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幸運を運ぶ猫は、雨の日に傘をさしてやってくる(1)

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 小さなスーツケースとキャリーバッグを抱えた奈々美ななみさんは、公園のベンチに座って小さくため息をつきました。

「これからどうしようかしら」

 奈々美さんは、何年もの間お父さんの介護をしていたのですが、お父さんが亡くなった途端、お姉さんとお兄さんに家から追い出されてしまったのです。

 奈々美さんのお姉さんは、家族のお姫さまでした。お父さんが遺したお金はお姉さんが全部持っていってしまいました。

 奈々美さんのお兄さんは、家族の王子さまでした。お父さんが遺した家と土地は、お兄さんが全部売り払ってしまいました。

 奈々美さんには、お父さんが飼っていた黒猫が一匹、遺されただけだったのです。

「ペット可のアパートなんて、簡単に見つかるものかしら」

 奈々美さんは悲しくなりましたが、猫を手放す気はありません。お姉さんとお兄さんに任せたら、すぐに保健所に連れていかれてしまうことがよくわかっていたからです。

 奈々美さんは、キャリーケースの猫を見ながらつぶやきました。

「お前が長靴をはいた猫なら、わたしも幸せになれるのにね」

 黒猫はキャリーの中で、ぐっすり夢の中です。奈々美さんは猫相手に愚痴をこぼしたことを恥ずかしく思い、またため息をつきました。

 困ったことに急に雨が振りだしてきました。

 ペットを連れたまま、コーヒーショップに入るのはいやがられるでしょう。それにあまり無駄遣いのできない身の上です。

 奈々美さんは慌てて雨に濡れないように、遊具の中に潜り込みました。

 朝からいろいろなことがあったせいでしょうか、なんだか眠たくなってきます。うつらうつらしたその時です。

「いっしょに、あまやどりさせてください」

 はっと前を向くと、不思議なふたり組が立っていました。雨具をばっちり装備した完全猫型の男の子と、猫耳と猫しっぽを付けたJK女子高生な女の子です。

「あら、まあ。最近の猫は、長靴をはくだけでなく、傘にレインコートも持ってるのね」

 感心した奈々美さんは、もちろん一緒に雨宿りをすることにしました。
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