凍えた星のあたため方

石河 翠

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 無事に結婚式が終わり家に帰ってきたまどかさんは、引き出物のバウムクーヘンをこたつの上に置くと、小さくため息をつきました。大好きなバウムクーヘンも、今はちょっと食べる気になれません。

「なんだか疲れたな……」

 1ヶ月分の気力と体力を使ってしまった気分です。普段ひとりでいることに慣れている円さんには、今日のようなパーティーはまぶしすぎました。

 ネイルの塗られた小指を見つめ、いけないとわかっていながらささくれをひっぱりました。じんわりと、赤いものがにじんできます。

「またやっちゃった」

 円さんだって本当は、花嫁さんになりたいのです。けれど素敵だなと思う相手には、みんなちゃんと運命の赤い糸で結ばれたお相手がいます。

 もちろん、本当に赤い糸が見えるわけではありません。円さんは、みんなの胸元にある小さな星を見ています。

 嬉しいことや楽しいことがあると、星はぴかぴかと輝きます。好きなひとが近くにいると、その星はさらに光を増していくのです。

 円さんは、この話のことは誰にも言わずに内緒にしてきました。好きなひとを見つけた瞬間に失恋してしまうなんて、楽しいものではありませんからね。

 赤い糸や光る星なんて関係ない。頑張って振り向かせればいいと言うひともいるでしょう。でも円さんにはそれができません。好きなひとの視線の先には、とびきりキラキラした女性たちがいるからです。

 好きなひとに幸せになってもらいたい円さんは普段の引っ込み思案もどこへやら、ついそれとなくお膳立てしまうのでした。

「自分で手伝っておきながら、バカみたい」

 昔はキラキラしていた円さんの胸の星は、今では砕けたかのように小さくなり、すっかりくすんでしまいました。

 幸せは円さんを通りすぎているのでしょうか。

 そんな風に思いたくなくて、円さんはひとが集まる場所やわくわくどきどきするものから、自然と遠ざかってしまうようになっていました。

 脱いだドレスは床の上に置きっぱなしですが、ハンガーにかける気力もわきません。社内の結婚式で何度か着回しましたから、さすがにアレンジしても次にまた着るのは厳しいでしょう。

 大切なひとたちが幸せになることはとても嬉しいはずなのですが、円さんはときどき無性に寂しくなってしまうのでした。
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