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桜咲く終末をきみと(1)
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毎週土曜日は揚げ物の日だ。冷めたアジフライを、オーブントースターで温める。電子レンジを使うよりも時間はかかるけれど、衣の口当たりが全然違うことを僕は最近覚えた。週末のおかずがきまって揚げ物になってしまうのは、近所のスーパーの特売品が揚げ物だからだ。
温め直した小分けの冷凍ご飯、納豆とインスタントの味噌汁、アジフライをお盆にのせて台所を出た。昼間だというのに薄暗い居間には、仏壇に供えたみかんと線香の匂いが漂っている。つけっぱなしのテレビ画面にニュース速報のテロップが流れた。
――桜が世界を滅ぼすと判明――
「はあ、何言ってんの。エイプリルフールにはまだ早いって」
僕のつっこみをよそに臨時ニュースは流れ続けた。なりやまないメロディに頭が痛くなる。やがて番組そのものが緊急特番に切り替えられた。チャンネルを変えてみても、みな同じような状況だ。政府のなんとか担当大臣、どこかの研究機関の博士たち。誰もが悲壮感に満ちた顔で奇天烈な現象を解説しはじめる。
桜が及ぼす危険性について。
考えられる経済への影響。
各国の対策。
必要となる法整備の内容。
国民へのお願い。
大真面目な議論に、ニュース速報が冗談や誤報などではなかったことを実感する。
気がつけば食べかけのアジフライが畳に滑り落ちていた。日に焼けた畳が黄色く油で光り、焦げた衣が辺りに散らばっている。祖父が生きていたら、アリが来るだの虫がわくだの大騒ぎしたことだろう。
「一体どうなってるんだよ」
僕は頭が働かないまま、台拭きで畳の汚れをぬぐう。ぬるついた手を痺れるような冷水で洗い続けたけれど、こびりついた不快感はとれないままだ。
桜の一斉処分が決められたのはそれからすぐ、僕の町の桜の開花予想日まであと数日に迫った日のことだった。
温め直した小分けの冷凍ご飯、納豆とインスタントの味噌汁、アジフライをお盆にのせて台所を出た。昼間だというのに薄暗い居間には、仏壇に供えたみかんと線香の匂いが漂っている。つけっぱなしのテレビ画面にニュース速報のテロップが流れた。
――桜が世界を滅ぼすと判明――
「はあ、何言ってんの。エイプリルフールにはまだ早いって」
僕のつっこみをよそに臨時ニュースは流れ続けた。なりやまないメロディに頭が痛くなる。やがて番組そのものが緊急特番に切り替えられた。チャンネルを変えてみても、みな同じような状況だ。政府のなんとか担当大臣、どこかの研究機関の博士たち。誰もが悲壮感に満ちた顔で奇天烈な現象を解説しはじめる。
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必要となる法整備の内容。
国民へのお願い。
大真面目な議論に、ニュース速報が冗談や誤報などではなかったことを実感する。
気がつけば食べかけのアジフライが畳に滑り落ちていた。日に焼けた畳が黄色く油で光り、焦げた衣が辺りに散らばっている。祖父が生きていたら、アリが来るだの虫がわくだの大騒ぎしたことだろう。
「一体どうなってるんだよ」
僕は頭が働かないまま、台拭きで畳の汚れをぬぐう。ぬるついた手を痺れるような冷水で洗い続けたけれど、こびりついた不快感はとれないままだ。
桜の一斉処分が決められたのはそれからすぐ、僕の町の桜の開花予想日まであと数日に迫った日のことだった。
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