1 / 8
(1)
しおりを挟む
「ねえ、レイモンド。わたくし、悪い男に弄ばれてみたいの。どうしたらいいかしら」
「……すみません、お嬢さま。もう一度よろしいでしょうか」
「もうレイモンドったら。お耳が遠くなっちゃったの? 悪い男に弄ばれてみたい、わたくしそう言ったのよ」
公爵家に仕える若き執事レイモンドは、目の前の可憐な令嬢のトンデモ発言に目を白黒させた。
「お嬢さま、急にどうなさったのです。先日の茶会で、何か話題になりましたか」
「ええそうなの。みなさま、婚約者がいらっしゃるのだけれど、それとは別に好きなかたがいらっしゃるそうよ。どんなひとが好きかと聞かれたので、わたくしも考えてみたの」
「それで、『悪い男』ですか」
「ええ、だって危険な男って魅力的でしょう。そんなひとが見せかけでもわたくしを愛してくれるのなら、それはきっと幸せなことだわ」
小首を傾げながらころころと笑っているのは、公爵家のひとり娘セリーヌ。その姿は、妖精と言われても納得するほどに美しい。
彼女を溺愛する両親から真綿にくるむように育てられたせいか、笑顔で突拍子もないことを口にする。美しい見た目にも関わらず、「天然令嬢」と陰口を叩かれているのはそのせいだ。
(いったい、なんと返事をしろと?)
内心冷や汗を流しまくりながら、レイモンドは紅茶のお代わりを用意した。セリーヌはレイモンドの気持ちなど想像もつかないようで、屈託ない笑顔を見せている。
(今回もまた何か間違ったか……)
いくらあだ名が「天然令嬢」とはいえ、その美しさは折り紙つきだ。むしろ小賢しい女など嫌いだという男からすれば、これ以上はないほどの好物件だろう。
彼女を溺愛する両親は何を考えているのやら、未だ婚約者のいない公爵令嬢。そんな彼女の発言が公になれば、社交界は面白おかしく騒ぎ立てるにちがいない。
(ないとは思うが、悪い男に弄ばれたりなどしたら令嬢としての人生は終わりだ)
「ねえ、レイモンド。どうしたらいいかしら。あなた、悪い男に心当たりはある?」
うるうるとした瞳で自分を上目遣いで見つめてくる美少女。しかもまるで見せつけるかのように、両手を組みながら胸の谷間を強調している。今までの人生、そしてそれに伴う大小様々な苦労が脳内を駆け巡った。
(しかも私に紹介させようというのか?)
レイモンドは、頭痛をこらえて小さくため息をついた。
「……すみません、お嬢さま。もう一度よろしいでしょうか」
「もうレイモンドったら。お耳が遠くなっちゃったの? 悪い男に弄ばれてみたい、わたくしそう言ったのよ」
公爵家に仕える若き執事レイモンドは、目の前の可憐な令嬢のトンデモ発言に目を白黒させた。
「お嬢さま、急にどうなさったのです。先日の茶会で、何か話題になりましたか」
「ええそうなの。みなさま、婚約者がいらっしゃるのだけれど、それとは別に好きなかたがいらっしゃるそうよ。どんなひとが好きかと聞かれたので、わたくしも考えてみたの」
「それで、『悪い男』ですか」
「ええ、だって危険な男って魅力的でしょう。そんなひとが見せかけでもわたくしを愛してくれるのなら、それはきっと幸せなことだわ」
小首を傾げながらころころと笑っているのは、公爵家のひとり娘セリーヌ。その姿は、妖精と言われても納得するほどに美しい。
彼女を溺愛する両親から真綿にくるむように育てられたせいか、笑顔で突拍子もないことを口にする。美しい見た目にも関わらず、「天然令嬢」と陰口を叩かれているのはそのせいだ。
(いったい、なんと返事をしろと?)
内心冷や汗を流しまくりながら、レイモンドは紅茶のお代わりを用意した。セリーヌはレイモンドの気持ちなど想像もつかないようで、屈託ない笑顔を見せている。
(今回もまた何か間違ったか……)
いくらあだ名が「天然令嬢」とはいえ、その美しさは折り紙つきだ。むしろ小賢しい女など嫌いだという男からすれば、これ以上はないほどの好物件だろう。
彼女を溺愛する両親は何を考えているのやら、未だ婚約者のいない公爵令嬢。そんな彼女の発言が公になれば、社交界は面白おかしく騒ぎ立てるにちがいない。
(ないとは思うが、悪い男に弄ばれたりなどしたら令嬢としての人生は終わりだ)
「ねえ、レイモンド。どうしたらいいかしら。あなた、悪い男に心当たりはある?」
うるうるとした瞳で自分を上目遣いで見つめてくる美少女。しかもまるで見せつけるかのように、両手を組みながら胸の谷間を強調している。今までの人生、そしてそれに伴う大小様々な苦労が脳内を駆け巡った。
(しかも私に紹介させようというのか?)
レイモンドは、頭痛をこらえて小さくため息をついた。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
初恋の彼は、優しくて不器用な魔法使いでした。あなたの嘘に守られて、わたしは今日も幸せに生きています。
石河 翠
恋愛
孤児院の院長補佐をつとめる主人公ローズ。
彼女はある日、かつて孤児院でともに過ごした初恋の男性に引き取られる。 家族として迎え入れられたわけではなく、跡継ぎを生むための道具として買われたのだ。
反発する彼女だったが、孤児院の子どもたちを人質にとられてしまい、道具としての生き方を余儀無くされてしまう。
そんなある日、彼女は初恋の彼を支えるはずの家令に誘拐されかける。その時彼女を守ったものは、初恋の彼が密かに仕掛けておいたとある魔法で……。
長い時をこえて、ようやっと想いを重ね合わせた、我慢強いがんばり屋の女性と不器用な魔法使いの恋物語。
この作品は、長岡更紗さま主宰 第二回ワケアリ不惑女の新恋企画参加作品です。
この作品は、小説家になろうにも投稿しています。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
平民として追放される予定が、突然知り合いの魔術師の妻にされました。奴隷扱いを覚悟していたのに、なぜか優しくされているのですが。
石河 翠
恋愛
侯爵令嬢のジャクリーンは、婚約者を幸せにするため、実家もろとも断罪されることにした。
一応まだ死にたくはないので、鉱山や娼館送りではなく平民落ちを目指すことに。ところが処分が下される直前、知人の魔術師トビアスの嫁になってしまった。
奴隷にされるのかと思いきや、トビアスはジャクリーンの願いを聞き入れ、元婚約者と親友の結婚式に連れていき、特別な魔術まで披露してくれた。
ジャクリーンは妻としての役割を果たすため、トビアスを初夜に誘うが……。
劣悪な家庭環境にありながらどこかのほほんとしているヒロインと、ヒロインに振り回されてばかりのヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID3103740)をお借りしております。
あなたが私を捨てた夏
豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。
幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。
ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。
──彼は今、恋に落ちたのです。
なろう様でも公開中です。
いっそあなたに憎まれたい
石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。
貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。
愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。
三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。
そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。
誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。
これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる