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「な、なんだ、この禍々しい場所は!」

 次に案内した場所の前で、殿下が顔をひきつらせています。まあ良い反応です。

「ここはホーンテッドハウスお化け屋敷ですね」
「まったく。よくもまあ、こんな雰囲気を作り上げたものだ」
「これは実際に先々代の聖女さまが浄化してくださった屋敷を利用したものです。浄化済みとはいえ、ときどき低級のアンデッドが発生するので、ご入場者さまには神官特製のお守りをお渡し、聖魔法の呪文を唱えていただく形になっております」
「危なくないのか?」
「念のため下級神官が係員として待機しておりますし、ときどき聖魔法の高い素質を持っている方を発見することができてとても便利だと聞いておりますよ」

 それに訳あり物件ともなると、周辺にまで影響を及ぼしてしまいます。屋敷を花園に移築するにあたって、屋敷の持ち主にも周辺の方々にも大変喜ばれたのだそうです。環境にも経済にも優しい、素晴らしい活動です。

「だが、この施設を利用することができるのは、貴族だけなのだろう?」
「いいえ。年に数回ですが抽選を行って、平民のみなさまにも入場していただくようにしておりますの」
「庶民向けのガス抜きということか?」
「この抽選におきましては、本人の名前、年齢、家族構成、そのほか特筆すべきことなどを記入していただきます。これはある種の履歴書扱いです。広く人材を集めるのに役立っているのですよ」

 筆跡を辿ることで、それぞれの魔力の性質をあぶり出すこともできます。このシステムのおかげで、争いの種になりがちな貴族の隠し子を見つけることにも成功しているんですよね。

「さあさあ、進んでくださいませ」

 お化け屋敷には、乗り物に乗るタイプもあるそうですが、ここは自分で歩かなければなりません。行く先々で出会うアンデッドに、殿下が面白いほど反応してくださいます。

「うわー!」
「まあ、殿下。そう大声を出さなくても、殿下が身につけているお守りで十分浄化されていますよ」
「だが、先ほどのものは全速力で追いかけてきたではないか!」
「まあ時々イレギュラーなこともあるようですね。とはいえ、祈りを込めて殴りつければ一発です」
「君が男前過ぎて、僕はだんだんクラクラしてきたよ……」

 おやまあ。今回は「ドキドキ」ではなく、「クラクラ」させてしまったようです。走り過ぎから来る酸欠による目眩でしょうか。「ドキドキ」というのは、なかなかに難しいものなのですね。
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