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第二章

グリムゲルデ

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「天にまします我らが主、女神グリムゲルデよ、あなたのいつくしみに感謝して、この食事をいただきます……」

 いつも舌っ足らずな喋り方をするリリーが、ゆっくりと落ち着いた様子で主への祈りを捧げる。前に聞いたけど、お祈りの文言は、つかえずに唱えられるように練習しているらしい。なんだか健気でかわいらしい。娘を見守る父親のような気持ちでリリーを応援する。

 それにしても、グリムゲルデか……。神々の長ヴォータンと地母神フリッカの9柱の娘の中の1柱。魔法や特別な力をなにも持たない弱者である人間の守護神にして、人間に【ギフト】という特別な力をもたらした女神様。僕たち人間の間で主、もしくは神や女神といったらグリムゲルデのことだ。それだけ慕われている。

 僕自身も今はグリムゲルデのことは、そこそこ慕っていると言ってもいいかもしれない。以前は大嫌いだったけどね。反女神教徒まではいかないけど、ギフトで人生が決まってしまう世の中に、グリムゲルデのあり方について疑問を持っていたのは確かだ。まぁ自分のギフトが有用だと理解してからは、グリムゲルデのことがそこまで嫌いじゃなくなったけど……。自分のことながら身勝手過ぎて呆れてしまうね。

 ハズレだと思っていたギフトが、実は大アタリだった。全くなかったグリムゲルデへの信仰心も少し芽生えたくらいだ。自分でもちょっとどうかと思うくらいの手のひら返しである。

 普通ならグリムゲルデの忠実な信徒にでもなりそうなものだけど、僕はグリムゲルデのことを心の底から信じることができずにいた。それは、【勇者の友人】の情報開示条件のことだ。

 【勇者の友人】は、レベル3になるまで、その詳細が全く分からなかった。

 だから無能と蔑まれたわけだけど……問題はそこじゃない。【勇者の友人】のレベルアップ方法は、新たな人を勇者に任命することだ。レベル1の時にアンナを無意識に勇者に指名してレベル2になった。ここまではいい。

 でも、問題はここからだ。ギフトのレベルが2では、勇者の枠は1つだけしかない。【勇者の友人】のレベルを上げるためには、アンナを勇者から解除して、他の人を勇者にすればいいのだけど……【勇者の友人】のギフトの詳細も分からないのに、そんなことができるわけがない。僕のように、勇者に心底愛想が尽きて、無意識に勇者を解除し、新たな勇者を任命するしかない。

 そこでようやく【勇者の友人】のギフトレベルが上がり、情報開示の条件を満たして、僕は【勇者の友人】の本当の効果を知ることができるわけである。

 神様はなぜこんな回りくどく、人間関係をいたずらに引っ掻き回すような条件を付けたのだろう?

 好意的に解釈すれば、大きな力を持つ者に対する試練とも読み取れるだろう。でも、僕にはグリムゲルデが意地悪なだけのように感じてしまう。

 ギフトはたしかに“アタリ”だとか“ハズレ”だとかあるけど、全てプラスの効果を持っている。どんなにハズレといわれるようなギフトでも、無いより有ったほうがマシなのだ。そこには確かにグリムゲルデの人間への愛がある。というのが、リリーに聞いた教会の教えの根本らしいけど……本当にグリムゲルデは人間を愛しているのだろうか?

 たしかに有用なギフトを貰えたことには感謝しているけど……たまに考えてしまうことがある。グリムゲルデは、僕にこんな大層なギフトを贈って何を望んでいるのだろう? ラインハルトには“大きな力には大きな責任が伴う”って言われたけど……僕が負うべき責任ってなんだろう? 分からない。同じく“人を見る目を養うように”とも言われたけど、どうすればいいんだろう? これも分からない。分からないことだらけだ。

 だからなのか、僕はグリムゲルデに対しては感謝と同時に不安も感じている。もし、グリムゲルデの期待に応えられなかったら……。神様に期待外れとされてしまったら、僕はどうなってしまうのだろう…? その時、人々は僕をどんな目で見るのだろう……。考えるだけで恐ろしい。

 人間の間で深く信仰されているグリムゲルデに対して、他の8柱の姉妹神のことを僕は名前すら知らない。教会でもヴォータンとフリッカ、そしてグリムゲルデしか祀っていないらしい。リリーとラインハルトの話によると、他の姉妹神は他種族の守護神になっており、種族間の関係が思わしくないので、祀ることを控えているという理由があるらしい。人間と他種族との仲が悪いなんて初めて聞いたよ。仲良くしたらいいのに。

 他種族というと、物語に出てくるようなエルフやドワーフ、コビットなどだろうか? 僕は見たことないな。一目でもいいから見てみたいな。特にエルフとか、見たら魂が奪われるほど美しいらしいけど、そんなこと言われると逆に気になってしまうのは僕だけだろうか?

「ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心と体を支える糧としてください。それでは、いただきましょう」
「「「「「いただきまーす!」」」」」
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