4 / 10
(4)
しおりを挟む
ガーデニアとの生活は、存外心地いいものだった。違和感なく馴染み過ぎていることに気がついて、愕然としてしまうほどに。
今日も彼女は、当然のようにロイドの好物を作る。王都では食べられなかったこの地方の郷土料理。特別な材料など使わない。地味で素朴な家庭の味はレストランのメニューには上がらず、それゆえにロイドに恋しく思わせた。
まったく不思議なものだ。ロイドは一度だって、これが自分の好物だと告げたことはない。なんなら、ガーデニアの好物を用意してやりたいと話しかけていたくらいだ。
「これは俺の好物なんだが。どうして知っているんだ?」
何をおかしなことを聞いているのかとでも言うように、ガーデニアが男の皿を指差した。ロイドの皿は、すでに空っぽだ。どうやら好物の料理が出た場合、ロイドは自分でも気がつかぬうちに皿を綺麗にしてしまっているらしかった。子どもと同じである。
「ああ、フィオナ。君を守れなかった俺は、幸せになってはいけないのに」
美味しい料理に温かい部屋。その喜びを分かち合うことのできる家族。その喜びを噛み締めながら、ロイドは首をくくりたくなった。
今日も彼女は、当然のようにロイドの好物を作る。王都では食べられなかったこの地方の郷土料理。特別な材料など使わない。地味で素朴な家庭の味はレストランのメニューには上がらず、それゆえにロイドに恋しく思わせた。
まったく不思議なものだ。ロイドは一度だって、これが自分の好物だと告げたことはない。なんなら、ガーデニアの好物を用意してやりたいと話しかけていたくらいだ。
「これは俺の好物なんだが。どうして知っているんだ?」
何をおかしなことを聞いているのかとでも言うように、ガーデニアが男の皿を指差した。ロイドの皿は、すでに空っぽだ。どうやら好物の料理が出た場合、ロイドは自分でも気がつかぬうちに皿を綺麗にしてしまっているらしかった。子どもと同じである。
「ああ、フィオナ。君を守れなかった俺は、幸せになってはいけないのに」
美味しい料理に温かい部屋。その喜びを分かち合うことのできる家族。その喜びを噛み締めながら、ロイドは首をくくりたくなった。
10
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
【完結】婚約破棄からの絆
岡崎 剛柔
恋愛
アデリーナ=ヴァレンティーナ公爵令嬢は、王太子アルベールとの婚約者だった。
しかし、彼女には王太子の傍にはいつも可愛がる従妹のリリアがいた。
アデリーナは王太子との絆を深める一方で、従妹リリアとも強い絆を築いていた。
ある日、アデリーナは王太子から呼び出され、彼から婚約破棄を告げられる。
彼の隣にはリリアがおり、次の婚約者はリリアになると言われる。
驚きと絶望に包まれながらも、アデリーナは微笑みを絶やさずに二人の幸せを願い、従者とともに部屋を後にする。
しかし、アデリーナは勘当されるのではないか、他の貴族の後妻にされるのではないかと不安に駆られる。
婚約破棄の話は進まず、代わりに王太子から再び呼び出される。
彼との再会で、アデリーナは彼の真意を知る。
アデリーナの心は揺れ動く中、リリアが彼女を支える存在として姿を現す。
彼女の勇気と言葉に励まされ、アデリーナは再び自らの意志を取り戻し、立ち上がる覚悟を固める。
そして――。
【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる