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 押しの強い侍女さんが嵐のように連れ去られたので、つい油断していたのかもしれない。私の兄弟たちは、カラムさまと親交があったことを私は知っていたのに。

「良かった。具合が悪いわけではなさそうだね」
「え、ちょっ、カラムさま?」

 部屋着のままぼんやりしていた私の元に、今度はカラムさまがお見舞いにやってきた。押せ押せ侍女さんのときもそうだけれど、みんな私にアポをとって! 使用人のみんなも連れてきていいか聞いて! って、たぶんお兄さまが許可を出しているんだろうなあ、ちくしょう。

「君は、優しいんだね」
「な、なんのことですか」
「先ほどの件だよ。普段から迷惑を被っている君は、彼女のことを突き放したってよかったはずだ」
「別に言うほど優しくなんかありませんよ」
「でも、薬をあげないとは言わなかった」
「それは、薬師として当然のことです」
「その当然のことができないひとは多いんだ」

 困ったようにカラムさまは肩をすくめた。

「何を……」
「僕は、奇病を患っていてね。医者からはさじを投げられていた。彼らはそもそも嫌だったのだろう。万が一治療に失敗したら失脚、毒でも見つかれば政治的な争いに巻き込まれるからね。その結果、僕は不治の病を患った悲劇の第三王子として、幽閉されることになった」

 私の脳裏をよぎったものがあった。この大陸で、一定数の人々が患う皮膚の病。それは他人に感染するようなものではなかったけれど、見た目の問題から忌み嫌われていた。その薬の開発に携わったのが、恩師と当時助手だった私なのだ。

「まさかカラムさまは、王宮のお化け王子……?」
「ああ、懐かしい呼び名だ」
「私はただ恩師の手伝いをしただけです。王子殿下にお礼を言っていただくなんて……」
「あの薬に使われた薬草は、君だからこそ配合できたものだ。普通なら組み合わせとして考えられなかったものだよ。外に出られないぶん、ひとり薬学の研究を続けていた僕にも思いつかなかった」
「なんだか恥ずかしいですね」
「君のおかげで、僕はこうやって外を歩けるようになったんだ。そんな君が悲しむ顔は見たくない」

 そこで思わず私はカチンときてしまった。

「何でそんなテキトーなことを言うんですか。カラムさまは、好きな女性がいらっしゃるんでしょう? それなのに、私なんかに優しくして。モテない女の惚れっぽさを、カラムさまはご存知ないんです! もうやだ、責任とってくださいよ!」
「僕は、ずっと君のことが好きだったよ。もしも君が僕を好きになってくれたというのなら、喜んで責任をとらせてもらいたい」
「……は?」

 カラムさまが、私を好き? 押せ押せ侍女さんじゃなくて?

「困ったなあ。全然伝わっていなかったのかい」
「冗談かと思っていました」
「君のそばにいたくて、王子としての地位を返上して研究所にきたというのに」

 爽やかにとんでも発言がきました!

「な、なんで、そんなことを?」
「君が社交界への出入りを疎んじていることは聞き及んでいたからね。王子としての地位は、邪魔にしかならないだろうと判断した」
「ご家族は反対なさらなかったのですか?」
「奇病が治った僕の見た目は相当に魅力的だったようで。僕を担ぎ出そうとする人間もいたから、臣下に下ることは歓迎されたよ。これで、本気だってことは伝わったかな」
「は、はい、なんとなく?」

 すごすぎてなんだか現実味がない。そのせいでぼんやりとした返事をした私のことを、カラムさまは逃してはくれなかった。

「なるほど。それならば冗談ではないことをしっかりわかってもらわねばなるまいね」

 えーと、つまりどういうこと?
 自分の家のはずなのに孤立無援となった私は、その日のうちにしっかりとのでした。
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