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031 神様の帰還

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「Gyau!?」

 闘技場を疾走するオオカミが、まるでつまずいたかのようにバランスを崩して転んだ。オオカミの右肩には、矢が生えている。私が射った矢は、狙い違わずオオカミの右肩を穿った。

 闘技場に倒れ伏したオオカミが、立ち上がろうと足をバタつかせる。

「ほう?」

 私はその光景を見て、少し感心する。私の矢の一撃を受けて、即死しなかったのは、このオオカミが初めてだ。しかし……。

「Kyauuuuuuuuuu!」

 一撃を耐えたとしても、その様では意味が無い。続く2射目の矢を無防備な腹に受けたオオカミは、断末魔を上げて煙となって消えた。

「お見事です」

 オオカミが消えたのを確認して、警戒を解いたエレオノールが声を上げる。こうも簡単な作業を褒められても、そんなに嬉しくないな。

「ルールーすごいね!弓でシュパシュパ敵を倒して!今のところ百発百中なんじゃない?」

「そうですね。実戦だと緊張して外してしまう弓使いは大勢居るとアリスさんが言ってましたけど、ルーは実戦にも強いタイプなんですね。すごいです」

 そういうものなのか?2,3発は狙いを外した方が良かったかもしれないな。今からでも時々狙いを外してみるか?でも、指摘されてから外すというのもわざとらしいな……。

「これで第三階層もクリアね。どうする?先に進む?いったん戻る?」

 先程のオオカミは、第三階層の階層ボスであった。ボスを倒したのだから、これで第三階層踏破だ。

「もうそろそろいい時間でしょうし、今日はここまでにして、いったん戻りましょう」

 エレオノールの決定に、誰も異を唱えなかった。

「今日はルールー大活躍だったね。あーしなんて一度も槍を振ってないよー」

 たしかに、今日倒した敵は全て私の弓で倒してしまった。だって、ほとんど弓の一撃で倒せてしまったのだ。一撃を耐えた者は、さっきのオオカミだけである。

「リリムの為に獲物を残しておけば良かったな。その槍、早く使ってみたいだろ?」

「まーねー」

 リリムは、クルリと槍を回してニヤリと笑う。その槍は百足をモチーフにした宝具の槍だ。今日が初めての実践投入だったのだが、結局一度も槍が振るわれることは無かった。

「まーそのうちコイツの出番もあるでしょ」

「そうだな。楽しみにしてるよ」



 ボス部屋である円形闘技場の奥、ボスが出てきた鉄格子の下りていた通路を進むと、5メートル四方の部屋に出る。部屋の四隅には淡く光る球体が1つずつ浮いており、部屋の中央には、このダンジョンを創った試練と成長の女神リアレクトの像が安置されていた。ダンジョンの入口とまったく同じ作りの部屋だ。部屋の奥には、第四階層へと続く階段が見える。

 私たちは、部屋の隅にある光る球体へと近づく。この光の球体が一種のワープ装置になっているらしい。

「では、戻りましょう。皆、手を繋いでください」

 手を繋ぐと、一度に全員ワープできるらしい。私は、リリムとディアネットと手を繋ぐ。ディアネットの手はすべすべ柔らかだったが、リリムの手は、その見た目に反して硬い感触がした。槍を振るうことで鍛え上げられた冒険者の手だ。ディアネットの女の子らしい手も好きだが、リリムの手も好きだ。この硬さは、リリムのがんばりの証である。

「いきますよ」

 エレオノールが、淡く光る球体に触れると、一瞬球体がピカッと激しい光を放った。思わず目を閉じると、僅かな間フワッとした浮遊感を味わった。目を開けると、相変わらず淡く光る球体が浮かんでいた。

 振り返ると、リアレクトの像があり、部屋の四隅には、淡く光る球体が浮かんでいる。一見なにも変化が無いように思えるな。同じ部屋の作りだし。

「外に出ましょうか」

 エレオノールに続いて部屋の外に出る。もちろん手は繋いだままだ。

 外に出ると、夕方だった。石の壁に囲まれた空間は、ボス部屋の円形闘技場を思わせるが、地面には草が疎らに生えているし、壁には穴が開いており、そこからはタルベナーレの街並みが覗けた。どうやら無事にダンジョンの外に出られたらしい。

「外ですね。皆、お疲れ様でした」

 先頭を歩いていたエレオノールが、皆に振り返って言う。

「おつかれーって言っても、あーしらなんもしてないけどね!」

「全部ルー1人で倒しちゃったものね」

「すごい…」

「いやいや、皆が居てくれたから、私は安心して矢を射れたのだよ」

 そういうことにしておこう。この見た目年齢で、あまりに弓が上手すぎるのも不審だ。今度からは少々狙いを外して射よう。

 街の中を流れる、さまざまな匂いが複雑に絡み合った風を受けて、タルベナーレに帰ってきたのだなと実感が持てた。

「この後は冒険者ギルドですね」

「そうね。宝具とか肉や毛皮を売らないと」

「あーしお腹空いたー」

「我慢…」

 ダンジョンから生還した開放感からか、5人でワイワイ騒ぎながら、私たちはダンジョンを後にするのだった。
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