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027 出れちゃった
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深夜、我はふと目を覚まし、辺りを見渡す。ここはアリアの部屋だ。寝る前と寸分変わらぬ光景に安堵する。どうやら今日も侵入者は居ないらしい。
「ぐー、はぁー……」
立ち上がり、背中を丸めて伸びをする。その後は、背中を反らしてもう一度伸び。体調の確認も兼ねて丁寧に行う。よし、体に異常は見当たらない。強いて言えば、若干寝不足だろうか。アリアと行動を共にするようになって、昼に行動することが増えたからだろう。猫は本来、夜行性だ。昼寝不足で本来の活動時間である夜に眠たいなど由々しき事態のはずだが……。
「活動といってもな……」
部屋の中でできることといえば、毛繕いに爪とぎ、後は寝るくらいだ。扉が自力では開けられないから、外に出ることもできない。外に出られたらまた違うのだが……。
「うぐっ……うーん……スー……スー……」
我はアリアの腹の上から飛び降りた。アリアは相変わらず無防備に深く眠っている。この部屋の安全性に自信があるのだろう。実際、今まで侵入者が現れていないのだから、その気持ちは分かる。だが、これからも敵襲がないとは限らない。やはり警戒は必要だろう。
我はベッドから降りると、机の側面へと向かう。まずは爪とぎだ。外に出られない苛立ちをぶつけるように、ガリガリと机に爪を立てる。ふむ、もういいだろうか。爪はいつも研いでいるから、短時間で爪とぎは終わってしまう。後は、やることといえば毛繕いくらいしかない。それとも、昼の活動に備えて、もう寝てしまおうか。
ベッドに帰る途中、視界の端に窓が見えた。我は窓のある段差に飛び乗り、窓越しに外を眺める。我ながら未練がましい行動だ。窓にはなにも無いように見えても、ガラスという透明な板があり、通り抜けられない。窓の開け方も知っているが、開けれないように鍵がかかっていることも知っている。
「はぁ……」
外を見てため息をついた時だった。窓がガタガタと動き始めた。突然のことにビックリするが、窓の動きはもう止んでいた。きっと風が当たったのだろう。窓越しではあるが、微かに空気の流れを感じた。
ふむ、空気の流れか。空気が流れるということは、隙間がある。
その時、我の頭に閃きが降ってきた。この隙間を潜影の魔法で移動できないだろうか?
我は自分よりも小さい、小石の影に入ったこともある。その時も問題はなかった。この狭い隙間も越えられるのではないだろうか?
さっそく試してみよう。上手くいけば、外に出られる。潜影の魔法を使い、隙間に向けて移動してみる。そして、我の目論見通り、窓の僅かな隙間を通り抜け、我は部屋の外に出られた。
「出れちゃった」
案外、簡単に出られたので、少し拍子抜けな気分だ。影から飛び出し、外の大地を踏みしめる。
外だ。外の匂いがする。昼間よりも冷たい匂いがした。夜の匂いだ。思えば、夜に出歩くのは久しぶりだ。テンションが上がってくる。部屋より寒く感じる気温も、冷たい夜風も今は気にならない。
いや、気になるわ。寒い。だんだんと気候が暖かくなってきていたが、夜はまだ冷えるようだ。体を動かして温まるか。我は小走りで縄張りをパトロールしていく。もちろん手抜きはしない。あちこち匂いを嗅ぎまわり、情報を仕入れていく。
縄張りのパトロールが一段落した頃、空が赤く染まりだした。もうじき日が出てくるな。そろそろ部屋に戻るか。久しぶりに夜活動したからか、身体には疲れがたまっていた。潜影の魔法を使い、窓の隙間を通り抜ける。部屋の中に入ると、外よりも少し暖かい気がした。部屋に戻ってきた安心感からか、アクビが出た。アクビを噛み殺し、我はベッドに昇っていく。
「むぎゅっ……」
アリアの腹の上に昇り、丸くなる。アリアの腹は温かく、夜風に冷えて縮こまった身体が解けていくようだった。ぷにぷにで寝心地もいいし、最高だな。
◇
「まったく、あなたは毎日毎日……」
アリアが起きたようだ。チラリと片目を開けると、アリアの赤い瞳と目が合った。
「重いのよ……! もうっ!」
アリアが身体を横に向けて我を落とそうとする。我はそれに逆らわず、そのままベットの上に転がった。ゴロゴロー。
「今何時かしら? まだ鐘は鳴ってないわよね?」
「鳴っていない」
「ならゆっくりする時間もあるわね」
アリアがベッドから降り、服を脱いでいく。アリアの朝の支度はまだ時間がかかるだろう。その間に我はもう一眠りといくか。夜に走り回ったからか、まだ眠い。
「クロ、起きて。ご飯食べに行くわよ。」
アリアの言葉で目を覚ます。まだ眠っていたいが、飯なら起きねばなるまい。我は身体を起こし伸びをする。同時にアクビも出た。
「そうだ。クロ、これを影の中に入れておいてくれる?」
「何だこれは?」
「髪を結ぶリボンよ」
アリアから手渡されたリボンを我の影の中にしまう。
「いい? できるだけ長くリボンを影の中にしまっておいて。もし、魔法が解けてリボンが影の中から出てきたら、すぐに私に知らせなさい」
「それはいいが、それに何の意味があるんだ?」
「野外学習の為の実験よ。あなたがどれだけ長く物を影の中にしまっておけるのか、ね。この結果次第では準備する物も変わってくるから、結構重要な実験よ」
どれだけ長く影の中に入れることができるのか、我も気になるな。まだ試していなかった。これを機に試すのもいいだろう。
「今日の放課後も野外学習の話し合いがあるけど、あなたはどうする?」
「我はイノリスの所にいる」
話し合いに参加しても、訳の分からん話を聞かされるだけだからな。我はそんなことよりも昼寝を選ぶ。
「ぐー、はぁー……」
立ち上がり、背中を丸めて伸びをする。その後は、背中を反らしてもう一度伸び。体調の確認も兼ねて丁寧に行う。よし、体に異常は見当たらない。強いて言えば、若干寝不足だろうか。アリアと行動を共にするようになって、昼に行動することが増えたからだろう。猫は本来、夜行性だ。昼寝不足で本来の活動時間である夜に眠たいなど由々しき事態のはずだが……。
「活動といってもな……」
部屋の中でできることといえば、毛繕いに爪とぎ、後は寝るくらいだ。扉が自力では開けられないから、外に出ることもできない。外に出られたらまた違うのだが……。
「うぐっ……うーん……スー……スー……」
我はアリアの腹の上から飛び降りた。アリアは相変わらず無防備に深く眠っている。この部屋の安全性に自信があるのだろう。実際、今まで侵入者が現れていないのだから、その気持ちは分かる。だが、これからも敵襲がないとは限らない。やはり警戒は必要だろう。
我はベッドから降りると、机の側面へと向かう。まずは爪とぎだ。外に出られない苛立ちをぶつけるように、ガリガリと机に爪を立てる。ふむ、もういいだろうか。爪はいつも研いでいるから、短時間で爪とぎは終わってしまう。後は、やることといえば毛繕いくらいしかない。それとも、昼の活動に備えて、もう寝てしまおうか。
ベッドに帰る途中、視界の端に窓が見えた。我は窓のある段差に飛び乗り、窓越しに外を眺める。我ながら未練がましい行動だ。窓にはなにも無いように見えても、ガラスという透明な板があり、通り抜けられない。窓の開け方も知っているが、開けれないように鍵がかかっていることも知っている。
「はぁ……」
外を見てため息をついた時だった。窓がガタガタと動き始めた。突然のことにビックリするが、窓の動きはもう止んでいた。きっと風が当たったのだろう。窓越しではあるが、微かに空気の流れを感じた。
ふむ、空気の流れか。空気が流れるということは、隙間がある。
その時、我の頭に閃きが降ってきた。この隙間を潜影の魔法で移動できないだろうか?
我は自分よりも小さい、小石の影に入ったこともある。その時も問題はなかった。この狭い隙間も越えられるのではないだろうか?
さっそく試してみよう。上手くいけば、外に出られる。潜影の魔法を使い、隙間に向けて移動してみる。そして、我の目論見通り、窓の僅かな隙間を通り抜け、我は部屋の外に出られた。
「出れちゃった」
案外、簡単に出られたので、少し拍子抜けな気分だ。影から飛び出し、外の大地を踏みしめる。
外だ。外の匂いがする。昼間よりも冷たい匂いがした。夜の匂いだ。思えば、夜に出歩くのは久しぶりだ。テンションが上がってくる。部屋より寒く感じる気温も、冷たい夜風も今は気にならない。
いや、気になるわ。寒い。だんだんと気候が暖かくなってきていたが、夜はまだ冷えるようだ。体を動かして温まるか。我は小走りで縄張りをパトロールしていく。もちろん手抜きはしない。あちこち匂いを嗅ぎまわり、情報を仕入れていく。
縄張りのパトロールが一段落した頃、空が赤く染まりだした。もうじき日が出てくるな。そろそろ部屋に戻るか。久しぶりに夜活動したからか、身体には疲れがたまっていた。潜影の魔法を使い、窓の隙間を通り抜ける。部屋の中に入ると、外よりも少し暖かい気がした。部屋に戻ってきた安心感からか、アクビが出た。アクビを噛み殺し、我はベッドに昇っていく。
「むぎゅっ……」
アリアの腹の上に昇り、丸くなる。アリアの腹は温かく、夜風に冷えて縮こまった身体が解けていくようだった。ぷにぷにで寝心地もいいし、最高だな。
◇
「まったく、あなたは毎日毎日……」
アリアが起きたようだ。チラリと片目を開けると、アリアの赤い瞳と目が合った。
「重いのよ……! もうっ!」
アリアが身体を横に向けて我を落とそうとする。我はそれに逆らわず、そのままベットの上に転がった。ゴロゴロー。
「今何時かしら? まだ鐘は鳴ってないわよね?」
「鳴っていない」
「ならゆっくりする時間もあるわね」
アリアがベッドから降り、服を脱いでいく。アリアの朝の支度はまだ時間がかかるだろう。その間に我はもう一眠りといくか。夜に走り回ったからか、まだ眠い。
「クロ、起きて。ご飯食べに行くわよ。」
アリアの言葉で目を覚ます。まだ眠っていたいが、飯なら起きねばなるまい。我は身体を起こし伸びをする。同時にアクビも出た。
「そうだ。クロ、これを影の中に入れておいてくれる?」
「何だこれは?」
「髪を結ぶリボンよ」
アリアから手渡されたリボンを我の影の中にしまう。
「いい? できるだけ長くリボンを影の中にしまっておいて。もし、魔法が解けてリボンが影の中から出てきたら、すぐに私に知らせなさい」
「それはいいが、それに何の意味があるんだ?」
「野外学習の為の実験よ。あなたがどれだけ長く物を影の中にしまっておけるのか、ね。この結果次第では準備する物も変わってくるから、結構重要な実験よ」
どれだけ長く影の中に入れることができるのか、我も気になるな。まだ試していなかった。これを機に試すのもいいだろう。
「今日の放課後も野外学習の話し合いがあるけど、あなたはどうする?」
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