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055 嫌な予感
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王都の雑踏の中を一人歩く。合計14日にも及んだレベル2ダンジョン『ゴブリンの巣穴』での前衛陣の強化キャンプを終え、オレたち『五花の夢』は、やっと王都に戻ってきていた。
パーティメンバーには、濃い疲労の色が窺えたため、今日はさっさと解散にした。14日というのは、オレにとっては短い遠征期間だったが、まだまだ尻の殻が取れないひよっこたちには長かったようだ。体力の向上も課題だな。
久しぶりに味わう騒がしい空気は、腹が空く匂いで満ちていた。
そろそろ夕食時か。
唸る腹を撫でて落ち着け、活気に溢れる王都の大通りを歩く。さて、今日の晩飯はどうするか?
また食事を買い込んで姉貴の所に顔を出すのもいいな。ダンジョンでのクロエの活躍や成長を話して聞かせるのもいいだろう。
姉貴は、冒険者という仕事は極端に危険だと思い込んでいるからな。おそらく、オレが冒険者になりたての頃、毎日のように怪我をして帰ってきたことを覚えているのだろう。
まぁ、確かに冒険者は死と隣り合わせの仕事だが、自分の実力を客観的に見て、無理をしなければそうそう死ぬことはない。まぁ、それでも生き急ぐバカは絶えないんだがな……。
「はぁ……」
冒険者という仕事をやっていれば、死というのは案外身近にあるのだと嫌というほど思い知らされる。オレも知り合いが死んだなんてことは数えきれないほど経験した。あの内臓が鉛に置き換わったかのような重苦しさは、何度経験しても慣れるということはない。
少しばかりブルーな気持ちになりながら、オレは冒険者ギルドのスイングドアを開ける。
途端に集まるのは、冒険者たちの視線だ。いつもはすぐに逸らされる視線が、なぜか今日は張り付いたまま。どんどんと視線を集めていく。
冒険者たちの顔には、笑顔が浮かんでいるわけでも、敵意が浮かんでいるわけでもない。一番近いのは困惑の表情だろうか。なんと声をかけたらいいのか分からないという若干のネガティブな色を湛えた愁いを帯びた表情。
つい先ほどまで、オレが来るまでは陽気に賑わっていた冒険者ギルドが、まるで今はお通夜のような状況だ。覚えのある状況。しかし、まさか……。
オレはある予感を覚えながら、視線を独占したまま、歩き出す。事情を知っていそうな奴の所へ。
その人物は、冒険者ギルドの隅のテーブルにひっそりと座っていた。濃い赤髪に深紅の外套を着た、恰幅の良いハーフドワーフ。
「よぉ、オディロン」
「お前さんか……まぁ、呑めよ」
いつもは笑顔でオレを迎えてくれるオディロンも、今日は暗い表情を浮かべていた。オレの中である予感が一層その存在感を増す。
「でよ。これはどういう状況なんだ?」
オレはオディロンの向かいに座り、酒の入ったコップを受け取る。チビリと呑むと、複雑な香ばしい味わいと強いアルコールの苦みと共に舌が、喉が、燃えるように熱くなる。ドワーフの大好物と有名な火酒だ。
オレに問われたオディロンは、何度か口を開きかけては閉じを繰り返し、最終的に大きな溜息を吐いて、俯いたまま喋り出す。
「お前さんも察してはいるだろう? 『切り裂く闇』の件だ」
オディロンのボソッと零した言葉に、オレの中の予感が確信へと変わる。しかし、オレは信じたくなくて敢えて陽気に口を開いた。
「『切り裂く闇』ねぇ。ブランディーヌたちか。アイツらがまたバカやらかしたのか?」
まったくしょうがねぇな。そう明るく呟きながら、オディロンの言葉を待った。オディロンの表情は相変わらず暗い。嫌な予感がますます大きくなる。
「バカか……。確かにバカをした。それも特大のな。あ奴らはお前さんの忠告も聞かず、5人で『女王アリの尖兵』に潜ったんだ……」
「ッ!」
忠告をした時のアイツらの反応からして、次はレベル7ダンジョンに行くつもりだと察してはいた。だが、よりにもよって『女王アリの尖兵』かよ……。
「……何人残った?」
アイツらの実力で『女王アリの尖兵』を制覇できるわけがない。そして、もし『女王アリの尖兵』に潜ったのなら、無事で済むわけがない。
オレは恐る恐るオディロンに確認する。できれば全員生きていてほしいが……。生きているなら、命さえあればなんとかなる。
オディロンが苦い表情を浮かべて、たっぷりと時間をかけて口を開く。
「……一応、全員生還した」
「はぁー……」
オレは、深く安堵の溜息を吐く。ブランディーヌたち、『切り裂く闇』の実力で、レベル7ダンジョンの中でも屈指の難易度を誇る『女王アリの尖兵』に潜って、全員生還する。そんなのは、奇跡という言葉も生温いほど稀なことだ。
「よかった……」
「よかった?」
オレの心の底から漏れ出た言葉に、オディロンが反応する。オディロンは、なんとも不思議そうな顔でオレのことを見ていた。
「そんなにあの連中が生きてたことが嬉しいのか?」
「まぁな。怪我の容態はどうなんだ? 冒険者として、やっていけそうか?」
これでも、オレはアイツらが成人したての頃から面倒見てた身だからな。生きててくれてホッとしているのが本音だ。決して仲が良いわけじゃなかったが、知り合いの死ってのは、この歳には堪える。
パーティメンバーには、濃い疲労の色が窺えたため、今日はさっさと解散にした。14日というのは、オレにとっては短い遠征期間だったが、まだまだ尻の殻が取れないひよっこたちには長かったようだ。体力の向上も課題だな。
久しぶりに味わう騒がしい空気は、腹が空く匂いで満ちていた。
そろそろ夕食時か。
唸る腹を撫でて落ち着け、活気に溢れる王都の大通りを歩く。さて、今日の晩飯はどうするか?
また食事を買い込んで姉貴の所に顔を出すのもいいな。ダンジョンでのクロエの活躍や成長を話して聞かせるのもいいだろう。
姉貴は、冒険者という仕事は極端に危険だと思い込んでいるからな。おそらく、オレが冒険者になりたての頃、毎日のように怪我をして帰ってきたことを覚えているのだろう。
まぁ、確かに冒険者は死と隣り合わせの仕事だが、自分の実力を客観的に見て、無理をしなければそうそう死ぬことはない。まぁ、それでも生き急ぐバカは絶えないんだがな……。
「はぁ……」
冒険者という仕事をやっていれば、死というのは案外身近にあるのだと嫌というほど思い知らされる。オレも知り合いが死んだなんてことは数えきれないほど経験した。あの内臓が鉛に置き換わったかのような重苦しさは、何度経験しても慣れるということはない。
少しばかりブルーな気持ちになりながら、オレは冒険者ギルドのスイングドアを開ける。
途端に集まるのは、冒険者たちの視線だ。いつもはすぐに逸らされる視線が、なぜか今日は張り付いたまま。どんどんと視線を集めていく。
冒険者たちの顔には、笑顔が浮かんでいるわけでも、敵意が浮かんでいるわけでもない。一番近いのは困惑の表情だろうか。なんと声をかけたらいいのか分からないという若干のネガティブな色を湛えた愁いを帯びた表情。
つい先ほどまで、オレが来るまでは陽気に賑わっていた冒険者ギルドが、まるで今はお通夜のような状況だ。覚えのある状況。しかし、まさか……。
オレはある予感を覚えながら、視線を独占したまま、歩き出す。事情を知っていそうな奴の所へ。
その人物は、冒険者ギルドの隅のテーブルにひっそりと座っていた。濃い赤髪に深紅の外套を着た、恰幅の良いハーフドワーフ。
「よぉ、オディロン」
「お前さんか……まぁ、呑めよ」
いつもは笑顔でオレを迎えてくれるオディロンも、今日は暗い表情を浮かべていた。オレの中である予感が一層その存在感を増す。
「でよ。これはどういう状況なんだ?」
オレはオディロンの向かいに座り、酒の入ったコップを受け取る。チビリと呑むと、複雑な香ばしい味わいと強いアルコールの苦みと共に舌が、喉が、燃えるように熱くなる。ドワーフの大好物と有名な火酒だ。
オレに問われたオディロンは、何度か口を開きかけては閉じを繰り返し、最終的に大きな溜息を吐いて、俯いたまま喋り出す。
「お前さんも察してはいるだろう? 『切り裂く闇』の件だ」
オディロンのボソッと零した言葉に、オレの中の予感が確信へと変わる。しかし、オレは信じたくなくて敢えて陽気に口を開いた。
「『切り裂く闇』ねぇ。ブランディーヌたちか。アイツらがまたバカやらかしたのか?」
まったくしょうがねぇな。そう明るく呟きながら、オディロンの言葉を待った。オディロンの表情は相変わらず暗い。嫌な予感がますます大きくなる。
「バカか……。確かにバカをした。それも特大のな。あ奴らはお前さんの忠告も聞かず、5人で『女王アリの尖兵』に潜ったんだ……」
「ッ!」
忠告をした時のアイツらの反応からして、次はレベル7ダンジョンに行くつもりだと察してはいた。だが、よりにもよって『女王アリの尖兵』かよ……。
「……何人残った?」
アイツらの実力で『女王アリの尖兵』を制覇できるわけがない。そして、もし『女王アリの尖兵』に潜ったのなら、無事で済むわけがない。
オレは恐る恐るオディロンに確認する。できれば全員生きていてほしいが……。生きているなら、命さえあればなんとかなる。
オディロンが苦い表情を浮かべて、たっぷりと時間をかけて口を開く。
「……一応、全員生還した」
「はぁー……」
オレは、深く安堵の溜息を吐く。ブランディーヌたち、『切り裂く闇』の実力で、レベル7ダンジョンの中でも屈指の難易度を誇る『女王アリの尖兵』に潜って、全員生還する。そんなのは、奇跡という言葉も生温いほど稀なことだ。
「よかった……」
「よかった?」
オレの心の底から漏れ出た言葉に、オディロンが反応する。オディロンは、なんとも不思議そうな顔でオレのことを見ていた。
「そんなにあの連中が生きてたことが嬉しいのか?」
「まぁな。怪我の容態はどうなんだ? 冒険者として、やっていけそうか?」
これでも、オレはアイツらが成人したての頃から面倒見てた身だからな。生きててくれてホッとしているのが本音だ。決して仲が良いわけじゃなかったが、知り合いの死ってのは、この歳には堪える。
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