9 / 42
第三章
夏の気配に思うこと。②
しおりを挟む
朝陽の遊び相手をひとしきりした後、真加は自分の部屋に戻ってきた。
中学に上がる直前に引っ越したものだから、部屋にある家具にはほとんど馴染みがない。
この部屋のベッドで寝た回数より寮の二段ベッドで起きた回数の方が多い。
教科書などや服などの生活に必要なもの寮に置いており、真加の部屋はただの物置部屋だった。
まるで自分の部屋じゃないみたい。
真加は少し硬いベッドに寝転んだ。
両親は好きだ。朝陽のことだって世界にたった1人しかいない大事な弟だと思っている。
なのに何故、顔も見たくないような瞬間があるのだろう。どうして自分だけこんなに除け者にされているのだと思うのだろう。
兄は6年間全寮制だというのに、弟は自分のそばに置いておきたいのか。てっきり朝陽も天風に行かせるものだと思っていた。学力にもお金にも困っていないはずだから、父が言った「寂しいだろ」は真意だろう。
真加だって、母と同じ学校に通えること、この国で一番の学校に行けることは心の底から嬉しかった。しかし、中学から親元を離れての寮生活で、心細く思う夜もあった。たまに帰る家はすっかり「幼児が住む家」になってしまい、自分の家だと思えるフックがだんだんと少なくなっていく。
弟がアルファだとわかっていたとしても、両親は真加が天風に行くための教育投資をしてくれたのだろうか。
今となっては家計の心配など笑えるほど不要だが、天風に通うための費用が高いことには変わらない。そこを惜しまない両親にはありがたく思う。
真加はただただ天井の模様を見つめた。
自分がオメガだから?朝陽がアルファだから?こんなに苦しいのか。
幼い頃、無邪気に「父の会社を継ぐ」と言っていたが、いつから将来のことを言えなくなったのだろう。
あの頃は母は家で一日中真加と一緒にいた。父も忙しそうだったが夕方には帰ってきていた。貧しいながらも3人で寄り添って生きていた。今よりもっと心の距離が近かった。
そして今。天風に入った時はまだしも、成績は右肩下がりであまりパッとしない。こんな調子では、いつか朝陽にあっさりと何もかも超えられて、父に見切りをつけられるかもしれない。
ただ、真加と朝陽は歳の差があるので朝陽が後を継ぐまでの「中継ぎ」としてなら真加にも居場所はある。だから父は成績にうるさいのだ。ヘマもしない、華々しい功績もないが、最低限は仕事をしてもらわなけばならないから。
中学に上がる直前に引っ越したものだから、部屋にある家具にはほとんど馴染みがない。
この部屋のベッドで寝た回数より寮の二段ベッドで起きた回数の方が多い。
教科書などや服などの生活に必要なもの寮に置いており、真加の部屋はただの物置部屋だった。
まるで自分の部屋じゃないみたい。
真加は少し硬いベッドに寝転んだ。
両親は好きだ。朝陽のことだって世界にたった1人しかいない大事な弟だと思っている。
なのに何故、顔も見たくないような瞬間があるのだろう。どうして自分だけこんなに除け者にされているのだと思うのだろう。
兄は6年間全寮制だというのに、弟は自分のそばに置いておきたいのか。てっきり朝陽も天風に行かせるものだと思っていた。学力にもお金にも困っていないはずだから、父が言った「寂しいだろ」は真意だろう。
真加だって、母と同じ学校に通えること、この国で一番の学校に行けることは心の底から嬉しかった。しかし、中学から親元を離れての寮生活で、心細く思う夜もあった。たまに帰る家はすっかり「幼児が住む家」になってしまい、自分の家だと思えるフックがだんだんと少なくなっていく。
弟がアルファだとわかっていたとしても、両親は真加が天風に行くための教育投資をしてくれたのだろうか。
今となっては家計の心配など笑えるほど不要だが、天風に通うための費用が高いことには変わらない。そこを惜しまない両親にはありがたく思う。
真加はただただ天井の模様を見つめた。
自分がオメガだから?朝陽がアルファだから?こんなに苦しいのか。
幼い頃、無邪気に「父の会社を継ぐ」と言っていたが、いつから将来のことを言えなくなったのだろう。
あの頃は母は家で一日中真加と一緒にいた。父も忙しそうだったが夕方には帰ってきていた。貧しいながらも3人で寄り添って生きていた。今よりもっと心の距離が近かった。
そして今。天風に入った時はまだしも、成績は右肩下がりであまりパッとしない。こんな調子では、いつか朝陽にあっさりと何もかも超えられて、父に見切りをつけられるかもしれない。
ただ、真加と朝陽は歳の差があるので朝陽が後を継ぐまでの「中継ぎ」としてなら真加にも居場所はある。だから父は成績にうるさいのだ。ヘマもしない、華々しい功績もないが、最低限は仕事をしてもらわなけばならないから。
36
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜
みかん桜(蜜柑桜)
BL
バース検査でオメガだった岩清水日向。オメガでありながら身長が高いことを気にしている日向は、ベータとして振る舞うことに。
早々に恋愛も結婚も諦ていたのに、高校で運命の番である光琉に出会ってしまった。戸惑いながらも光琉の深い愛で包みこまれ、自分自身を受け入れた日向が幸せになるまでの話。
***オメガバースの説明無し。独自設定のみ説明***オメガが迫害されない世界です。ただただオメガが溺愛される話が読みたくて書き始めました。
恋のキューピットは歪な愛に招かれる
春於
BL
〈あらすじ〉
ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。
それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。
そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。
〈キャラクター設定〉
美坂(松雪) 秀斗
・ベータ
・30歳
・会社員(総合商社勤務)
・物静かで穏やか
・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる
・自分に自信がなく、消極的
・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子
・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている
養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった
・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能
二見 蒼
・アルファ
・30歳
・御曹司(二見不動産)
・明るくて面倒見が良い
・一途
・独占欲が強い
・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく
・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる
・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った
二見(筒井) 日向
・オメガ
・28歳
・フリーランスのSE(今は育児休業中)
・人懐っこくて甘え上手
・猪突猛進なところがある
・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい
・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた
・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている
・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた
※他サイトにも掲載しています
ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
人生やり直ししたと思ったらいじめっ子からの好感度が高くて困惑しています
だいふく丸
BL
念願の魔法学校に入学できたと思ったらまさかのいじめの日々。
そんな毎日に耐え切れなくなった主人公は校舎の屋上から飛び降り自殺を決行。
再び目を覚ましてみればまさかの入学式に戻っていた!
今度こそ平穏無事に…せめて卒業までは頑張るぞ!
と意気込んでいたら入学式早々にいじめっ子達に絡まれてしまい…。
主人公の学園生活はどうなるのか!
なぜか第三王子と結婚することになりました
鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!?
こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。
金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です
ハッピーエンドにするつもり
長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です
僕を愛して
冰彗
BL
一児の母親として、オメガとして小説家を生業に暮らしている五月七日心広。我が子である斐都には父親がいない。いわゆるシングルマザーだ。
ある日の折角の休日、生憎の雨に見舞われ住んでいるマンションの下の階にある共有コインランドリーに行くと三日月悠音というアルファの青年に突然「お願いです、僕と番になって下さい」と言われる。しかしアルファが苦手な心広は「無理です」と即答してしまう。
その後も何度か悠音と会う機会があったがその度に「番になりましょう」「番になって下さい」と言ってきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる