上 下
106 / 172

悲鳴 覚悟

しおりを挟む
 まさかまさかのよく知らないオッサンとのキス。
周りの女子社員から、

「キャアァァァァ″″」と悲鳴が聞こえてきた。

 ライヴの時に、ファンがあげるような歓喜の悲鳴ではないほうだ……。
  私の嫌いなニンニクとお酒が混じった口臭と、にゅるっとした厚い弾力が、唇全体を覆ってきた。

 な、

「何すんのよっ!??」

 ドン!!と、酔った課長を思い切り突飛ばし、周りから再び悲鳴と笑い声が聞こえて、唇を拭いながら、アハハハ! と豪快に腹を抱える加納を思い切り睨み付けた。

 タコ課長は、そのまま寄ってきた本山さんのお膝元に倒れて起き上がらない。

 ハッ!と気付いた時には、上座で飲んでいた月山さんが、怖い顔をして立ち上がっていた。

 マズイ。
 このままじゃ、月山さんが皆の前でタコ課長を殴ってしまう。

 私は、とっさにビールの入ったコップを手に取り、

「ひっ!!な、な、な、に」

 ゆで上がったタコに、ドボドホとそれをかけてしまう。

 「な、なんちゅーことすんだよっー! このアマーっ!!!」

 びしょ濡れになったタコ課長の頭に、ワカメみたいな髪がへばりついてて、起き上がった課長を見てた上層部達も笑っていた。

「ワハハ!  課長から先に手を出したんですからお互いさまですよー!」

 自分が吹っ掛けた癖に、課長をなだめるゲス加納。

 その背後で、ため息をついて、自分の席に戻る月山さんの姿が見えた。

 セーフだった、我ながらナイスな行動だった。


「二次会移動しますよー、皆サーん、会計済むまで外で待っててくださーい」

 飯田くんの誘導の声が聞こえて、先に失礼することを伝えようとしたら、

 Ririririri

ヨシから電話が掛かってきた。
一次会のあと、会う約束をしていたからだ。

「迎えに行く、店どのへん?」

電話のヨシは優しい。

「だ、大丈夫! まだ会社の人間がゴロゴロしてるから、色々面倒だし、駅までは歩くよ」

 ヨシが現れて、それを上層部にでも見られたら大変なことになる。

 月山さんはいるし、ドタキャン騒動で、うちの会社にも影響出てこの事態だし、何より、加納のアホが飲み会に参加しちゃってるから、ヨシと鉢合わせすれば、トラブルになることは目に見えている。

「あ、そ。じゃ、駅着く頃に向かうわ」

 ブツッ!

 電話が切れて、何となくホッ……。

 ヨシと向き合うつもりで、自らキスもしたのに……。
また、月山さんに心を揺れ動かされて……。
 キスまでしちゃって……。

 だから、今日こそ、ハッキリと自分の気持ちを確かめようと決めたじゃないの。
なのに、何で、びびってんのよ?

――店の外はかなり寒かった。もう冬だもんね。思わず上着のポッケに手を突っ込む。
 

「あ……飴玉……」

 ポケットの中に、戸崎さんから貰った飴玉が2つ入っているのに気づいた。

″ 味見してみたら?″

 ええ、そのつもりでヨシに会う気だった。

 抱かれたら、100%、ヨシに気持ちが傾くかもしれない。

 そう、期待して。


「えー、後藤さん、帰っちゃうのぉぉ?」

 酔っぱらった本山さんが、私なんかどうでもいいくせに、やけに絡んでくる。

「月山さん、もう九州に行っちゃうのよ~! あなた、彼の事、好きだったでしょ~! 薄情よ、ちゃんと最後まで付き合いなさいよ~!」

 余計な事を。

 自分だって月山さんのこと気になってたくせに、少し若い加納が来て目移りしちゃったでしょ?

「あー、私の代わりに本山さんが最後まで付き合ってくださいよー」

 居酒屋前で、次々とタクシーに乗り込む上層部、その中には月山さんの姿も。

「ほら、戸崎! 主役は先に着いてないと!」

 自身も主役の加納が、珍しく戸崎さんを嬉しそうに呼んでいた。

 年上に興味がないと言っていたけれど、皆にお酒を飲まされて、さらに色っぽくなった彼女に対し下心があるのが明らかだった。


「お気遣いなくー、女子組でタクシーに乗りますから~」

 お色気たっぷりでも、見た目ほど男に媚びたり安売りしたりしないのが戸崎さんだ。


「後藤さん、次のタクシーで行くわよ」














しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...