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魔術師ダミアンの事情(2)

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 魔術師ダミアンと聖女は、犬猿の中である。もともとお互いに気にくわない相手だったが、かつて聖女が魔術師ダミアンの「歳」を奪い去り、それを魔道具に封じ込めたことでふたりの間の溝は決定的なものになった。

 実行した聖女としては、多少ダミアンを懲らしめることができればよいという軽い気持ちであったらしい。

 話がそれで終わらなかったのは、おっちょこちょいなところがある聖女が、「歳」を封じ込めた魔道具――美しいペンダントだった――をうっかり川に落としてしまったからだ。しかも素直に白状すればよかったものを、聖女はそれを言い出せないうちに、天界の神さまとの結婚が決まり人間界から天界に移動してしまったのである。

 神というのは、意外と制約が多く、そう簡単に現世には手が出せない。子どもが砂山に手を加えるようなものだろうか。むやみやたらに手を出そうものなら、形を整える前に山自体を潰しかねないのだという。

 そのためダミアンは、子どもの姿のままで長い時を過ごすことになってしまった。聖女に言わせると、いろいろとダミアンの見えないところで働きかけはしていたらしい。ダミアンからすれば、それは当然の行為であって、自分のケツは自分で拭けというところなのだが。

 その後、結婚相手の神さまにおねだりをして、ペンダントとダミアンが引き合うような仕掛けを施してもらったから感謝しろと使い魔を通して言われたときには、さすがのダミアンも怒りを通り越して笑いが出てきてしまった。

『おい、教会本部を滅ぼそうと思うが、何か遺言はあるか?』
『教会本部を滅ぼすと、どうして僕が遺言を言うことに?』
『そりゃあ、聖女の遣いだからな。一緒に始末してやるよ』
『いや、意味不明です!』
『もう忘れたのか。前に、あの美しい教会が破壊されたら一緒に死んでしまいたいと言っていただろうが。俺は優しいから、一緒に天に還してやろうと思ってな』
『そんな優しさ、今すぐ捨ててください!』

 使い魔に必死で土下座されて、結局我慢したのだったか。

 それからいく年月。ようやくペンダントが手元に届いて無事に解決かと思いきや、話はさらにややこしいことになっていた。ペンダントの持ち主が、中に封じられていた「歳」を身につけ、すっかり老婆になってしまっていたのだ。

 どういうことだと、御用聞きの男を間にはさみ、ダミアンと聖女の言い争いが勃発したことはまだ記憶に新しい。

 無理矢理にリリスから「歳」を奪い取れば、リリスの肉体がどうなるかわからない。器であるリリスが壊れれば、「歳」もどこへ行くか正直保障できない。そう警告され、しぶしぶリリスとの同居を決めたときには、ここまでリリスとの暮らしが穏やかなものになるとは、ダミアンも想像できなかった。
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