?」

「確かに。アリゾナってそういう延命財団みたいなのあるらしいしさー」

  どうやら、昨日の話を野沢さんがお姉さんから聞いて、皆に拡散したみたいだった。

  事実ではあるけど。そんな広め方ってある?

  いつも、颯斗くんと楽しそうにしてたのに。

「いくらカッコ良くてもさぁ、脳の病気とかちょっと仲良くなれないよねぇ。そっちばかり気になってさ」

「颯斗くんと付き合えたらって秘かに思ってたけど、彼氏がそんな解凍ゾンビだったら嫌じゃない?」

  ……ゾンビとか……酷い。


 「あのっ」

 ドアを開けて文句言おうとしたけれど、

「あの里の彼氏なら丁度いいんじゃない?」

「うん、あいつと付き合ってるって噂になること自体キモいんだよ」

  やっぱり、私のことも要因にあるんだと分かると、勢い良く出ようとした言葉は全て飲み込んでしまった。

「あーあ、本物のイケメン転校してこないかなー」

「あはは、ほんとー」

  何でも思ったことを、正しいと思った事を言える颯斗君みたいになりたいって、……本気で思ってたのに。

  ……人って、なかなか変われない。




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