レンタル悪女を始めましたが、悪女どころか本物の婚約者のように連れ回されています。一生独占契約、それってもしかして「結婚」っていいませんか?

石河 翠

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「いらっしゃいませ、『レンタル悪女』へようこそ! 営業開始記念につき、安心安全の良心価格設定、リピーターの方向けに割引プランもご用意しております。本日は、どのようなプランをご希望でしょうか?」
「……クララ嬢はご在宅だろうか。男に色目を使わない、優秀な家庭教師がいると聞いて訪ねてきたのだが」

 始まってもいないのに終了の合図が聞こえましたよ。はい詰んだ! 珍しくまともそうなお客さまだったのに、自分で就職の機会を潰してしまうなんて。

 心の中で涙を流しながら、わたしは深々と頭を下げました。冷ややかな視線が痛いです。

「申し訳ございません。家庭教師の職はぜひともお受けしたかったのですが、お客さまにおかれましてはやはり……」
「『レンタル悪女』だったか? どことなくいかがわしい響きが感じられるな」

 やめてください。お綺麗な顔で「レンタル悪女」なんて復唱しないで。というか、婉曲表現で「どうせ断るよね? 聞かなかったことにしてくれる?」って雰囲気出してたじゃないですか。なんで傷口に塩を塗ってくるかな?

「さようでございますか。それでは足を運んでいただいて申し訳ありませんが」
「しかし、このままではあなたを紹介してくださったとあるご婦人に、不採用の理由を告げねばならなくなる。具体的には、『レンタル悪女』についてだが」

 こういうときは、「ご縁がなかったようで」とか言えばいいでしょう。貴族のみなさまが大好きな、本音と建前ってやつですよ。正直さなんて求められていません。

「もちろん、説明していただけるだろうね? ああ、私の名前はギルバート。長くなりそうなら、お茶のひとつでも出してもらおうか」

 にっこり。微笑みの圧の強さに、めまいがしました。「はい」以外の返事がゆるされないやつですね。

「……承知いたしました。ご要望通り、『レンタル悪女』について詳しく説明させていただきますね」

 涙目のまま営業スマイルをはりつけ、わたしは仕事内容を説明することになりました。
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