瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠

文字の大きさ
上 下
1 / 7

(1)

しおりを挟む
 雪が降り積もったある冬の日のことでした。

 フェリシアは、暖かい部屋で休んでいました。ふかふかのベッドの上には可愛らしいおもちゃが並んでいます。美味しいごはんや大好きなおやつにだって不自由はしません。なんとお部屋の中には、フェリシアだけが使える特別なブランコだってあるのです。

 まるでお姫さまのような優雅なお部屋。けれど、フェリシアはちっとも幸せではありませんでした。なぜなら部屋にいるのはフェリシアだけ。屋敷にはお父さまやお母さま、お兄さまやお姉さまだって一緒に住んでいるのに、フェリシアの相手をしてくれるひとはひとりもいないのです。

 思い出せないくらい遠い昔。かつては、確かにみんながフェリシアと遊んでくれました。暖炉の前でおままごとをしたり、屋敷の中を追いかけっこしたり。近くの麦畑で寝転がってみたり、雨上がりに水たまりに飛び込んでみたり。みんなが変わってしまったのは、いつからだったでしょうか。

 気がつけばいつの間にかみんな、フェリシアに会いにきてくれなくなりました。お部屋の中にはフェリシアの機嫌をとるようにいろいろなものが置いてありますが、一番大切な家族はいないのです。ほんの少しだけ開いている窓の隙間から外をのぞけば、フェリシアを抜きにして楽しそうにしているみんなの姿があります。

 時折、寂しくなったフェリシアはお部屋を駆け回ります。その場でぐるぐる回り、床の上を飛び跳ねて勢いをつけたら、壁から天井まで一回転することさえできるのです。ついでに大声を出せば完璧です。

 フェリシアがこんなお転婆をする理由はただひとつ。大騒ぎをすると、誰かがフェリシアのところに来てくれるからです。けれど、そんなときみんなはひどいしかめっ面をしています。

 それでも、みんなの顔を見るとフェリシアはほっとします。たとえ、誰も部屋の中には入ってくれなくても。フェリシアにだってわかっています。フェリシアが起きているときに部屋の扉が開かれることは決してないのでしょう。フェリシアはこの部屋を出ることさえできないのです。

 とても素敵なお部屋に住んでいるのに、フェリシアは悲しくてたまりません。一体どうすれば、フェリシアの寂しさはなくなるのでしょうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「羊のシープお医者さんの寝ない子どこかな?」

時空 まほろ
児童書・童話
羊のシープお医者さんは、寝ない子専門のお医者さん。 今日も、寝ない子を探して夜の世界をあっちへこっちへと大忙し。 さあ、今日の寝ない子のんちゃんは、シープお医者んの治療でもなかなか寝れません。 そんなシープお医者さん、のんちゃんを緊急助手として、夜の世界を一緒にあっちへこっちへと行きます。 のんちゃんは寝れるのかな? シープお医者さんの魔法の呪文とは?

小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。 歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。 大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。 愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。 恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。 扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

月からの招待状

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
小学生の宙(そら)とルナのほっこりとしたお話。 🔴YouTubeや音声アプリなどに投稿する際には、次の点を守ってください。 ●ルナの正体が分かるような画像や説明はNG ●オチが分かってしまうような画像や説明はNG ●リスナーにも上記2点がNGだということを載せてください。 声劇用台本も別にございます。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

紅薔薇と森の待ち人

石河 翠
児童書・童話
くにざかいの深い森で、貧しい若者と美しい少女が出会いました。仲睦まじく暮らす二人でしたが、森の周辺にはいつしか不穏な気配がただよいはじめます。若者と彼が愛する森を守るために、少女が下した決断とは……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、夕立様に描いて頂きました。

緑色の友達

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。

ももんがの毛

Tempp
児童書・童話
ある冬の朝、ももんがは願いました。 「かみさまかみさま、ぼくにかみのけをください」

タロウのひまわり

光野朝風
児童書・童話
捨て犬のタロウは人間不信で憎しみにも近い感情を抱きやさぐれていました。 ある日誰も信用していなかったタロウの前にタロウを受け入れてくれる存在が現れます。 タロウはやがて受け入れてくれた存在に恩返しをするため懸命な行動に出ます。 出会いと別れ、そして自己犠牲のものがたり。

T家のうさみ

あやさわえりこ
児童書・童話
T家の亜美と由美姉妹にはお気に入りのぬいぐるみがあります。 しかし、それにはとんでもない秘密があって……!? 児童文学・童話ですが、いろんなひとに読んでもらいたい。連載だけど完結はしてます。 あ、T家というのは、私の家がモデルなんですよ(笑)

処理中です...