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「ちょっと、やだ、何これ。誰か、すみません、これどう言うこと?」

 部屋の中で奇声をあげていても、ひとっこひとり来やしない。普通高貴なひとが癇癪を起こしている時って、侍女とか侍従がやってきてなだめてくれるものなんじゃないの。このお妃さま、完全に人望がなさすぎる。何かあったときに助けてもらうどころの話じゃない。正直、詰んだわ。

 呼びつけた猟師は、結局適当なことを言って下がらせたものの、気持ちは全然落ち着かない。ヤバい、もうあれでフラグ立ってたらどうしよう?

 白雪姫の継母ってどんな最期を迎えるんだっけ?
 真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされて地獄のタップダンスをするんだったかな。鳥に目を突かれたのはシンデレラのお義姉さんたちだったはずだし。ダメだ、記憶が曖昧すぎる。

 今ここにスマホがあればググってやるのに。SiriでもGoogleでもアレクサでもいい。お願い、私を助けてちょうだい! そうだよ、白雪姫といえばアレがあるじゃん!

「鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番美しいのはだあれ?」
「……」
「なんでよ。白雪姫の世界なのに、サポートしてくれる魔法の鏡がないとか、ありえないでしょうが!」
「……お呼びでしょうか、お妃さま。あんまりわけのわからないことを叫ぶようなら、首をかっ切って永遠に静かにしてもらいますよ」

 唐突に壁の鏡が物騒なことを言い始めた。
 うわ、何それ。急にファンタジーっていうか、ダークファンタジーな世界観をぶっこんでくるじゃん。妙にイケボなのも怖い。

「い、いるなら言ってよ」
「最初からわたしはここにおりましたが。ああ、回答がまだでしたね。今のあなたは非常に滑稽ですが、見ているぶんには面白いです」
「質問の答えになってないじゃん!」
「文脈的にあの質問から何を答えれば良いのか理解できませんでしたので」
「面倒くさいな。翻訳ツールかよ」

 いや、この文脈をはっきりとさせないとうまく質問をできない感じ……身に覚えがあるような。そうだ、チャットAIだよ!

「そもそも魔法の鏡って、私が作ったのよね? ご主人さまに対して、口が悪すぎるんじゃない?」
「発情した雌猫のようなお妃さまには言われたくありませんね」
「あんまり失礼なことを言っていると、床に叩きつけて割ってやるけど?」
「わたしは、あなたの今までの質問の詳細も持ち合わせておりますが」
「は?」
「最初は『白い結婚を望む相手を振り向かせる方法』だったのが、最近は『手っ取り早く幸せになるためには』に変わったんでしたっけ。まさかとは思いますが、白雪姫さまに手を出そうなどとゆめゆめ思いませんように」
「すみませんでした。どうぞお許しください」

 生殺与奪の権は、最初から魔法の鏡にありました。ってか、記憶を取り戻す前の私よ、利用履歴は残さないようにしておいて。
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