15 / 67
止まった時間
精神年齢
しおりを挟む「今日は一緒に帰ろう」
颯斗くんがそう言ってくれたので、六時限目を終えてから保健室にもう一度立ち寄ることに。
廊下で養護の先生と会った。
「彼のお迎え? できたら保護者の方と帰ってほしいのよね」
「……はい、そうは言ったんですけど……」
颯斗君も私に話したい事があるらしく、約束してしまった。
「……先生」
「なぁに?」
「熊川くんは脳震盪だったんですか?」
さっきの冴えない先生の表情が気になった。
「倒れたのはたぶんそうだと思うんだけど……倒れ方がちょっと気になってね」
「え……」
「熊川くんは何か持病持ってないのかな?と、それで親御さんにお話を聞きたかったの」
ーー彼の病気は、もしかして、まだ治ってないの?
「野沢さんのこと、すごい噂になっちゃったね」
歩きながら本題から外れたような事から話す。
校舎を出ると、カキーン!……と野球部が放つ爽快な音が響いていた。
「うーん……俺が野沢さんをフったってなってるけど、そうじゃないんだよな」
「違うの?」
「……うん。具体的に言うと、俺は女の子と付き合うとかそういう目線で捉えたことないんだよ」
″ 颯斗くんはゲイ ″
あの噂も本当だとは思ってないけれど。
「野沢さんみたいに可愛い人でも付き合いたいと思わないの?」
「……うん」
颯斗くんは謎が多い。
「美海も気が付いてただろ? 俺が急激に成長していったの」
「……え、うん」
「その体の成長に、心がまだ追い付いてないんだ」
「心が……?」
「やっと体は高校生になったけど、精神年齢はやっと中学一年生くらい」
謎だけど、颯斗くんの言葉には嘘はないような気がする。
他の同級生よりも、ずっと純粋な感じがするから。
「俺は、アリゾナに行ってから数年間、体の機能を全部停止させられていたんだ」
今。
琢磨の話していたことと、颯斗くんの言葉がリンクするーーー
「ニュースで話題になってた、有名なサッカー選手がアリゾナの冷凍会社に保存されていて、最近解凍されて復活したって話知ってる?」
「……うん」
昨日、琢磨に教えてもらったばかりのニュース。
「あれと一緒。俺は、五歳の時に脳に悪性腫瘍が見つかって、しかも手術出来ない場所だったから、治療法が限られてた……」
……颯斗くんの話はまるで、映画の中のストーリーみたいだった。
放射線治療に抗がん剤……。
子供が治療するには過酷な方法でガンをやっつけようと頑張ってみたけれど、やっぱりガンは小さくならなくて。
このままだと運動機能が壊されながら死を待つだけだと、医者も家族も悲観していたらしい。
でも。
どうしても、このまま死を待つことが耐えられなかった颯斗くんのご両親は、アメリカで広がりつつあった、″人間の冷凍保存 ″ に全てを賭けることにしたのだと言う……。
「そんなことが本当に出来るの?」
夏と秋の匂い混ざり合った校庭、
夕焼け雲ーー
いつもと変わらない日常ーー
その中で聞く颯斗くんの話はあまりにも現実離れしていた。
「10年くらい前から人間を液体窒素でいっぱいにして、記憶も機能もそのまま冷凍保存できる技術が確立されてたんだよ」
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
猫が作る魚料理
楓洋輔
ライト文芸
猫人間のモモ子は魚料理が大得意。ほっこりした日常を描くレシピ小説です。
香織(32歳)はモモ子と一軒家で同居している。モモ子は、二足歩行で言葉を喋る、人間と同じくらいの大きさの猫だ。猫だけに、いつもぐうたらと怠けているモモ子だが、魚が好きで、魚料理が大得意。魚料理は下ごしらえなどが面倒なので、怠け者のモモ子は手間のかからない、お手軽だけど絶品な魚料理のレシピを次々と披露する。そのレシピは、普段料理をしない人でも簡単にできてしまうようなものばかり。同じく同居人の誠也(22歳)と共に、仕事や恋に悩みながらも、香織はモモ子の魚料理を堪能していく。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる