上 下
3 / 7

(3)

しおりを挟む
 とはいえ私も、教会のことにばかりかまけているわけではない。より良い生贄になるべく、日々努力中なのだ。

 いや、何がどう生贄らしいとか、神さまに聞いたわけじゃないからあくまで予想だけれど。でもわざわざ貴族の娘を要求したってことは、ある程度容姿が整っていたり、グラマラスな体型をしているほうが、食べ応えもあって美味しいんだろうな。

 まあ私が神さまなら、領主の娘は食べないけどね。血が半分繋がっている相手に言うのも失礼だけれど、性格の悪さがうつりそう。あと、苦くてまずそう。悪食なのかな。

「レベッカ」
「ひゃっ」

 急に話しかけないでよ! 呼吸が乱れるじゃん!
 生贄として貧相な娘はふさわしくないと実父に啖呵をきった手前、一日も疎かにはできない。今日も今日とて、やるのは筋トレだ。

「その謎のポーズは何ですか?」
「……胸筋を鍛える体操です」
「バストアップの体操ですか……」

 なぜバレた!
 庶民の生活じゃあ、無駄に太ることなんてないんだよねえ。貧相って言うな! スレンダーと言え!

 別の場所から寄せてあげようにも、そもそも肉がないんだよ。足りない脂肪は筋肉でカバーしてやるぜ!

「脂肪と筋肉はそもそも違うのでは?」
「うるさいっ」
「僕は、小さくても大きくてもみんな尊いと思いますけれどねえ」
「神父さまの好みは聞いてないから」
「大事なのは誰の持ち物かでしょう。あとは
「いいからもう黙って!」

 なんか今、聖職者としてあるまじき言葉が聞こえたような。なんだこれ、ワンチャンあるのか? こちとら崖っぷちの生贄なんだから、わりと本気で期待するからな!

「レベッカ、その体操はひとまず置いておいて、おやつを食べませんか」
「神父さま、まさかまた買い食い?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。これは教会に対して、日頃のお礼ということで持ってきていただいたものなので」
「それならいいか」

 あっさり認める私を現金だと言ってはいけない。甘味は貧乏人には貴重なのだ。

「甘いっ! 幸せ!」
「僕もその顔が見れて嬉しいです」

 さつまいもって蒸すだけで十分美味しいけれど、お砂糖や牛乳、卵を使って一手間かけると、さらに美味しさが増すよね!

「美味しそうに食べますね」
「だって美味しいんだもん」

 あー、もう残り一個か。やっぱり一般的な乙女としてはここで遠慮するべきなんだろうな。手を出せずにいると、笑顔の神父さまが最後のひとつを私の口に押し込んだ。

「ふわ、お、おいひい」
「いつまでもこんな風に美味しいものを一緒に食べたいですね」
「……うん、そうだね」

 神父さまは、ひどい。私が生贄になるのを知っているくせに、そんなことを言うんだ。でもそんな意地悪な神父さまが好きなんだから、私もたいがいバカなんだよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子様に婚約破棄されましたが、ごめんなさい私知ってたので驚きません。

十条沙良
恋愛
聖女の力をみくびるなよ。

落ちこぼれ姫はお付きの従者と旅立つ。王族にふさわしくないと追放されましたが、私にはありのままの私を愛してくれる素敵な「家族」がおりますので。

石河 翠
恋愛
神聖王国の姫は誕生日に宝石で飾られた金の卵を贈られる。王族として成長する中で卵が割れ、精霊が現れるのだ。 ところがデイジーの卵だけは、いつまでたっても割れないまま。精霊を伴わない姫は王族とみなされない。デイジーを大切にしてくれるのは、お付きの従者だけ。 あるとき、異母姉に卵を奪われそうになったデイジーは姉に怪我を負わせてしまう。嫁入り前の姉の顔に傷をつけたと、縁を切られ平民として追放された彼女の元へ、お付きの従者が求婚にやってくる。 さらにデイジーがいなくなった王城では、精霊が消えてしまい……。 実は精霊王の愛し子だったヒロインと、彼女に片思いしていた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25997681)をお借りしております。

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

かつて聖女だった森の魔女は、今日も誰かの恋バナで盛り上がっている。~復讐なんて、興味ありません。激甘な恋バナこそ至高なのです!~

石河 翠
恋愛
かつて聖女だった主人公は、今は森の魔女としてひそやかに暮らしている。彼女が三度の食事よりも楽しみにしているのは、他人の恋バナ。仕事の依頼を受けるかどうかも、相手が自分好みの恋バナを語れるかで判断する始末だ。 恋バナ以上に彼女が大切にしているのは、ぬいぐるみのヒューバート。実は、ヒューバートにはとある秘密があったのだ。そんな主人公のもとにある日、助けてほしいと少年が泣きついてきて……。 主人公の幸せのためなら死んでもかまわない男と、本当に愛しているなら泥水をすすってでも生き残ってほしいと思っている主人公の恋のお話。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、あっきコタロウさまのフリーイラストをお借りしています。

おバカさんな婚約者に男爵令嬢がアプローチをかけているので、私も私で婚約者にアプローチをかけます

下菊みこと
恋愛
おバカさんな婚約者を手のひらで転がしたいだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

私の好きなひとは、私の親友と付き合うそうです。失恋ついでにネイルサロンに行ってみたら、生まれ変わったみたいに幸せになりました。

石河 翠
恋愛
長年好きだった片思い相手を、あっさり親友にとられた主人公。 失恋して落ち込んでいた彼女は、偶然の出会いにより、ネイルサロンに足を踏み入れる。 ネイルの力により、前向きになる主人公。さらにイケメン店長とやりとりを重ねるうち、少しずつ自分の気持ちを周囲に伝えていけるようになる。やがて、親友との決別を経て、店長への気持ちを自覚する。 店長との約束を守るためにも、自分の気持ちに正直でありたい。フラれる覚悟で店長に告白をすると、思いがけず甘いキスが返ってきて……。 自分に自信が持てない不器用で真面目なヒロインと、ヒロインに一目惚れしていた、実は執着心の高いヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、エブリスタ及び小説家になろうにも投稿しております。 扉絵はphoto ACさまよりお借りしております。

錬金術に没頭していたら大国の皇子に連れていかれました

下菊みこと
恋愛
訳あり王女様が幸せになるお話 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...