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聖女が聖女を続けている理由(2)

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 神託をいただいた後とは思えない和やかな雰囲気の中、大広間の片隅で聖女と相棒は語り合っていた。何せ普段はそのまま追放劇へと移行するのだ。こんなに穏やかな夜会などほとんど記憶にない。

「部下のみなさん、みんな必死だったね」
「わたしの有無が、彼らの毛根に関係あるとは思えないのですが……」
「いやいや関係あるでしょ。ルウルウがいなくなるって思ってから、生え際が指の関節ひとつ分後退したって言ってたよ。気の毒に」
「今度髪に効く薬草でも贈りますかね」

 今度は嬉し泣きでおんおん涙を流しているむさ苦しい集団を見ながら、ふたりは苦笑した。

「王妃さまの秘密、可愛かったなあ」
「まさか先祖返りのせいで我が子が卵で生まれたことに驚いたあげく、調理場でお湯の中に突っ込もうとするなんて、我が母ながら恐ろしいです。ゆで卵にならなくて、本当によかった……」
「早く温めなきゃって必死だったんだろうね」

 王妃はバルコニーで、竜とおしゃべりに花を咲かせている。

「あの竜が、乳母さんだったことは驚いたよ」
「まあ、確かに竜のことは竜に聞くのが一番だとは思いますが、言葉も通じるかわからない中、伝説の湖にまでいくフットワークの軽さには驚きました。まあ、出産直後にゆで卵事件があったから、みんな必死だったのかもしれませんが」
「確かに……」

 乳母である竜のダイナミックな育児方法が漏れ聞こえてきて、キャシーは笑みをこぼした。

「あら、お姫さまはお怒りみたいね」
「年下は趣味ではないそうなので」
「でもびっくりしたよ。まさかあれが水晶玉ではなく、巨大な泥団子だったなんて思いもしなかったもの。硬度ヤバい」
「姪が本当にすみません」
「本当だよ、なんて話を子どもにしてるのさ」
「いや、あくまで『聖獣としてのお仕事』の範囲内でして……」
「……っていうか、あの夜着がルウルウの趣味なの。ルウルウって結構むっつりスケベ」
「あれは、部下たちが勝手に!」
「じゃあ、好きじゃないんだ?」
「……黙秘します」

 将来の美女候補である幼い美少女は、同年代の少年たちに囲まれて大層不満そうだ。そんな彼女を見守りながら、キャシーは手元のグラスを傾ける。

「ルウルウ、家族や臣下のみなさんに愛されているんだねえ」
「まったく、わたしひとりいなくなったところで誰も困らないでしょうに」
「仲がいいならそれに越したことはないよ」
「キャシー、あなたは……」
「ああ、気にしないで。別に私も劇的に家族と不仲ってわけじゃないから。ただ、私にとって一番大切な家族は、とっくにルウルウになっていたんだよ。だから実家とは、付かず離れずの距離感でちょうどいいの。縁を切ったわけではないし、たまに会うくらいでちょうどいい。そういう家族の形もあるのよ」

 話をしつつ、くたりとキャシーはダニエルにもたれかかった。潤んだ瞳で彼を見上げ……唐突に笑いだす。

「あははは、ルウルウが三人に見えるぞ~」
「ちょっと! これから大事な話をするので、お酒は飲まないでくださいって言いましたよね!」
「だって緊張するんだもん。ルウルウがイケメン過ぎるのが悪い! えへへへ、イケメン~。お肌すべすべ~」
「なんですか、これは。新手の拷問ですか!」
「ルウルウ大好き~。愛してる~」
「……キャシー、わたしもですよ」

 絡みついた聖女が、どさくさにまぎれて相棒の唇を奪う。

 目立っていないと思っているのは、ふたりの世界にひたっている聖女と白い竜だけ。

 先ほどおあずけとなり、ようやく交わされたふたりの口づけに、大広間の観衆はどっと歓声をあげた。
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