王冠にかける恋【完結】

毬谷

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第三章

夏の気配に思うこと。②

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朝陽の遊び相手をひとしきりした後、真加は自分の部屋に戻ってきた。

中学に上がる直前に引っ越したものだから、部屋にある家具にはほとんど馴染みがない。
この部屋のベッドで寝た回数より寮の二段ベッドで起きた回数の方が多い。
教科書などや服などの生活に必要なもの寮に置いており、真加の部屋はただの物置部屋だった。
まるで自分の部屋じゃないみたい。
真加は少し硬いベッドに寝転んだ。
両親は好きだ。朝陽のことだって世界にたった1人しかいない大事な弟だと思っている。
なのに何故、顔も見たくないような瞬間があるのだろう。どうして自分だけこんなに除け者にされているのだと思うのだろう。
兄は6年間全寮制だというのに、弟は自分のそばに置いておきたいのか。てっきり朝陽も天風に行かせるものだと思っていた。学力にもお金にも困っていないはずだから、父が言った「寂しいだろ」は真意だろう。
真加だって、母と同じ学校に通えること、この国で一番の学校に行けることは心の底から嬉しかった。しかし、中学から親元を離れての寮生活で、心細く思う夜もあった。たまに帰る家はすっかり「幼児が住む家」になってしまい、自分の家だと思えるフックがだんだんと少なくなっていく。
弟がアルファだとわかっていたとしても、両親は真加が天風に行くための教育投資をしてくれたのだろうか。
今となっては家計の心配など笑えるほど不要だが、天風に通うための費用が高いことには変わらない。そこを惜しまない両親にはありがたく思う。
真加はただただ天井の模様を見つめた。
自分がオメガだから?朝陽がアルファだから?こんなに苦しいのか。
幼い頃、無邪気に「父の会社を継ぐ」と言っていたが、いつから将来のことを言えなくなったのだろう。
あの頃は母は家で一日中真加と一緒にいた。父も忙しそうだったが夕方には帰ってきていた。貧しいながらも3人で寄り添って生きていた。今よりもっと心の距離が近かった。
そして今。天風に入った時はまだしも、成績は右肩下がりであまりパッとしない。こんな調子では、いつか朝陽にあっさりと何もかも超えられて、父に見切りをつけられるかもしれない。
ただ、真加と朝陽は歳の差があるので朝陽が後を継ぐまでの「中継ぎ」としてなら真加にも居場所はある。だから父は成績にうるさいのだ。ヘマもしない、華々しい功績もないが、最低限は仕事をしてもらわなけばならないから。






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