5 / 7
(5)
しおりを挟む
結婚式当日、ハリエットは親友として、また近しい親族として甲斐甲斐しくエミリーの世話を焼いていた。それが伯母には納得がいかないらしい。
(教会の隅っこで、ハンカチを噛み締めながら悔しがっていてほしかったのかしら?)
ハリエットは疑問に思いつつも、結婚式当日というのはいろいろと忙しい。そのため伯母の相手が適当になっていたようで、式の終わりに取っ捕まってしまった。怒れるご婦人というものは、同性であっても正直恐ろしい。
(もうすぐ一番大事なところなのに)
肩をすくめながら、ハリエットは伯母を所定の位置に連れていく。
「どうしてそんなに笑っていられるの! 悔しいでしょう? 自分の好きなひとが、自分以外のひとと結婚するのよ!」
「従姉妹であり親友であるエミリーの門出を祝うことは、当然のことです。ほら伯母さまも、どうぞ空をご覧になって」
抜けるような青空に、光の花が咲く。ひとつ、ふたつ、みっつ。光の花が空を彩るたびに、参列者からは歓声が湧く。特別な魔術によるフラワーシャワー。
本来ならば国の祝賀行事などでしか披露しない魔術師団のとっておきの魔術だ。王族以外の結婚式で振る舞われるのは、それこそ花嫁花婿が魔術師団の団員か、相当に縁のある人物であるときくらい。
騎士団長の結婚式で、この光の花が空に咲くなんて誰も予想してはいなかったのだ。
光の花はゆっくりと本物の花びらに姿を変え、ひらりひらりと花嫁たちの上に降り注いでくる。
「どうして、光の花が……?」
喜びよりも戸惑いが大きい伯母とそんな彼女を落ち着かせようとしている伯父、その隣で大はしゃぎの新郎新婦たち。ハリエットは意を決して、彼を紹介することにした。
「伯母さま、ご紹介いたします。私の夫のサイモンです。魔術師団の団長を務めています。エミリーのご主人とは親友だそうで」
にこにこと満面の笑みを浮かべたエミリーがハリエットに抱きついてくる。
「ハリエット、好きなひとと無事に結婚できたのね。おめでとう!」
「ありがとう。これも全部エミリーのおかげよ」
最近までただのハリエットの恋人だった魔術師団長は、婚約者を飛び越えて一気に夫になっていた。
ハリエットの母親は魔術嫌いだ。もともと魔術が得意なのは、この国の先住民の血を引くもの。彼らのことを「蛮族」と蔑んでいたハリエットの母は、たとえ魔術師団長が相手であろうと結婚を認めてはくれなかった。
それが『好きなひとを盗られたと誤解されたまま式に出るなんて恥ずかしい』と訴えれば、今までのことが嘘のように簡単に結婚を認めてもらうことができた。娘が恥をかくことを憂いたのではなく、エミリーに負けた形になるのが許せなかっただけのようだが。
それは、文官系の家系であり、騎士団をあまり快く思っていないエミリーの母親が、「ハリエットの好きなひとを盗った」と嘘をついたことで、簡単に結婚に許可を出したのと同じようなものだ。
母親に振り回されてきたハリエットとエミリーは、母親同士の確執を自分たちの初恋を叶えるために利用した。それは良くないことなのかもしれないけれど、そろそろハリエット達だって自由になってもいいはずだ。
(教会の隅っこで、ハンカチを噛み締めながら悔しがっていてほしかったのかしら?)
ハリエットは疑問に思いつつも、結婚式当日というのはいろいろと忙しい。そのため伯母の相手が適当になっていたようで、式の終わりに取っ捕まってしまった。怒れるご婦人というものは、同性であっても正直恐ろしい。
(もうすぐ一番大事なところなのに)
肩をすくめながら、ハリエットは伯母を所定の位置に連れていく。
「どうしてそんなに笑っていられるの! 悔しいでしょう? 自分の好きなひとが、自分以外のひとと結婚するのよ!」
「従姉妹であり親友であるエミリーの門出を祝うことは、当然のことです。ほら伯母さまも、どうぞ空をご覧になって」
抜けるような青空に、光の花が咲く。ひとつ、ふたつ、みっつ。光の花が空を彩るたびに、参列者からは歓声が湧く。特別な魔術によるフラワーシャワー。
本来ならば国の祝賀行事などでしか披露しない魔術師団のとっておきの魔術だ。王族以外の結婚式で振る舞われるのは、それこそ花嫁花婿が魔術師団の団員か、相当に縁のある人物であるときくらい。
騎士団長の結婚式で、この光の花が空に咲くなんて誰も予想してはいなかったのだ。
光の花はゆっくりと本物の花びらに姿を変え、ひらりひらりと花嫁たちの上に降り注いでくる。
「どうして、光の花が……?」
喜びよりも戸惑いが大きい伯母とそんな彼女を落ち着かせようとしている伯父、その隣で大はしゃぎの新郎新婦たち。ハリエットは意を決して、彼を紹介することにした。
「伯母さま、ご紹介いたします。私の夫のサイモンです。魔術師団の団長を務めています。エミリーのご主人とは親友だそうで」
にこにこと満面の笑みを浮かべたエミリーがハリエットに抱きついてくる。
「ハリエット、好きなひとと無事に結婚できたのね。おめでとう!」
「ありがとう。これも全部エミリーのおかげよ」
最近までただのハリエットの恋人だった魔術師団長は、婚約者を飛び越えて一気に夫になっていた。
ハリエットの母親は魔術嫌いだ。もともと魔術が得意なのは、この国の先住民の血を引くもの。彼らのことを「蛮族」と蔑んでいたハリエットの母は、たとえ魔術師団長が相手であろうと結婚を認めてはくれなかった。
それが『好きなひとを盗られたと誤解されたまま式に出るなんて恥ずかしい』と訴えれば、今までのことが嘘のように簡単に結婚を認めてもらうことができた。娘が恥をかくことを憂いたのではなく、エミリーに負けた形になるのが許せなかっただけのようだが。
それは、文官系の家系であり、騎士団をあまり快く思っていないエミリーの母親が、「ハリエットの好きなひとを盗った」と嘘をついたことで、簡単に結婚に許可を出したのと同じようなものだ。
母親に振り回されてきたハリエットとエミリーは、母親同士の確執を自分たちの初恋を叶えるために利用した。それは良くないことなのかもしれないけれど、そろそろハリエット達だって自由になってもいいはずだ。
337
お気に入りに追加
257
あなたにおすすめの小説
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
【本編完結】記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる