上 下
47 / 97

047 神様とお肉

しおりを挟む
 長い休養期間も明けて、私たち【赤の女王】の面々は、久しぶりにダンジョンに潜っていた。

 ダンジョン第八階層。相変わらずの草原フィールドだ。もう少し変化が欲しいところだな。

「ディア、宝箱の反応はありますか?」

「ある…」

 エレオノールの質問に、ディアネットが宝具の地図を見て答える。

「では宝箱に向かいましょう。ディア、案内をお願いします」

 ディアネットの案内に従って、宝箱を目指して草原を進む。私としては、早くこの階層を攻略してしまいたいのだが、久しぶりのダンジョンだ。まっすぐボス部屋に向かうのではなく、肩慣らしを兼ねて宝箱を開けて回るらしい。

「それにしても人が多かったな」

 第八階層の入口には、次から次へと冒険者のパーティが転移して来ていた。彼らはまっすぐ北へと進んで行った。彼らの目的は階層ボスなのだろう。南へ進む私たちを不思議そうな顔で見ていたのが印象的だった。

「彼らは、たぶんお肉屋さんですね」

「お肉屋さん?」

 エレオノールの答えに疑問が浮かぶ。ダンジョンの中でお肉屋さん?どういうことだ?

「彼らの狙いは、階層ボスのドロップアイテムのお肉なんです」

 聞けば、この階層の階層ボスはイノシシで、良質な豚肉をドロップするらしい。その肉はとても美味で、街の富裕層の間で人気なんだとか。一種のブランドのような扱いを受けていて、割と高値で取引されているらしい。納品クエストもよく発注されているという。

 その他にも、彼らがフィールドで狩るモンスターのドロップ品である肉が、街の巨大な胃袋を支えているようだ。街で肉が低価格で売られているのは、彼らの働きによるものである。そのため、彼らはお肉屋さんと呼ばれているらしい。

「冒険者は肉から始めよって言うよねー」

 ダンジョンの第一から第十階層のモンスターは、主に肉をドロップする。冒険者たちは、モンスターを狩って、ドロップ品の肉を売って資金を貯めて、装備を整えて、次の階層に進んで行くものらしい。

「わたくしたちも何度かここに来ることになると思いますよ。わたくしたちの装備は整っていますけど、それでも活動資金は必要ですからね」

 冒険者は、活動するだけでその資金をすり減らしていく。その最たる物は、私の使う矢だろう。矢を使えば、折れたり、鏃が欠けたりするのは当たり前だ。そうすると、新しく矢を買わなければならない。武器や鎧なんかも同じだ。冒険者の武器や鎧は、消耗品なのである。

「2時、敵…」

「了解だ」

 ディアネットの言葉に頷き、私は矢筒から矢を取り出して、弓を構える。さてさて、休み明け最初の獲物は何かな?


 ◇


 ダンジョン第十階層の階層ボスは、大きな黒毛のウシだった。興奮しているのか、しきりに地面を前足で掻いている。突進してくるつもりだ。あの巨体で迫られたら、エレオノールでは止めることは不可能だろう。体重差がありすぎる。

 私たちは、事前に打ち合わせた通りに、素早く左右に広く展開する。ボーリングのピンのように、全員が一撃で薙ぎ倒されるのを防ぐためだ。

「貴方の相手は、わたくしです!」

 エレオノールが、盾に剣を打ち付けて音を鳴らし、ウシの注意を引いている。ウシも音が気になるのか、エレオノールの方を向いた。

 ウシが頭を下げて、その黒光りする角をエレオノールへと向ける。さあ、ウシが突っこんでくるぞというところで、突如として爆炎がウシを包む。ディアネットの魔法だ。

 真横から爆炎の魔法を受けたウシは、その衝撃に横倒しとなった。全身の毛が激しく燃えて、火だるまとなるウシ。これは勝負あったな。

 燃え盛るウシは、立ち上がろうと足掻くが、その動きがだんだんと緩慢なものへとなっていく。そしてついにその動きが完全に止まり、ウシはボフンッと煙となって消えた。討伐完了だ。

 やれやれ、またディアネットの魔法だけでケリがついてしまったな。私は出そうになったため息を飲み込み、弓をそっと下ろした。

「見て!宝箱よ!」

 ミレイユが歓喜の声を上げる。ウシが煙となって消えた場所には、大き目の宝箱が鎮座していた。早速開けて中を確認する。

「これは……」

「お肉ですね」

 中に入っていたのは、一塊の肉だった。ウシの階層ボスがドロップしたということは、たぶん牛肉だろう。霜降りでなかなか美味しそうな見た目をしている。

「これは、当たりなんでしょうか?ルーは分かりますか?」

「うーむ…」

 一口に牛肉と言っても、その部位によって味も値段も全然違う。この肉が高値で取引されている当たりの肉、例えばヒレ肉やサーロインと呼ばれる部位なのか、それともハズレと言われるスネ肉なのかは、素人である私たちには、見た目だけでは分からない。食べれば分かるのだがな。

「スネ肉ではなさそうだが……いや、分からんな」

「そうですよね。それは本職の方に鑑定してもらいましょう」

 冒険者ギルドには、見ただけで肉の部位だけではなく、その品質まで見抜くプロが居るらしい。世の中にはいろんなプロが居るんだな。

「今日はそろそろダンジョンを出ましょうか」

 エレオノールの提案に異議を唱える者は居なかった。

 ダンジョンのボス部屋は、夕日で真っ赤に染まっている。ダンジョンの中の時間は、外の時間とリンクしているので、ダンジョンの外でも夕日に赤く染まっている頃だろう。

 肉塊をミレイユのマジックバッグにしまって、私たちはダンジョンを後にするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...