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【No.3】花の名前を母は知らない
しおりを挟むこの家の庭を見る度に思い出す事がある。
「友子、あれはね、とても綺麗だけど、使い方を間違えると、人を殺してしまう事ができる花なのよ」
そう、母から教わった。
母は、この世の事で知らないものは
無いのではないかと疑ってしまうほどの博学多識で
私は、いつも分からない事があると
迷わず母に聞いていた。
母は、私が想像したものの、更に上を行く回答を用意しており、幼いながらに、私の知識は、ミルミルと膨らんでいくばかりだった。
そんな母が、私の自慢だった。
あれから月日が流れ
あの頃の母より私は歳を取った。
愛する人と結婚をして
大切な子供が生まれ
子供はスクスクと成長し
母が私にした様に、自分の子供にも
沢山の知識と愛情を与えた。
その子供達も、それぞれの家庭を築いて
この家から出て行った。
数年前に旦那にも先立たれ
寂しさを押し殺す生活にも
ようやく最近、慣れてきた。
これから
この家は私1人になる。
「幸子さーん。どこにいらっしゃるのー?」
私を呼ぶ声が聞こえる。
「なんですお母さん」
「幸子さん、私ね、熱いお茶が飲みたいの」
屈託のない顔で母は言った。
私は、台所に行き客用の湯飲みに
出来立てのお茶を注いだ
熱々の湯飲みに二、三度息を吹きかけ
こぼれないよう、慎重に渡した。
「どうぞ、お母さん」
「良子さん、いつもありがとね」
屈託のない笑顔で母は答えると
湯飲みのお茶をすすった。
「いいんですよ、もう」
こんな風になってしまった母に対して
私はもう、これ以上なにも言うことは無かった。
「あら!明美さん!」
母は突然、宝石箱から宝物を見つけた
少女の様な声で、私に質問をしてきた
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その母の質問に
私は答えなかった。
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