3 / 9
(3)
しおりを挟む
ある日のこと。クララは、珍しく少し悩んでいるようだった。そういえば、もうすぐ父の日だ。クララは父親代わりのボニフェースさまにお礼をしたいのだろう。
父の日の贈り物に苦労する気持ちは私にもわかる。子どもの少ないお小遣いでやりくりする難しさもあるが、大人の男性に何を渡せばよいものか。まあ、一般的なご家庭では子どもが頑張って用意した贈り物なら、それだけで喜ばれるはずだ。そう思っていたのだが。
「参考までに、今まで何をお渡ししていたのか聞いてみてもよいですか?」
「……贈り物、したことないの」
「ちょっと意外ですね」
「昔ね、お母さまに言われたの。叔父さまはお父さまとは違うから、父の日に贈り物をあげて叔父さまに負担をかけては駄目よって」
「なるほど。そういう考え方もありますね」
「それにお父さまの実家ではいっそお父さまとお母さまを離婚させて、叔父さまと挿げ替えようという話も出ていたそうなの」
「政治的には理解できます」
「でも、お母さまはお父さまがいない暮らしに満足していたわ。何より、叔父さまに好きなひとがいることをわたしたちは知っていたから」
「……そう、だったのですね」
「今年は贈り物をしてもいいかもしれないって思ったのだけれど、いざとなると難しくて……」
ボニフェースさまは、伯爵家の三男だ。継ぐ家こそないけれど、文官として王宮に勤めている美丈夫である。結婚相手には困らなそうなボニフェースさまなのだ、好きなひとどころか恋人や婚約者がいてもおかしくはない。それなのに、ボニフェースさまが私の知らないどこかの女性と結婚するかもしれないと知ってとっさに嫌だと思ってしまった。顔も見たことのない書類上の夫よりも、日々欠かさず顔を出してくれるボニフェースさまの方が、私にとってはずっと家族に近かったのだ。
けれどボニフェースさまにしてみれば、姪であるクララのことが心配だったのだろう。継子いじめをする継母の話はよく耳にする。クララは幼子ではないけれど、自分の裁量ですべてを決められる大人でもないのだから。
三人で仲良く暮らしていたと思っていたのは、私だけだったのかもしれない。そもそも叔父と姪という血の繋がりがある中で、私だけが余所者なのだ。初めからわかりきっていたはずなのに、急に現実を突きつけられて胸が痛い。書類上の私の夫は、今、どこで何をしているのだろう。
父の日の贈り物に苦労する気持ちは私にもわかる。子どもの少ないお小遣いでやりくりする難しさもあるが、大人の男性に何を渡せばよいものか。まあ、一般的なご家庭では子どもが頑張って用意した贈り物なら、それだけで喜ばれるはずだ。そう思っていたのだが。
「参考までに、今まで何をお渡ししていたのか聞いてみてもよいですか?」
「……贈り物、したことないの」
「ちょっと意外ですね」
「昔ね、お母さまに言われたの。叔父さまはお父さまとは違うから、父の日に贈り物をあげて叔父さまに負担をかけては駄目よって」
「なるほど。そういう考え方もありますね」
「それにお父さまの実家ではいっそお父さまとお母さまを離婚させて、叔父さまと挿げ替えようという話も出ていたそうなの」
「政治的には理解できます」
「でも、お母さまはお父さまがいない暮らしに満足していたわ。何より、叔父さまに好きなひとがいることをわたしたちは知っていたから」
「……そう、だったのですね」
「今年は贈り物をしてもいいかもしれないって思ったのだけれど、いざとなると難しくて……」
ボニフェースさまは、伯爵家の三男だ。継ぐ家こそないけれど、文官として王宮に勤めている美丈夫である。結婚相手には困らなそうなボニフェースさまなのだ、好きなひとどころか恋人や婚約者がいてもおかしくはない。それなのに、ボニフェースさまが私の知らないどこかの女性と結婚するかもしれないと知ってとっさに嫌だと思ってしまった。顔も見たことのない書類上の夫よりも、日々欠かさず顔を出してくれるボニフェースさまの方が、私にとってはずっと家族に近かったのだ。
けれどボニフェースさまにしてみれば、姪であるクララのことが心配だったのだろう。継子いじめをする継母の話はよく耳にする。クララは幼子ではないけれど、自分の裁量ですべてを決められる大人でもないのだから。
三人で仲良く暮らしていたと思っていたのは、私だけだったのかもしれない。そもそも叔父と姪という血の繋がりがある中で、私だけが余所者なのだ。初めからわかりきっていたはずなのに、急に現実を突きつけられて胸が痛い。書類上の私の夫は、今、どこで何をしているのだろう。
150
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
離婚された夫人は、学生時代を思いだして、結婚をやり直します。
甘い秋空
恋愛
夫婦として何事もなく過ごした15年間だったのに、離婚され、一人娘とも離され、急遽、屋敷を追い出された夫人。
さらに、異世界からの聖女召喚が成功したため、聖女の職も失いました。
これまで誤って召喚されてしまった女性たちを、保護している王弟陛下の隠し部屋で、暮らすことになりましたが……
婚約者は幼馴染みを選ぶようです。
香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。
結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。
ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。
空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。
ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。
ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!
ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。
しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。
【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
王太子に婚約破棄されたら、王に嫁ぐことになった
七瀬ゆゆ
恋愛
王宮で開催されている今宵の夜会は、この国の王太子であるアンデルセン・ヘリカルムと公爵令嬢であるシュワリナ・ルーデンベルグの結婚式の日取りが発表されるはずだった。
「シュワリナ!貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」
「ごきげんよう、アンデルセン様。挨拶もなく、急に何のお話でしょう?」
「言葉通りの意味だ。常に傲慢な態度な貴様にはわからぬか?」
どうやら、挨拶もせずに不躾で教養がなってないようですわね。という嫌味は伝わらなかったようだ。傲慢な態度と婚約破棄の意味を理解できないことに、なんの繋がりがあるのかもわからない。
---
シュワリナが王太子に婚約破棄をされ、王様と結婚することになるまでのおはなし。
小説家になろうにも投稿しています。
悪役公爵の養女になったけど、可哀想なパパの闇墜ちを回避して幸せになってみせる! ~原作で断罪されなかった真の悪役は絶対にゆるさない!
朱音ゆうひ
恋愛
孤児のリリーは公爵家に引き取られる日、前世の記憶を思い出した。
「私を引き取ったのは、愛娘ロザリットを亡くした可哀想な悪役公爵パパ。このままだとパパと私、二人そろって闇墜ちしちゃう!」
パパはリリーに「ロザリットとして生きるように」「ロザリットらしく振る舞うように」と要求してくる。
破滅はやだ! 死にたくない!
悪役令嬢ロザリットは、悲劇回避のためにがんばります!
別サイトにも投稿しています(https://ncode.syosetu.com/n0209ip/)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる