52 / 62
052 これがあれば……ッ!
しおりを挟む
使い魔の模擬戦の時間。以前は嫌いで仕方がなかったが、今はとても待遠しかった。理由は簡単、早く新しく覚えた影を操る魔法『操影』を模擬戦で試してみたいのだ。我は珍しくうずうずしている。
「ではこれより模擬戦を開始する。最初は、ハーシェ君とルーデルチ君だ」
「「はい」」
「いくわよ、クロ」
アリアに続いて前に出る。ルサルカとイノリスが前に出る姿が見える。初っ端、しかも相手がイノリスとは、相手にとって不足はない。イノリスはこれまで無敗だ。一回引き分けはあるが、後は全て勝利で飾っている。クラス最強の使い魔と言ってもいいだろう。
「では、両者位置について」
先生に促され、アリアの前、開始位置につく。
「分かってるわね? 最初が肝心よ」
「分かっている」
アリアの言葉に頷き、開始の時を待つ。
「では、始め!」
開始の合図が聞こえた瞬間、我は実体化と操影の魔法を自分の影に使う。自分の影を操り、自分を丸く包み込む様に展開する。早さが重要だ。歪でも良いのでとにかく早く展開する。周りから見たら、我が突然黒い球体に取り込まれたように見えただろう。
「へぶっ!」
展開が完了した瞬間、息を付く暇もなく強い衝撃に襲われ、我の体が左側の影の壁に叩きつけられた。体を殴り飛ばされたのではない。イノリスが影のドームを殴った衝撃でよろめき、左の壁にぶつかっただけだ。
イノリスは開始と同時に高速で相手に肉薄し、相手を殴り飛ばすことを得意としている。イノリスの模擬戦を見ていると、イノリスの初手は必ずそうだった。身体能力を強化したイノリスの速度は脅威だ。生半可な回避では間に合わない。たぶん我では回避できないだろう。だから、我は回避ではなく、防御することにした。
「うおっ!」
イノリスが自分の一撃を防がれたことで、追撃を繰り出してきた。その度に影のドームが殴られた衝撃で動き、中にいる我はドームの内側に叩きつけられることになった。けっこう痛い。なんだか自分がイノリスの玩具になったような気分だ。傍から見たら、イノリスが半球状の玩具にじゃれ付いているように見えたかもしれない。
「この……調子に乗るなよッ!」
我は影のドームを操り、イノリスに向けて槍の様に鋭い突きを放つ。六度放つが、全て回避されてしまった。しかし、距離が空いたためイノリスの攻撃が止む。漸く息をつく暇を得た。この隙に我は伸びた影の槍を回収し、ドームをトゲトゲに加工していく。ふっふっふ、これで下手に手が出せまい。イノリスの弱点は遠距離攻撃の手段が無いことだ。肉弾戦にはめっぽう強いが、こういう搦め手は苦手だろう。
しばし、イノリスと影を挟んで睨み合う。イノリスは攻めあぐねているようだ。我はイノリスに意識を集中する。正確にはイノリスの影に意識を集中していく。
「喰らえっ!」
イノリスの影を実体化し、操る。イメージするのは硬い柱だ。影の柱を下からイノリスの顎に打ち付ける。予想外の一撃だったのか、意識外の衝撃を受けたイノリスの身体が仰け反り、ビクリと震える。だが、まだ足りない。
「まだまだぁッ!」
イノリスの影を操り、イノリスの身体を影で覆っていく。頑丈さに重きを置いた影だ。いくらイノリスの身体能力でも抜け出せまい。自分の身体が絡め取られているのに気が付いたイノリスが暴れる。
「グアァアアアアァッ!」
ピシピシッ―――!
イノリスの力に耐えかねて、イノリスを覆っていた影にヒビが走った。
マジか!? 我は新たにイノリスの影を実体化し、イノリスを更に覆い、硬め、身動きを取れなくしていく。
「イノリス!」
ルサルカがイノリスを覆う影目掛けて石の槍の魔術を放つ。石の槍が命中した箇所の影が少し削られるが、それだけだ。我は影を操り、ヒビ割られた影や削られた影をすぐに補修し、更にイノリスの身体を影で覆っていく。
「クロ、いくわよ! とばりッ!」
アリアの魔術が発動し、イノリスの周りが暗くなる。我はアリアの魔術によりできた影を実体化する。イノリスを含む空間が影に飲まれる。ここまで厚い影に覆われれば、流石のイノリスでも抜け出すことはできまい。以前、使用を禁じられた戦法だが、呼吸ができないのが問題であって、影を操り、顔を出して呼吸できるようにしてやれば良い。影の中から現れたイノリスの顔は、なんとも情けない顔をしていた。
「にゃー……」
「そこまで! ハーシェ君の勝利とする」
先生により、我らの勝利が告げられた。やった! イノリスに勝ったぞ!
「クロー! やったわ! ってこの影の実体化の魔法解いてよ」
アリアが我に駆け寄ってきたが、影のドームの前で右往左往している。そうだな、もう模擬戦も終わったし、解除しなくては。我は影の実体化の魔法を解いていく。影のドームが消え、イノリスを拘束していた影も姿を消す。
「やったわクロ! 私たち、やればできるじゃない!」
影のドームが消えた途端に、アリアに抱え上げられて抱きしめられた。ちょっと苦しい。アリアはイノリスに勝てたことがよっぽど嬉しいらしい。我も嬉しい。これまで模擬戦では負け続きだったが、今回はクラス最強のイノリスに勝てたのだ。これは実質、我が一番強いということではないか? 違うか。
あのイノリスにも勝利できる力。これがあれば……ッ!。
「ではこれより模擬戦を開始する。最初は、ハーシェ君とルーデルチ君だ」
「「はい」」
「いくわよ、クロ」
アリアに続いて前に出る。ルサルカとイノリスが前に出る姿が見える。初っ端、しかも相手がイノリスとは、相手にとって不足はない。イノリスはこれまで無敗だ。一回引き分けはあるが、後は全て勝利で飾っている。クラス最強の使い魔と言ってもいいだろう。
「では、両者位置について」
先生に促され、アリアの前、開始位置につく。
「分かってるわね? 最初が肝心よ」
「分かっている」
アリアの言葉に頷き、開始の時を待つ。
「では、始め!」
開始の合図が聞こえた瞬間、我は実体化と操影の魔法を自分の影に使う。自分の影を操り、自分を丸く包み込む様に展開する。早さが重要だ。歪でも良いのでとにかく早く展開する。周りから見たら、我が突然黒い球体に取り込まれたように見えただろう。
「へぶっ!」
展開が完了した瞬間、息を付く暇もなく強い衝撃に襲われ、我の体が左側の影の壁に叩きつけられた。体を殴り飛ばされたのではない。イノリスが影のドームを殴った衝撃でよろめき、左の壁にぶつかっただけだ。
イノリスは開始と同時に高速で相手に肉薄し、相手を殴り飛ばすことを得意としている。イノリスの模擬戦を見ていると、イノリスの初手は必ずそうだった。身体能力を強化したイノリスの速度は脅威だ。生半可な回避では間に合わない。たぶん我では回避できないだろう。だから、我は回避ではなく、防御することにした。
「うおっ!」
イノリスが自分の一撃を防がれたことで、追撃を繰り出してきた。その度に影のドームが殴られた衝撃で動き、中にいる我はドームの内側に叩きつけられることになった。けっこう痛い。なんだか自分がイノリスの玩具になったような気分だ。傍から見たら、イノリスが半球状の玩具にじゃれ付いているように見えたかもしれない。
「この……調子に乗るなよッ!」
我は影のドームを操り、イノリスに向けて槍の様に鋭い突きを放つ。六度放つが、全て回避されてしまった。しかし、距離が空いたためイノリスの攻撃が止む。漸く息をつく暇を得た。この隙に我は伸びた影の槍を回収し、ドームをトゲトゲに加工していく。ふっふっふ、これで下手に手が出せまい。イノリスの弱点は遠距離攻撃の手段が無いことだ。肉弾戦にはめっぽう強いが、こういう搦め手は苦手だろう。
しばし、イノリスと影を挟んで睨み合う。イノリスは攻めあぐねているようだ。我はイノリスに意識を集中する。正確にはイノリスの影に意識を集中していく。
「喰らえっ!」
イノリスの影を実体化し、操る。イメージするのは硬い柱だ。影の柱を下からイノリスの顎に打ち付ける。予想外の一撃だったのか、意識外の衝撃を受けたイノリスの身体が仰け反り、ビクリと震える。だが、まだ足りない。
「まだまだぁッ!」
イノリスの影を操り、イノリスの身体を影で覆っていく。頑丈さに重きを置いた影だ。いくらイノリスの身体能力でも抜け出せまい。自分の身体が絡め取られているのに気が付いたイノリスが暴れる。
「グアァアアアアァッ!」
ピシピシッ―――!
イノリスの力に耐えかねて、イノリスを覆っていた影にヒビが走った。
マジか!? 我は新たにイノリスの影を実体化し、イノリスを更に覆い、硬め、身動きを取れなくしていく。
「イノリス!」
ルサルカがイノリスを覆う影目掛けて石の槍の魔術を放つ。石の槍が命中した箇所の影が少し削られるが、それだけだ。我は影を操り、ヒビ割られた影や削られた影をすぐに補修し、更にイノリスの身体を影で覆っていく。
「クロ、いくわよ! とばりッ!」
アリアの魔術が発動し、イノリスの周りが暗くなる。我はアリアの魔術によりできた影を実体化する。イノリスを含む空間が影に飲まれる。ここまで厚い影に覆われれば、流石のイノリスでも抜け出すことはできまい。以前、使用を禁じられた戦法だが、呼吸ができないのが問題であって、影を操り、顔を出して呼吸できるようにしてやれば良い。影の中から現れたイノリスの顔は、なんとも情けない顔をしていた。
「にゃー……」
「そこまで! ハーシェ君の勝利とする」
先生により、我らの勝利が告げられた。やった! イノリスに勝ったぞ!
「クロー! やったわ! ってこの影の実体化の魔法解いてよ」
アリアが我に駆け寄ってきたが、影のドームの前で右往左往している。そうだな、もう模擬戦も終わったし、解除しなくては。我は影の実体化の魔法を解いていく。影のドームが消え、イノリスを拘束していた影も姿を消す。
「やったわクロ! 私たち、やればできるじゃない!」
影のドームが消えた途端に、アリアに抱え上げられて抱きしめられた。ちょっと苦しい。アリアはイノリスに勝てたことがよっぽど嬉しいらしい。我も嬉しい。これまで模擬戦では負け続きだったが、今回はクラス最強のイノリスに勝てたのだ。これは実質、我が一番強いということではないか? 違うか。
あのイノリスにも勝利できる力。これがあれば……ッ!。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる