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「殿下、お帰りになったはずでは?」
「貴様ももう十分に反省した頃だと思ってな」

 あー、さっきの筋肉ダルマたちをしかけたのは王子さまってことか。相手のプライドをへし折り、あわよくば公妾にする予定の女の子を抱かせる能力を奪うつもりだったってこと? いや、まじでこいつクズなのでは?

 急いでリスになった私は、坊っちゃんの上着のポケットからクズ王子を観察する。

「ですから、何度言われてもお申し出はお引き受けできません」
「貴様が役に立つ機会を与えてやろうと言うのに、なんという態度だ」
「俺には愛する女性がおりますので」
「は、堅物のお前にか? どこにいる。見せてみろ」
「はい、ここに」

 えー、私ですか!
 言い訳にしてももっとマシなものにしてくださいよー。思わず不満たらたらの可愛くない声でグギギギと抗議してしまった。

「絵画に恋をした愚かな男の話は聞いたことがあるが、リスと結婚するつもりだと?」
「何か問題でも?」
「リスには戸籍がないだろうが!」

 ですよねー。まあ、捨て子の私にも、戸籍はないんだけれど。っていうか戸籍を取得するの難しすぎるのなんで? 子どもは無からは生まれないよ? 見えない=いないにしないでくれる?

「つまり、戸籍があれば良いのですね?」
「できるものなら、やってみろ」
「承知しました」

 坊っちゃん、煽るねえ。王子さま、青筋たってるじゃん。こういう時の坊っちゃんって性格が悪いんだよなあ、本当に。

「ええい、戯れ言もいい加減にしろ!」
「ですから……」
「ならば、こいつがどうなってもいいのか!」
「殿下!」
「返して欲しければ、こちらの言うことを聞くがいい」

 ぐええええええ。

 またしっぽで逆さ吊り! いきなり、巻き込むのやめてくれます? こちとら、ただのリスなんだってばよ。

「殿下、落ち着いてください」
「うるさい! うるさい!」
「……殿下」

 あ、ヤバい。これ、坊っちゃんが切れる5秒前だ。

 ちっ、暴風雨が吹き荒れる前に自力で逃げるしかないか。逆さ吊りタイプの罠は、こうやって脱出できるってね!

 秘技、しっぽ切り!!!

 ……ううう、もふもふしっぽ、つるんって抜けた……。ああああ、私のしっぽ……。今日から私はただのネズミ……。

 いや、背に腹は変えられん。さあ、坊ちゃん。今のうちに脱出を……。

「俺のポーラに何をする!」

 え、坊っちゃん、王子さまが吹き飛んだよ? 穏便に交渉していくんじゃなかったっけ?

「やめろ、離せ。止めてくれるな」

 腕に絡みつきながら、きゅいきゅいと必死でなだめる。もう勘弁して。坊っちゃん、監獄が崩壊するから。生き埋めはいやなの! 坊っちゃんこそ、落ち着いてえええええ。

 しかし、しっぽのとれたリスにできることはほとんどないわけで。

 私の願い虚しく、魔石を一気に吸収し枷を力技でねじきった坊ちゃんは、解き放たれた巨人のようにダメ王子もろとも一帯を叩き潰していた。

 閣下、坊っちゃんがこれだけの騒ぎを起こすことを予想した上で、私をここに送り出したよね?
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