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第二章
062 弱音
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「話は変わりますが、クルトは恋愛についてどう考えていますか?」
「え?」
お酒も入って気分も足取りも軽く東へと街道を歩き出した僕たちは、日が赤く傾きだした頃、王都東部の主要都市イルクナーへとたどり着いた。
さすがに王都には劣るけど、立派な城壁を持つ大きな都市だ。その中は王都に負けないくらい大いに賑わっており、人に溢れていた。
ラインハルトの話では、イルクナーでは王都からの下り物の取引が盛んらしい。下り物というのは、一言で言えば王都から運ばれてきた産物だ。各地の産物は、一度王都に集まった後、また各地へ散っていくらしい。この各地へ散っていく産物が下り物と呼ばれる物である。
僕にはよく分からないけど、この下り物というのは、一種のブランド物のような扱いを受けるらしい。
物を運ぶにも人足代や馬車代、人や馬の食費などなど時間もお金がかかる。その分の費用は、売値に転嫁されるのが一般的だ。各地の産物は、王都に集まるまでに既に費用がかかっているのだ。王都の物価が高い理由だね。
つまり下り物というのは、各地から王都に集まる膨大で多種多様な産物の中でもごく一部の、更に運搬して値が張っても売れると判断された良品の証みたいなものだ。逆に、王都まで運ばれてきたけどそれ以上は運ばれていかない物のことを下らない物と云う。ちなみにこれが“くだらない”の語源で、取るに足らない、価値の無いものに対して使われている。
それにしても、なんで王都から運ばれてきた物に対して“下る”なんて表現するんだろう。他にも王都に限らず都会に出てきた田舎者を“お上りさん”なんて云うけど、土地に高低差はあまりない気がするだけど……なんでだろうね。
そんな僕のどうでもいい話を苦笑いを浮かべて聞いていたラインハルトが口を開き、話は冒頭へと戻る。それにしても、恋愛について……か。これが噂に聞くコイバナというやつだろうか?
今はイルクナーの宿の二人部屋でラインハルトと二人っきりの状況だ。体を拭くために服を肌蹴ているんだけど……ラインハルトの色気がすごい。ついラインハルトの露わになった肌に目が行ってしまう。僕にその気は無いはずなんだけど……。
僕はラインハルトから体ごと背けるようにして視線を外した。少しだけボーッとする頭で考える。えっと、何の話をしてたっけ? 恋愛についてどう思うかだっけ? 恋愛……もしかしてだけど、いやまさかだけど、ラインハルトは男同士の恋愛をどう思うかについて訊いているのだろうか?
ラインハルトはイケメンで、性格も優しい気配り上手なイケメン・オブ・イケメンだ。それなのに彼女が居ないのは……そういうコトだろうか……?
「………ッ(ゴクリ)」
知らず知らずのうちに固唾を飲み込んで、喉が大きく鳴った。
二度目になるけど、僕にその気は無い……はずだ。たぶん無い。無いと思う。無いといいな。無いかもしれない。無い可能性が少なくとも存在する……はずだ。たぶん。
安宿の狭い二人部屋。半裸の男が二人。なにも起きないはずが無く……。
「クルト?」
「ひゃい!?」
思考が変な方向に行ってしまっていたからか、ラインハルトに名前を呼ばれて、自分でもビックリするぐらい裏返った声が出た。顔が熱い。そんな僕をラインハルトは不思議そうに見ていた。
「どうしたんですか? 顔が赤いですが……まさか熱でも?」
「い、いや、違くて。大丈夫だから」
こっちに近づこうとするラインハルトを慌てて両手を振って牽制して、僕は熱くなった思考を冷ますように、ほうと熱いため息を吐いた。
「体調には十分注意してください。体調が悪い際は下手に無理をせず、ちゃんと報告してくださいね? まだ日程には調整できる余裕がありますし、万が一の際は、今回は中止という決断もあります」
「うん……でも……」
ラインハルトの心配そうな視線に曖昧に頷きを返す。体調不良ではないので心配はいらないけど、『融けない六華』としては、中止という選択はできる限り避けたいはずだ。あれだけ大々的に『万魔の巨城』に挑戦すると宣言しておいて、中止というのは怖気づいていると見られかねない。冒険者は、時には命よりもメンツが重い商売だ。ただでさえ僕たちの躍進を面白く思っていない冒険者が多いのに、そんな情けないマネをしたら、下手をすれば、冒険者生命を絶たれるほどの大きな瑕になりかねない。
心配する僕に、ラインハルトは笑ってみせた。
「大丈夫です。悪評など成果で洗い流せます。……本当は私も『融けない六華』の持つ危うさに気が付いています。おそらくルイーゼも感付いているはずです。本当はクルトの言うように地道に経験を積むことが大切でしょう。しかし、それでは間に合わないかもしれません。私たちはそれをこそ恐れています。今回は苦しい冒険になるでしょう。ですが……乗り越えなくてはいけません」
今回の冒険に賛同していたラインハルトもルイーゼも本当は危ぶんでいる…? 僕は急に足元が不確かになったような心地がした。つまり、それだけ僕はルイーゼとラインハルトの意見を信じ、流されていたのだ。
しかし、彼女たちを批難することもできない。彼女たちが、『融けない六華』がダンジョンの攻略を急ぐ理由は僕にあるからだ。
「え?」
お酒も入って気分も足取りも軽く東へと街道を歩き出した僕たちは、日が赤く傾きだした頃、王都東部の主要都市イルクナーへとたどり着いた。
さすがに王都には劣るけど、立派な城壁を持つ大きな都市だ。その中は王都に負けないくらい大いに賑わっており、人に溢れていた。
ラインハルトの話では、イルクナーでは王都からの下り物の取引が盛んらしい。下り物というのは、一言で言えば王都から運ばれてきた産物だ。各地の産物は、一度王都に集まった後、また各地へ散っていくらしい。この各地へ散っていく産物が下り物と呼ばれる物である。
僕にはよく分からないけど、この下り物というのは、一種のブランド物のような扱いを受けるらしい。
物を運ぶにも人足代や馬車代、人や馬の食費などなど時間もお金がかかる。その分の費用は、売値に転嫁されるのが一般的だ。各地の産物は、王都に集まるまでに既に費用がかかっているのだ。王都の物価が高い理由だね。
つまり下り物というのは、各地から王都に集まる膨大で多種多様な産物の中でもごく一部の、更に運搬して値が張っても売れると判断された良品の証みたいなものだ。逆に、王都まで運ばれてきたけどそれ以上は運ばれていかない物のことを下らない物と云う。ちなみにこれが“くだらない”の語源で、取るに足らない、価値の無いものに対して使われている。
それにしても、なんで王都から運ばれてきた物に対して“下る”なんて表現するんだろう。他にも王都に限らず都会に出てきた田舎者を“お上りさん”なんて云うけど、土地に高低差はあまりない気がするだけど……なんでだろうね。
そんな僕のどうでもいい話を苦笑いを浮かべて聞いていたラインハルトが口を開き、話は冒頭へと戻る。それにしても、恋愛について……か。これが噂に聞くコイバナというやつだろうか?
今はイルクナーの宿の二人部屋でラインハルトと二人っきりの状況だ。体を拭くために服を肌蹴ているんだけど……ラインハルトの色気がすごい。ついラインハルトの露わになった肌に目が行ってしまう。僕にその気は無いはずなんだけど……。
僕はラインハルトから体ごと背けるようにして視線を外した。少しだけボーッとする頭で考える。えっと、何の話をしてたっけ? 恋愛についてどう思うかだっけ? 恋愛……もしかしてだけど、いやまさかだけど、ラインハルトは男同士の恋愛をどう思うかについて訊いているのだろうか?
ラインハルトはイケメンで、性格も優しい気配り上手なイケメン・オブ・イケメンだ。それなのに彼女が居ないのは……そういうコトだろうか……?
「………ッ(ゴクリ)」
知らず知らずのうちに固唾を飲み込んで、喉が大きく鳴った。
二度目になるけど、僕にその気は無い……はずだ。たぶん無い。無いと思う。無いといいな。無いかもしれない。無い可能性が少なくとも存在する……はずだ。たぶん。
安宿の狭い二人部屋。半裸の男が二人。なにも起きないはずが無く……。
「クルト?」
「ひゃい!?」
思考が変な方向に行ってしまっていたからか、ラインハルトに名前を呼ばれて、自分でもビックリするぐらい裏返った声が出た。顔が熱い。そんな僕をラインハルトは不思議そうに見ていた。
「どうしたんですか? 顔が赤いですが……まさか熱でも?」
「い、いや、違くて。大丈夫だから」
こっちに近づこうとするラインハルトを慌てて両手を振って牽制して、僕は熱くなった思考を冷ますように、ほうと熱いため息を吐いた。
「体調には十分注意してください。体調が悪い際は下手に無理をせず、ちゃんと報告してくださいね? まだ日程には調整できる余裕がありますし、万が一の際は、今回は中止という決断もあります」
「うん……でも……」
ラインハルトの心配そうな視線に曖昧に頷きを返す。体調不良ではないので心配はいらないけど、『融けない六華』としては、中止という選択はできる限り避けたいはずだ。あれだけ大々的に『万魔の巨城』に挑戦すると宣言しておいて、中止というのは怖気づいていると見られかねない。冒険者は、時には命よりもメンツが重い商売だ。ただでさえ僕たちの躍進を面白く思っていない冒険者が多いのに、そんな情けないマネをしたら、下手をすれば、冒険者生命を絶たれるほどの大きな瑕になりかねない。
心配する僕に、ラインハルトは笑ってみせた。
「大丈夫です。悪評など成果で洗い流せます。……本当は私も『融けない六華』の持つ危うさに気が付いています。おそらくルイーゼも感付いているはずです。本当はクルトの言うように地道に経験を積むことが大切でしょう。しかし、それでは間に合わないかもしれません。私たちはそれをこそ恐れています。今回は苦しい冒険になるでしょう。ですが……乗り越えなくてはいけません」
今回の冒険に賛同していたラインハルトもルイーゼも本当は危ぶんでいる…? 僕は急に足元が不確かになったような心地がした。つまり、それだけ僕はルイーゼとラインハルトの意見を信じ、流されていたのだ。
しかし、彼女たちを批難することもできない。彼女たちが、『融けない六華』がダンジョンの攻略を急ぐ理由は僕にあるからだ。
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