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022 神様とお買い物②

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 私の予感は的中した。エレオノールのガードの硬さはミレイユの比ではなかった。押せばなんとかなったチョロいミレイユとは違う。押そうにも、するりと回避されてしまう。

 エレオノールは、早々に「わたくしはこれにします」と言って、1つのカーディガンを手に取った。ここまでは良い。だがその後、何度「もっと服を選んでもいい」と勧めてみても「良さそうな物があれば」と言われ躱されてしまう。実際に「これはエルに似合う」と服を勧めてみても、良い返事がもらえない。

 エレオノールが、私からのプレゼントを、カーディガン1枚で済ませる気だということは、私も察することができた。

 エレオノールが気に入らない物を無理やりプレゼントしても仕方ないので、私も打つ手無しだ。エレオノールはとても手強い。

 ミレイユもそうだったが、エレオノールも遠慮が過ぎる。人間もっと欲を出しても良いと思うのだがなぁ……。



「ルー」

「何だ?欲しい服でも見つかったか?」

 エレオノールに呼び止められた私は、期待を込めて彼女を見上げる。

「いえ、あちらを……」

 欲しい服が見つかったわけではないらしい。残念な気持ちを抱えつつ、エレオノールの指す方向を見ると、ミレイユが服を持って店の試着室に入るところだった。

「なるほど」

 ミレイユは欲しい服を見つけたらしい。そのことがちょっと嬉しい。どんな服を選んだか気になるな。覗きに行こう。

「エルよ、ミレイユにとってここは初めての店だ。彼女が心細く感じないように見守ってあげよう」

「ふふっ、そうですね。わたくしも気になります」



 試着室の布のカーテンの向こうから、微かに衣擦れの音が聞こえる。どうやら今は着替え中みたいだ。

 だが、やがてそれも終わる。

「うーん……ちょっと私にはかわいすぎるかしら……やっぱり別の、もっと地味な……」

 パシャー!

 私は勢いよくカーテンを開けた。

「へ…?」

 ミレイユの後姿のその向こう。大きな鏡に映されたミレイユの顔が驚きに固まる。口をポカンと開けて、なんともアホかわいい顔だ。

「な?ちょ、ルー!?」

 ようやく理解が追い付いたのか、ミレイユがこちらを振り向く。ミレイユが振り向くのに合わせて、スカートがひらりと舞う姿はとてもかわいらしい。思わず見惚れてしまう。

 ミレイユは、白い袖なしのワイシャツと赤白のギンガムチェックのミニスカートを穿いていた。全体的にかわいらしい印象を抱かせ、ミレイユにとても良く似合っている。

「なんで開け、もー、見ないでよー」

 ミレイユの顔にさっと朱が走り、手で胸元と股を押さえて体を隠そうとする。腰も引けている。昨日は風呂で裸を見せ合った仲なのに、なぜ今更恥ずかしがるのか分からない。

「なぜ隠すのだ?とてもよく似合っているのにもったいない。もっとよく見せておくれ」

 ひょっとすると、ミレイユは今の服装が自分に似合っていないと思い込んでいるかもしれない。先程も弱気なことを呟いていたし、自信が無いのだろう。

「…ほんと?」

 ミレイユが不安そうな顔で訊いてくる。その姿は、どう見ても自信があるようには見えない。

「あぁ、本当だとも。かわいいよ。とてもよく似合っている。エルもそう思うだろ?」

「はい。かわいいですよ、ミレイユ。自信を持ってください」

「…そう?」

 ミレイユがおずおずと手を下ろし、姿勢を正す。それでも恥ずかしいのか、後ろ手に手を組み、体を少しくねらせ、顔も俯き気味で上目遣いに見つめてくる。

「ど、どう、かしら…?」

 いつもとは様子の違う、しおらしい様子のミレイユは、愛でたくなるようなかわいらしさだ。

「とてもかわいいよ。だが……」

 私が否定の言葉を口にしたからか、ミレイユの顔が一気に不安なものに変わる。

「いささか首元が寂しいな。ちょっと待っていろ」

 私はそう言い置いて、踵を返して店内で目的の物を探す。

 たしかこちらに……あったあった。

 目的の物を手に入れた私は、ミレイユの元に戻る。ミレイユは未だに不安そうな顔を浮かべていた。

「良い物を見つけたぞ」

 私は、まるでネックレスをかけるように、ミレイユの首に持ってきた物、赤白チェックのネクタイをかける。

「な、なに?」

 戸惑いの声を上げるミレイユ。首にかけた細目のネクタイを襟の下に通し、襟の前でキュッと結んで完成だ。

「え?ネクタイ?」

「まぁ。かわいいですよ、ミレイユ」

「そうだろう、そうだろう」

 エレオノールの言葉に、私は満足げに頷いた。

「だが、まだ足りないな」

「えっ?」

 驚きの声を上げるミレイユに背を向け、私は次なるアイテムを探しに行く。

 この際だ、ミレイユをとことん着飾らしてみよう。彼女は、お金の関係で今まで手が出せなかっただけで、おしゃれに興味はあるのだ。今まで我慢してきた分、今日ぐらいその我慢が報われてもいいじゃないか。

 そんなことを思いながら、私は次々とミレイユにアイテムを届けるのだった。
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