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「おはようごさいます」
「おはよう。みなさん、今日も妖精のように可愛らしいですね」
学園の入り口にて、登校する女子生徒たちに笑顔で声をかけているのは、男子生徒用の制服を身に着けたアントニアだ。そんな彼女の横で、王太子イグネイシャスが呆れたような顔をしている。
「アントニア、つくづくお前は口から先に生まれたような女だな」
「何をおっしゃるんですか、殿下。美しい花はみなで愛でるべきです。ただし、節度を持った形で。芳しいからといってみだりに触れ、あまつさえ手折るなど言語道断。彼女たちは私が守ります。あなたには、指一本たりとも触れさせはしない」
(そう、殿下のような変態には!)
凛々しく言い放ち、アントニアは少女たちを守るように背にかばい、王太子に向き直る。女子生徒たちが一斉に色めき立った。
「何度も聞くがな、アントニア。お前はどうしてそんな女たらしになった? それになぜそこまで俺を疑う?」
「女たらしなど人聞きの悪いことを。ご自分の何が悪いのかについては、胸に手を当てて良く考えてご覧なさい」
学園に入学するまでに王太子の性根を叩きのめしたものの、どうしても夢の中の姿が拭えないために、今世での王太子へのあたりはつい厳しめになるアントニアである。
(残念ながら、いい意味でも悪い意味でも素直すぎるお方。失敗しても大丈夫な場所で、多少痛い目に遭ってもらったほうがいいでしょう)
「誤解だ! 俺は何もしていない。おい、お前たち、そんな目でみるな! まったく、アントニアが俺のことを稀代のダメンズみたいに言うから、未だに俺には婚約者ができないというのに……。はっ、まさか、やはりアントニアは俺のことが好きで、独り占めするためにこんな真似を?」
「バカは死ぬまで治らないと言いますからね。ネガティブ過ぎるのも問題ですが、殿下のポジティブさは厄介です。やはり一度、軽く逝っておきますか?」
かちゃりと、腰に帯びた剣を鳴らしてみせる。黄色い悲鳴が辺りに響き渡った。学園内で王太子が斬り捨てられる日も近いかもしれない。
「そもそも、どうしてアントニアは学園内で帯剣を許されているんだ」
「私は護衛も兼ねていますので」
「なんで『殿下の護衛』じゃないんだ。おい、目を逸らすな。お前が帯剣を許されて、俺が許されないのはおかしいだろう」
「陛下からの信頼の差でしょうね」
周囲の生徒たちが静かに同意する。学園の門をくぐったその日から、アントニアはパーフェクトな王子さまとして君臨することになった。
美しい上に文武両道、家柄も良く、本来なら王太子妃になってもおかしくないはずなのに辞退した上で、女子生徒全員を気にかけてくれる。その上、そんじょそこらの男子生徒よりもはるかに紳士的とあっては、アントニアに傾倒するなというのが無理な話。
ちなみに本家本元の王子さまであるイグネイシャスの人気は二番手どころか、かなり低迷している。アイドルと化したアントニアの足を引っ張ろうとする姿が見苦しいからだということに、残念ながら本人は未だ気がついていないようだ。
そしてアントニアがパーフェクトな王子さまだとするならば、みんなの憧れのお姫さまとして選ばれたのは男爵令嬢ダナだった。
「おはよう。みなさん、今日も妖精のように可愛らしいですね」
学園の入り口にて、登校する女子生徒たちに笑顔で声をかけているのは、男子生徒用の制服を身に着けたアントニアだ。そんな彼女の横で、王太子イグネイシャスが呆れたような顔をしている。
「アントニア、つくづくお前は口から先に生まれたような女だな」
「何をおっしゃるんですか、殿下。美しい花はみなで愛でるべきです。ただし、節度を持った形で。芳しいからといってみだりに触れ、あまつさえ手折るなど言語道断。彼女たちは私が守ります。あなたには、指一本たりとも触れさせはしない」
(そう、殿下のような変態には!)
凛々しく言い放ち、アントニアは少女たちを守るように背にかばい、王太子に向き直る。女子生徒たちが一斉に色めき立った。
「何度も聞くがな、アントニア。お前はどうしてそんな女たらしになった? それになぜそこまで俺を疑う?」
「女たらしなど人聞きの悪いことを。ご自分の何が悪いのかについては、胸に手を当てて良く考えてご覧なさい」
学園に入学するまでに王太子の性根を叩きのめしたものの、どうしても夢の中の姿が拭えないために、今世での王太子へのあたりはつい厳しめになるアントニアである。
(残念ながら、いい意味でも悪い意味でも素直すぎるお方。失敗しても大丈夫な場所で、多少痛い目に遭ってもらったほうがいいでしょう)
「誤解だ! 俺は何もしていない。おい、お前たち、そんな目でみるな! まったく、アントニアが俺のことを稀代のダメンズみたいに言うから、未だに俺には婚約者ができないというのに……。はっ、まさか、やはりアントニアは俺のことが好きで、独り占めするためにこんな真似を?」
「バカは死ぬまで治らないと言いますからね。ネガティブ過ぎるのも問題ですが、殿下のポジティブさは厄介です。やはり一度、軽く逝っておきますか?」
かちゃりと、腰に帯びた剣を鳴らしてみせる。黄色い悲鳴が辺りに響き渡った。学園内で王太子が斬り捨てられる日も近いかもしれない。
「そもそも、どうしてアントニアは学園内で帯剣を許されているんだ」
「私は護衛も兼ねていますので」
「なんで『殿下の護衛』じゃないんだ。おい、目を逸らすな。お前が帯剣を許されて、俺が許されないのはおかしいだろう」
「陛下からの信頼の差でしょうね」
周囲の生徒たちが静かに同意する。学園の門をくぐったその日から、アントニアはパーフェクトな王子さまとして君臨することになった。
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