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019 神様とミレイユの朝

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 朝。ミレイユの部屋に窓から朝の日の光が差し込む。

 朝日に照らされて映し出されるのは、広いが質素な部屋だ。机とイス、ベッド、タンスしか家具が無い。部屋が広いだけに、なにも無い空いているスペースが目立ち、どこか寂しさを感じさせる部屋だ。机の上に置かれたピンクの小物が、辛うじてミレイユの女の子らしさを感じさせる程度だ。

 私はその様子を神界で見ていた。なにも無い白い空間に、そこだけ四角く切り取られた窓のようにミレイユの部屋が映し出されている。俗に言う神視点。まぁ高性能な千里眼みたいなものかな。望めばどこだって見ることができる。

 私は空間に映し出される光景の視点を変えてミレイユの観察をする。

 見たところ、ミレイユはまだ寝ているようだが、朝日が昇ってから時間も経っているし、そろそろ目を覚ましたとしてもおかしくない時間帯だろう。私はルーの体で起きることに決めた。

 神界からルーの体に入ると同時に、ルーの体が覚醒する。十分な睡眠を取れたようだな。体調は良好、頭も冴えている。やれやれ、必要なのは分かるが、いちいち睡眠を取らなくてはいけない体というのは不便だな。おかげで遊ぶ時間が半分程にまで減ってしまうのは、ちょっと納得しかねる部分だ。

 パチリと目を開くと、ドアップでミレイユの顔があった。もうキスしているかのような距離感だ。ミレイユの静かな寝息が顔にかかるほど近い。

 ミレイユはまだ寝ているようだ。長く豊かな睫毛を閉じ、口を少し開いた、ちょっとだらしない寝顔を晒している。

 好奇心に駆られて、ミレイユの口に指を突っ込もうとして気が付いた。右手がミレイユの右手に緩く握られている。

 そういえば、昨日寝る前にミレイユと手を繋いでいたな。まだ解けていなかったらしい。しっとりと汗をかいた2人の手は、2人の境界が曖昧なほど馴染んでいた。これを解いてしまうのは、なぜだかちょっともったいない気がした。せっかく朝まで繋いでいたのだから、せめてミレイユが起きるまで繋いでいよう。

 だが、私の好奇心はこんなことでは止まらない。右手がダメなら左手でやるのみである。私は左手の人差し指を、ミレイユの口にゆっくりと差し込んだ。

 しかし、突っこんだ指はすぐにミレイユの歯によって進行を阻まれてしまった。仕方なくミレイユの柔らかくぷにぷにの唇を弄ぶ。すると、なんとミレイユが、ちゅぽっと私の指を咥え込んだ。

「ちゅぱっ…ん……ちゅ…ちゅぱ…」

 しかも私の指を吸い始めた。私の指を甘噛みで固定し、舌まで使ってちゅぱちゅぱと、まるで何かを求めるように吸っている。もしかしたら、母親の乳とでも勘違いしているのかもしれない。

 指を舐められるというのは、この体では初めての経験だ。ミレイユの舌が、私の指先をなぞるたびに、くすぐったいような気持ち良いような不思議な感覚がする。

 なんだかやられっぱなしというのも癪だな。私はミレイユの口に突っ込んだ指を抜き差ししてみることにした。

「んっ……ちゅ……んっ……ちゅぱ」

 そのまま指先でミレイユの舌と戯れたり、指の腹でミレイユの歯の裏や上顎を弄ってみたりする。

「ふぁっ……ちゅぱ……レロ……んぁ」

 ミレイユの口から涎がゆっくりと零れ、枕を汚す。ミレイユは上顎を弄られるのが弱いのか、上顎を弄ると、嬌声じみた声を上げた。それでも私の指に吸い付いて離れないというのは、なんだか執念じみたものを感じるな。

 しばらくすると、ミレイユの長い睫毛がピクピクと震え始めた。もうすぐミレイユが目を覚ますのかもしれない。どうしよう?

 このままミレイユの口に指を突っ込んだまま“おはよう”というのは、同衾初回としては、いささかライン越えのような気がするな。指は抜いておこう。

 ちゅぽんっと音を立ててミレイユの口から指が抜ける。長く遊び過ぎたな、指がちょっとふやけてしまった。ミレイユはまだしゃぶり足らないのか、口をもごもごとさせていた。



「んぁ……」

 しばらく経つと、ミレイユが目を覚ました。

「んぅー……ん」

 だが、まだ完全に覚醒していないみたいだ。体をもぞもぞさせたり、唸ったりしている。眉を寄せて、なんだか気難しそうな顔だ。

 更にしばらく経つと、薄ぼんやりと瞼を開いて……一気に見開く。

「ぇ…?あ!?な…あ!あぁ…」

 私の顔が至近距離にあって驚いたのかな?

「そうだ…昨日は、私……ルーと寝たんだ…」

 どうやら私と寝たことを忘れていたようだ。それでとても驚いていたのか。たしかに、目を覚ましたら自分の横に誰かいたら驚きもするか。

「おはよ…ルー。あなた、早起きね…」

 ミレイユが疲れきったような掠れた寝起きの声で言う。

「おはようミレイユ。良い朝だね。とてもかわいい寝顔だったよ」

「もー…あんま見ないで。恥ずかしい…」

 どうやら寝顔を見られるのは恥ずかしいらしい。ミレイユはゴロンと寝返り打つと、私に背を向けてしまった。
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