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魔術師ダミアンの事情(7)

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 ダミアンが森の中で元の青年の姿に戻ったのは、完全に予想外のことだった。

 突然高くなった視点、力強い手足、体に満ちる豊潤な魔力。けれど嬉しさを感じるより先に覚えたのは、強い焦りだ。

「おい、カラス、いるんだろう。出てこい、これはどういうことだ!」
「ちょ、ちょっと、カラスは鳥目なんですよ。夜は弱いんですから、急な呼び出しは勘弁してください」
「どうせ俺が移動すれば張り付くように指示を受けているだろう。リリスは見なかったか。俺が元の体に戻ったのなら、リリスも元の姿になっているはずだ」
「魔女さまはわかりませんが、この森に良からぬ者が入り込んでいます」
「馬鹿野郎、先にそれを言え!」

 老女の姿であれば、追っ手に見つかっても知らぬ存ぜぬで逃げることだって可能だろう。しかしリリスの本来の姿であれば、なまじ美しい容姿であるがゆえに、しらを切ることは難しい。

 慌てて森全体に意識を巡らせる。本来の姿であれば、それくらい造作もないことだ。そこでダミアンは気づいた。リリスが怪我を負わされていることを。さらに毒をその身に受けて、危険な状態に陥っていることを。

 リリスは自分のもの、そうナチュラルに認識していたダミアンは、あまりの出来事に怒りで目の前が赤く染まった。

「ダ、ダミアンさま!」
「跳ぶぞ」
「がっ、ぎいっ、舌噛んだっ」
「リリス、大丈夫か!」

 一足でリリスの元に跳んだダミアンは、速攻で治癒呪文をかけた。今では、最上級の神官であっても使うことのできない手足の欠損さえ復活させる呪文だ。特殊な毒の解毒もできる。

 しかし、そのぶん負傷者の体力を消耗させるため、ダミアンは気が気ではなかった。早く、リリスを自宅に連れて帰りエリクサーを飲ませなければ。そのためにも、害虫退治は迅速に行う必要がある。

 ダミアンの怒りが具現化されたように、空気が急激に冷えていく。リリスの近くだけは空間が保護されていることに気がついたらしい御用聞きの男が近くに滑り込もうとして、思い切り結界に弾かれていた。

「貴様、よほど死にたいらしいな。俺のリリスに手を出すとは」
「そんな、馬鹿な。これはまるで、失われた禁術……まさかお前は!」
「俺か、俺の名は……。いや、お前に名乗る名などない。俺の名は、リリスに呼ばれるためだけに存在するのだから」

 一瞬でリリスを傷つけた男の意識を奪うと、ちょうどよい次元の隙間に放り込む。そう簡単に死なせるつもりはないが、今は尋問する時間も惜しい。くれぐれも先に入れた人間の息の根を止めぬよう念を押した上で、適当な魔物を呼び出すと同じく次元の隙間に押し込んだ。

「リリス、もう大丈夫だ」

 意識を失ったようにぐったりとしたリリスを抱え、ダミアンはその額に唇を押しつけた。
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