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 父を王家の影と神官兵に引き渡し、私たちは我が家に戻ってきた。子ども部屋は物置にして、執務室に足を踏み入れる。父が適当な領地運営を行っていたが、私と家令で適宜修正を入れていた。今日からは、最初から私が表立って指示することができる。隠蔽工作が不要になった分少しは楽ができそうだ。

「ジェニファー、これで満足か?」
「ええ。ロディ、本当にありがとう」
「まったく、俺の宝は愛らしい。本当は泣き虫のくせにこの落とし前は自分でつけると言ってはばからなかったのだから。やれやれ、これでようやく俺のことだけを見てもらえそうだ」

 すっとロデリックの顔が近づく。唇に触れそうになった瞬間、大慌てでロデリックを押し戻した。しっかりと発達した綺麗な大胸筋がてのひら越しに伝わってきてどきりとする。

「どうして拒む。俺のものになるのは嫌か?」
「あの、だって、さすがにお母さまの前ではちょっと……」

 守護霊になったお母さまは、今も私の隣でにこにこしている。親同伴で、そういう気分になるのは難しいに決まっている。

「未練を晴らしたら、天に昇っていただけるとおもっていたのだが」
「孫の顔を見るまでは死んでも死にきれないらしいの」
「死んでも死にきれないというか、既にお亡くなりになっているのだが。まったく、牽制する理由がわかるから怒ることもできない」
「えーと、お母さまがごめんなさい?」
「気にするな。もう少し、ジェニファーが育つまで待つとしよう」

 髪の一房をとり、口づけを落とされる。それだけで、くすぐったくなるほど幸せだ。

 何だかんだ言ってお母さまは、しばらく地上にとどまってくれるような気がする。親離れできる日が来るまで、もう少しだけ待っていてね。ロディ。
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