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第2章 『対・四天王①』編

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 無言の圧力でお兄さんを追っ払った後──。
 私は、ヴァストークの森に来ていた。もちろん、一人で。

 ん……ちょっと、おかしいかな?
 半日前にさっき来たときと、様子が違うよ。

 何かこう……森全体から、変な圧力を感じるんだけど。
 表現すると、ザラザラしてるって言うかジメジメしてるって言うか。気持ち悪いって程じゃないけど、なんか不快指数が……うえぇ。

 でも、ハッキリと感じるものが一つ。
 奥の方から、結構なプレッシャーが来てる。むしろ、なんで今まで気づかなかったんだろ?ってぐらい強力だ。
 ………なぁるほど、隠蔽されてたのか。あと、このプレッシャー、《魔圧》って言うのね。てっきり、気配──準静電界だっけな?──の強化版かと思ってた。

「なら、やっぱ知能ありかぁ……」

 ともかく、コレで今回の標的エモノが《魔王》でないことが確定した。《四天王》かどうかまでは知らん。

 ……天気や地殻変動と同じく、事象の一つである《魔王》には思考能力がない。だから、地域や条件によって希薄になることはあっても、意図的に隠れたりはしないのだ。……イリオス曰く。


 つらつら色んなことに思考を泳がせながら、脳裏にスキル《世界辞典》で、ヴァストークの森内の『巨大蜘蛛ジャイアントスパイダー』の分布図を浮かべ、私は奥地へと進んだ。

 正直、《世界辞典》は、私の持つスキルの中でも最も反則的だと思う。
 何故なら、イリオスに教わった知識全てが載っていることに加え、常に最新版に更新可能なのだ。
 オマケに、自動記録オートメモリー機能付き。日記を書かなくても、昨日以前に何をしていたのか分かるのだ。超☆便利!

 ま、だからこそにゃ取得不可なんだが。


 おっとっと、話題がそれたな。
 余計なことを考えつつも、取りあえず順調に森の奥へと進めてるけど。
 ……あ、敵になりそうな生き物は一切エンカウントしてないよ。
 今回は、わざと魔力を滲ませてるからね!怖じ気づいて、寄ってこれないよ。よっぽどのことがなければ。

 ……、ね。

 そう思った瞬間だった。


───ピュィッ、エエエェェェェェエエェッッ


 甲高い獣の鳴き声。と同時に、周囲の魔圧と《シィーラ》のよどみが一層濃くなる。
 どうやら、私の気配か魔力に当てられて、あちらさんの方からおでなすったらしい。
 ……おい、私のここ数日の捜索はなんだったんだ。こんなことなら、しょぱなから魔力を流しときゃ良かった。

 まぁいい、なんにせよ。

「あはっ、手間が省けた───ねっ!」

 私は声の方に駆け出すと、《異空間収納》から取り出した双剣を振るい、辺り一体を斬り払った。瞬く間に視界が開け、戦闘しやすいフィールドが完成する。

 すまん、森の木々よ。君たちの尊い犠牲は忘れんぞ!

 ………って、あぁ【水】の回復魔法で癒せばいいか。ならば、後で!

「ここで会ったが百年目!
 会いたかったよ───《四天王》♪」

 剣と魔法で整地した場所に、躍りかかるように現れたのは──一頭の、大きな鹿。
 朱色の瞳以外、全身どこを見ても真っ白で、大角には青々とした葉が繁っている。狂ったように頭を振りたくり、威嚇を繰り返しているその様子から見て、どうやら完全に正気をなくしているようだ。
 見た目だけなら神秘的なのに……コレじゃあ、ねぇ。

 こっそり《世界辞典》を発動して、目の前の鹿の正体を調べる。と、出てきたのは、


樹角鹿アルベルコルノディーア★(白子アルビノ)』…頭部に角に似た魔樹を生やした鹿型の魔獣。多くは【地】の魔法を得意とするが、稀に【水】や【風】を得意とする個体も』


 とあった。


 ……むぅ、ちと厄介かな。
 なんせこの世界じゃ魔獣の白子個体は、魔力が多い傾向にある。仕組みはよく分からんけど、メラニンの代用に魔力の源《シィーラ》を使っているかららしい。
 さらに、『樹角鹿』はどうやら私と同じく魔法に秀でるタイプのようだし、骨はありそうね。
 まー、ただ倒すだけなら楽なんだよ?一瞬で命を刈れる自信がある。

 でも、ソレはできない。

 何故なら、この『樹角鹿』……このヴァストークの森の主個体だから。
 辞典に載っている種類名の後の「★」マーク。コレ、実は主の証なのだ。

 主個体とは、一定範囲のフィールド内に必ず存在する、管理者のようなもの。ダンジョンだとボスがソレに該当する。
 んで、その基本的役割は、支配下にある《魔物》の管理と自身の担当するフィールド内の《魔獣》の抑制。大雑把に言えば、他所よそに迷惑をかけないようにすることかな。大家さんみたいなものとも言う。
 通常、主個体はフィールド内で最も強い《》から選ばれる。で、代替わりは主個体が死んだら、自動的に次が指名されるようになってるらしい。

 しかーし、問題なのはココからだ。
 天寿を全うした上での代替わりなら、混乱なくスムーズに進む。主個体は寿命が近くなると、徐々に次代に管理権を移すからだ。
 けど、逆を言えば天寿を全うする以外での代替わりは問題しかない。次代の選別しかり、管理権の移譲しかり……最悪、《魔物》・《魔獣》の集団暴走スタンピードを引き起こす。

 ソレで被害を受けるのは近くの町や集落。
 ココなら間違いなく──《ドロワヴィル》だ。


 つまり、私は《四天王》になってしまったこの『樹角鹿』を、殺らずに倒さなければならない。
 
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