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本題

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 ―――今日は、何かと忙しかった。

 退職しない限り、人事異動の決定は覆されることはないので、時間許す限り戸崎さんにKanedoの今後のスケジュールを引き継いだし、


「後藤さん! この週刊誌の金曜日締切の原稿チェック先にやって!」

 私が来月から居なくなる前に、と先輩オペレーター達からは雑用を押し付けられた。

「はい」

 ヨシとの約束、間に合うかな。

 本当は気が重くて、ピアスなんか捨ててくれていいのに、と思ってしまうけど。
 彼もまた、仕事が順調にいってるらしく多忙の中で私と会うみたいなので、遅れたくはない。

 時計を見つつ、何か読み残したメッセージがないかスマホを確認。

 そういえば、あれから月山さんから連絡がない……。



―――


 「ほら、ちょっと針、曲がってたから直しておいたぞ」

 愛車で現れたヨシは、特に機嫌が悪いという感じじゃなくて、それどころか小さな気遣いまで見せて、私の緊張を解きほぐしてくれた。

「……あ、ありがと」

 安物の、偽物の石。こんなピアス、直す価値もなかったのに。

 車に乗って直ぐにピアスを渡されて、なるべく早く本題に入りたかったのに、

「飯、付き合えよ、いい店あるから」

 ヨシは、普通のデートみたいに私を食事に誘う。
 ……話ってなんだろ?


「いらっしゃいませー」

 ヨシが変装もせずに私を連れて入った店は、都内でも人気の中華料理の店だった。

「中華とか食べるんだね」

 ピザも食べるんだから、当たり前だけど。

「雀の巣とかフカヒレばっか食うわけじゃねぇぞ、コンビニで中華まんとかも食うし」

「そうなの?」

 イメージ湧かない。

「ま、中華は油が多いからそんなに好きじゃないんだけどな。ここ、個室あるし、しゃぶしゃぶがウマイんだよ」

 ヨシは機嫌良く店内に入っていく。


「うそっ♪ ヨシだっ」

 そこでも、若い女性客に気づかれるヨシは、やっぱりスターなんだなって、思った。


「まずは軽く報告な。この前の曲、アルバムに入れて貰えることになった」

「そうなの?  早かったね! 決まるの。良かったもんねあの曲」

 軽く報告……。これ、メインの話じゃないんだ……。


  「しゃぶしゃぶとか食べたら、お酒飲みたくならない?」

 ヨシは、高級な霜降り肉をサッと通してパクパクと食を進めていく。
 なかなか本題には入らない。

「俺はそんなに酒飲みじゃない。鍋=アルコールはオッサンの考えじゃね? ……アイツみたいな」

 チクッ。
 機嫌良いと思っていたヨシも、月山さんのことを話すときは眉間にシワが寄る。
 親子関係は、私のせいで益々 険悪になったのかな。


「俺ばっか食ってんじゃん。遠慮せずに食えよ、ほら」

 食が進まない私のお皿に、ヨシが次つぎとお肉を乗せていく。

「こんなに食べれないよ」

「食えるって、今夜は体力消耗するんだから、しっかり食っとけよ」

 おまけに意味深な言葉をサラリと言う。

 なんに体力を……?
 聞かなくても分かってるけど。

 その前に、私、言えるのかな?








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