上 下
17 / 18

魔術師ダミアンの事情(9)

しおりを挟む
「さてはお前、何か知っているな?」

 御用聞きは、ダミアンのような高い魔力は持っていない。しかし、聖女の思念が定期的に送られてきているせいで、ダミアンの知らない情報を握っている。

「それがですねえ、聖女さまいわく、『ストッパーのないヤンデレはヤバい』とのことで」
「は?」

 唐突に聞かされた謎の言葉に、ダミアンが眉をひそめる。

「ダミアンさまは、聖女さまが天界の神の花嫁となったことはご存知ですよね」
「当然だ。急に何を言っている」
「それがですね、文化の違いとでもいうのでしょうか。旦那さまの束縛が激しいそうで……」

 惚気かと思いきや、どうやら事態は深刻らしい。御用聞きのため息に、ダミアンが口元を歪めた。

「相手は神だぞ。そもそも人間の感覚で物を考えているはずがない。それに合わせられないのなら、求婚に応えるべきではなかったのではないか」
「ダミアンさま、手厳しいですね……。まあ、あれです。何かあると一族を滅ぼしたり、一国を滅ぼしたり、世界を滅ぼそうとするところを見ていると、結構疲れるそうでして」
「国のひとつやふたつ、好きに滅ぼせば良いだろうに。俺は、神が世界を滅ぼそうと、俺とリリスくらい守ってみせるぞ」
「いや、そこはついでに僕も守ってくださいよ!……って、そうじゃなくて、ちょっとしたことで暴走しがちな神さまを見ていると、あなたをすぐに元の姿に戻すことに不安を覚えたそうなんです」
「……なぜだ」

 不服と言わんばかりの顔で、ダミアンが御用聞きを握りしめた。手の中で脱力しながら、カラスに戻った御用聞きが説明する。

「つまりですね、大切なものができても、守り方を間違えるとすぐに闇落ちしてしまうような気がすると。だから、呪いを解くにはまだ早いとおっしゃっておりまして……」
「……またアイツのせいか!」
「いや、でもダミアンさまも、わりと暴走してたじゃないですか!」
「どの辺りが暴走していたと思うのだ。どれも、必要な処置だっただろう」
「いやまあ、魔女さまを守るために追っ手を始末しましたよね」
「何か問題でも?」
「いや、情報の吐かせ方エグすぎですもん」

 あれは怖かったと、カラスが身震いした。

「やられるのが嫌なら、こういう仕事に手を出すな」
「そのあと、彼を媒介にして依頼者に呪いを送ったんでしたっけ?」
「ああ。ひとが死ぬのはリリスは嫌がるだろうからな。死んだ方がマシだと思う程度の呪いにしておいた」
「それは本当に、死んだ方が幸せだったんじゃないんですかね、そのひと。それから血の繋がりを辿って、魔女さまのご実家を滅ぼしていますよね」
「まだ滅ぼしてはいない。リリスが気に病まないように、緩やかに消滅させる。1年くらいかけて」
「全然緩やかなスピードじゃないです。まあ、こういうダミアンさまの行動に聖女さまが不安を覚えてしまって、本来の姿に戻るのはもう少し様子を見てから……ということになったようです」

 話を聞いて気が済んだのか、ぽいっと御用聞きは投げ捨てられた。ほうほうの体でダミアンから離れたカラスが、ゆっくりと人型に戻る。

「納得がいかんな」
「……そうですね」
「リリスのために害虫駆除をしただけで、ここまで横槍がはいるとは。ならばやはり、いっそ国ごと滅ぼすべきだったか……」
「ほら、そういうところですよ」
「……やはり、天界に文句をつけに行くべきか?」
「ダミアンさま、やめてくださいっ。僕、ハゲるのは嫌です!」
「転職したがっていただろう。聖女の使い魔ではなく、俺の使い魔にしてやる」
「結局、おふたりの御用聞きから抜けられないから結構です!」

 数日後、リリスとダミアンが住む小さな森の小さな家の近くには、ちょっと背中の煤けた哀愁漂うカラスの姿があったという。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~

玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。 平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。 それが噂のバツ3将軍。 しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。 求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。 果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか? ※小説家になろう。でも公開しています

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

処理中です...