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 結婚式当日、ハリエットは親友として、また近しい親族として甲斐甲斐しくエミリーの世話を焼いていた。それが伯母には納得がいかないらしい。

(教会の隅っこで、ハンカチを噛み締めながら悔しがっていてほしかったのかしら?)

 ハリエットは疑問に思いつつも、結婚式当日というのはいろいろと忙しい。そのため伯母の相手が適当になっていたようで、式の終わりに取っ捕まってしまった。怒れるご婦人というものは、同性であっても正直恐ろしい。

(もうすぐ一番大事なところなのに)

 肩をすくめながら、ハリエットは伯母を所定の位置に連れていく。

「どうしてそんなに笑っていられるの! 悔しいでしょう? 自分の好きなひとが、自分以外のひとと結婚するのよ!」
「従姉妹であり親友であるエミリーの門出を祝うことは、当然のことです。ほら伯母さまも、どうぞ空をご覧になって」

 抜けるような青空に、光の花が咲く。ひとつ、ふたつ、みっつ。光の花が空を彩るたびに、参列者からは歓声が湧く。特別な魔術によるフラワーシャワー。

 本来ならば国の祝賀行事などでしか披露しない魔術師団のとっておきの魔術だ。王族以外の結婚式で振る舞われるのは、それこそ花嫁花婿が魔術師団の団員か、相当に縁のある人物であるときくらい。

 の結婚式で、この光の花が空に咲くなんて誰も予想してはいなかったのだ。

 光の花はゆっくりと本物の花びらに姿を変え、ひらりひらりと花嫁たちの上に降り注いでくる。

「どうして、光の花が……?」

 喜びよりも戸惑いが大きい伯母とそんな彼女を落ち着かせようとしている伯父、その隣で大はしゃぎの新郎新婦たち。ハリエットは意を決して、を紹介することにした。

「伯母さま、ご紹介いたします。私の夫のサイモンです。魔術師団の団長を務めています。エミリーのご主人とは親友だそうで」

 にこにこと満面の笑みを浮かべたエミリーがハリエットに抱きついてくる。

「ハリエット、好きなひとと無事に結婚できたのね。おめでとう!」
「ありがとう。これも全部エミリーのおかげよ」

 最近までただのハリエットの恋人だった魔術師団長は、婚約者を飛び越えて一気に夫になっていた。

 ハリエットの母親は魔術嫌いだ。もともと魔術が得意なのは、この国の先住民の血を引くもの。彼らのことを「蛮族」と蔑んでいたハリエットの母は、たとえ魔術師団長が相手であろうと結婚を認めてはくれなかった。

 それが『好きなひとを盗られたと誤解されたまま式に出るなんて恥ずかしい』と訴えれば、今までのことが嘘のように簡単に結婚を認めてもらうことができた。娘が恥をかくことを憂いたのではなく、エミリーに負けた形になるのが許せなかっただけのようだが。

 それは、文官系の家系であり、騎士団をあまり快く思っていないエミリーの母親が、「ハリエットの好きなひとを盗った」と嘘をついたことで、簡単に結婚に許可を出したのと同じようなものだ。

 母親に振り回されてきたハリエットとエミリーは、母親同士の確執を自分たちの初恋を叶えるために利用した。それは良くないことなのかもしれないけれど、そろそろハリエット達だって自由になってもいいはずだ。
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