8 / 9
(8)
しおりを挟む
「ボニフェースさまのおっしゃった通り、本当に押しかけてきましたね」
「ナンシーの家族を殴ったことで、手配書が出回ったからね。実家にも義実家にも頼れないとなると、娘であるクララの元に来るしかなかったのだろう。それに、クララと君だけなら、暴力で押さえつけられると高をくくっていたのかもしれない。怖かったよね。顔色が良くないよ」
「いいえ、それはもう大丈夫なのです。ただ、この件でボニフェースさまにご迷惑をおかけしてしまったことが心苦しくて……」
クララの母が小さい娘に叔父を縛り付けないように口酸っぱく教えていたというのに、結局私がボニフェースさまの人生を狭めてしまった。私にとっては幸せな結末でも、ボニフェースさまには不本意以外の何物でもないだろう。けれど、私の横でクララがお腹を抱えて笑い出した。
「クララ?」
「やだ、もう、ナンシーったら自信がなさすぎるんだから。あのね、ナンシーが叔父さまの好きなひとなの。だから、ナンシーが嫁いできてから叔父さまはこの家に通ってきているの。叔父さまももうちょっとナンシーにわかるようにアピールしなくちゃ」
「……そんな、まさか」
まさかの衝撃に頭が混乱してしまう。何を言われているのかよく理解できない。
「クララ、僕が告白する前に、一足飛びでいろんなことをぶっちゃけてしまうのはやめてくれ」
「あ、いけない! ええと、こういう時って、どうすればいいんだっけ。あ、そうだ、あれあれ。『あとは、若いふたりでごゆっくり』であっているわよね?」
「クララ!」
「きゃあああ、ごめんなさい~!」
「そんなことを言ってもう!」
お飾りの妻として愛されない結婚ばかりしてきた。ボニフェースさまとの結婚も、クララと各家の面子を守るための書類上の結婚だと思っていた。必要があれば、すぐに離婚される覚悟もしていた。けれど、二度あることは三度あるということわざに怯える必要はないらしい。
「兄の妻に来た君に僕が愛を告げていいはずがない。それでも僕はもう君を逃したくなかったんだ。昔、手をこまねいているうちに君はあの屑に嫁がされて、傷つけられていたのだから。僕の顔に見覚えはないかな。王立図書館の本の虫さん」
もう、顔も覚えていない相手への淡い初恋。実家に居場所のなかった私は、ただひたすら図書館で本を読んでいた。そんな私に気さくに声をかけてくれていた文官さまは、ボニフェースさまだったのか。
「私も、ずっとボニフェースさまのことをお慕いしておりました」
「ナンシー!」
「ちょっと、ボニフェースさま! クララが見ています! 何よりここは屋敷の外です!」
「そうか、ならこれでどうだい。おいで、クララ」
ボニフェースさまはそういうと、私とクララをまとめてぎゅっと抱き着いてきた。ひなたの匂いのする娘と、爽やかな花の香りがする旦那さま。優しい匂いに包まれて、私はこの穏やかな暮らしを送ることができる幸福を静かに噛みしめていた。
三度目の結婚で、ようやく幸せな家族を手に入れることができたのだ。
「ナンシーの家族を殴ったことで、手配書が出回ったからね。実家にも義実家にも頼れないとなると、娘であるクララの元に来るしかなかったのだろう。それに、クララと君だけなら、暴力で押さえつけられると高をくくっていたのかもしれない。怖かったよね。顔色が良くないよ」
「いいえ、それはもう大丈夫なのです。ただ、この件でボニフェースさまにご迷惑をおかけしてしまったことが心苦しくて……」
クララの母が小さい娘に叔父を縛り付けないように口酸っぱく教えていたというのに、結局私がボニフェースさまの人生を狭めてしまった。私にとっては幸せな結末でも、ボニフェースさまには不本意以外の何物でもないだろう。けれど、私の横でクララがお腹を抱えて笑い出した。
「クララ?」
「やだ、もう、ナンシーったら自信がなさすぎるんだから。あのね、ナンシーが叔父さまの好きなひとなの。だから、ナンシーが嫁いできてから叔父さまはこの家に通ってきているの。叔父さまももうちょっとナンシーにわかるようにアピールしなくちゃ」
「……そんな、まさか」
まさかの衝撃に頭が混乱してしまう。何を言われているのかよく理解できない。
「クララ、僕が告白する前に、一足飛びでいろんなことをぶっちゃけてしまうのはやめてくれ」
「あ、いけない! ええと、こういう時って、どうすればいいんだっけ。あ、そうだ、あれあれ。『あとは、若いふたりでごゆっくり』であっているわよね?」
「クララ!」
「きゃあああ、ごめんなさい~!」
「そんなことを言ってもう!」
お飾りの妻として愛されない結婚ばかりしてきた。ボニフェースさまとの結婚も、クララと各家の面子を守るための書類上の結婚だと思っていた。必要があれば、すぐに離婚される覚悟もしていた。けれど、二度あることは三度あるということわざに怯える必要はないらしい。
「兄の妻に来た君に僕が愛を告げていいはずがない。それでも僕はもう君を逃したくなかったんだ。昔、手をこまねいているうちに君はあの屑に嫁がされて、傷つけられていたのだから。僕の顔に見覚えはないかな。王立図書館の本の虫さん」
もう、顔も覚えていない相手への淡い初恋。実家に居場所のなかった私は、ただひたすら図書館で本を読んでいた。そんな私に気さくに声をかけてくれていた文官さまは、ボニフェースさまだったのか。
「私も、ずっとボニフェースさまのことをお慕いしておりました」
「ナンシー!」
「ちょっと、ボニフェースさま! クララが見ています! 何よりここは屋敷の外です!」
「そうか、ならこれでどうだい。おいで、クララ」
ボニフェースさまはそういうと、私とクララをまとめてぎゅっと抱き着いてきた。ひなたの匂いのする娘と、爽やかな花の香りがする旦那さま。優しい匂いに包まれて、私はこの穏やかな暮らしを送ることができる幸福を静かに噛みしめていた。
三度目の結婚で、ようやく幸せな家族を手に入れることができたのだ。
209
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
40歳独身で侍女をやっています。退職回避のためにお見合いをすることにしたら、なぜか王宮の色男と結婚することになりました。
石河 翠
恋愛
王宮で侍女を勤める主人公。貧乏貴族の長女である彼女は、妹たちのデビュタントと持参金を稼ぐことに必死ですっかりいきおくれてしまった。
しかも以前の恋人に手酷く捨てられてから、男性不信ぎみに。おひとりさまを満喫するため、仕事に生きると決意していたものの、なんと41歳の誕生日を迎えるまでに結婚できなければ、城勤めの資格を失うと勧告されてしまう。
もはや契約結婚をするしかないと腹をくくった主人公だが、お見合い斡旋所が回してくれる男性の釣書はハズレればかり。そんな彼女に酒場の顔見知りであるイケメンが声をかけてきて……。
かつての恋愛のせいで臆病になってしまった女性と、遊び人に見えて実は一途な男性の恋物語。
この作品は、小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
婚約者は幼馴染みを選ぶようです。
香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。
結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。
ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。
空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。
ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。
ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。
【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
離婚された夫人は、学生時代を思いだして、結婚をやり直します。
甘い秋空
恋愛
夫婦として何事もなく過ごした15年間だったのに、離婚され、一人娘とも離され、急遽、屋敷を追い出された夫人。
さらに、異世界からの聖女召喚が成功したため、聖女の職も失いました。
これまで誤って召喚されてしまった女性たちを、保護している王弟陛下の隠し部屋で、暮らすことになりましたが……
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる