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第二章
057 信
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「僕は……そうは思わないよ。僕たちの経験値は、やっぱり不足していると思う」
僕は初めてルイーゼの言葉に異を唱えた。ルイーゼやラインハルトの言い分も分かる。ルイーゼだけではなく、ラインハルトまで賛同しているということは、それだけ勝算も高いのだろう。僕の言ってることは見当違いの間違いで、僕が必要以上に怯えているだけかもしれない。でも、それでも、僕がここで流されてはいけない。以前と同じ失敗は繰り返さない。たとえその結果パーティのメンバーから不愉快に思われても、僕はここで一度踏み止まらなくてはいけない。
「だから、1つずつ行こうよ。次はレベル5のダンジョンにしよう。レベル5ダンジョンの次はレベル6。その次はレベル7。きっとすぐだよ」
なにも急ぐ理由なんて無い。無理をする必要なんてどこにもないんだから。
「それじゃあ遅いかもしれないじゃない……」
「え?」
小さく呟かれたルイーゼの言葉を、僕は聞き逃してしまった。
「とにかく! 次に行くのは『万魔の巨城』! これは決定よ!」
なぜルイーゼはそんなに『万魔の巨城』に拘るんだろう? ルイーゼの決定に思わずいつものように頷きそうになったけど、僕はなんとか踏み止まる。ここで流されてはいけない。人の判断に従うのはとても楽だ。自分が責任を負わなくていいから。でも、それじゃダメなんだ。僕はもう、自らの口を閉じて楽に流されて後悔なんてしたくない。
「やっぱりいきなりレベル7のダンジョンに潜るのは危ないよ。もっといろいろ経験してから……」
「経験なら大丈夫よ!」
ルイーゼが自信たっぷりに言う。すごいな、僕もそれだけ自分を信じることができたらいいのに……。
「なんでそんなに……?」
気が付いたら、僕はルイーゼに問いかけていた。どうやったらルイーゼのような自信を身に付けることができるのだろう?
僕は自分のことが嫌いだ。昔からそうだった。いつもアンナの言うことを聞いてばかりで主体性が無くて、すごく情けないし、要領が悪いし、かっこわるいヤツだと思う。とてもルイーゼのように自分のことを信じられそうにない。だから、目が眩むほど眩しく見えた。思わず憧れてしまった。欠点ばかりの嫌いな僕だけど、ルイーゼのように、自分のことを信じられる自分になりたかった。それが自分のことを“華”と誇れるようになる第一歩のように思えた。
僕の憧れの視線と、ルイーゼの意思の強そうなまっすぐな視線が交差する。どれほど見つめ合っただろう、ルイーゼの視線がふっと緩んで、柔らかいまるで僕を包み込むような優しい視線へと変わった。僕の鼓動が高鳴るのを感じた。
「あなたがいるから」
「え…?」
僕がいるから…? ルイーゼの眩しいほどの自信の正体は僕だった。ルイーゼにそれほどまでに信用されて嬉しい気持ちと同時に、不安に押し潰されそうになる。僕はルイーゼに信用されるような、そんな大層な人間じゃない。臆病だし、間抜けだし、ルイーゼたちの幼馴染の輪の中に本当に入れるか不安だったし、長い年月と共に育まれた美しい幼馴染の絆に嫉妬する醜い男、それが僕だ。
「あなたがいるから、大丈夫よ。あなたがいるから、あたしたちは迷わずに進むことができる」
「僕がいるから……」
「そうよ。あたしたちを導く光になりなさい」
たしかに『万魔の巨城』の地図は作ったし、安地や罠の場所も分かるけど……僕に皆を導くことができるだろうか……そんなリーダーのようなマネが……僕がミスをすれば皆が……。
「でも……」
僕の心の弱さが、不安に思う心が、思わず否定の言葉を口に出す。僕はルイーゼの信用に応えられないのではないだろうか……。
「でもじゃないわ! あなたならきっとできる! 自分を信じなさい!」
「………」
自分を信じるのなんて、今すぐには無理だよ。僕だって信じたい。でも無理なんだ……。
「あーもう! またその目! また諦めた顔してる!」
僕って顔に出やすいのかな。僕の自虐にも似た諦めなど、一瞬にしてルイーゼに看破されてしまった。
ルイーゼが胸に手を当て、まっすぐに僕を見つめる。
「いーい? まず、あたしを信じなさい!」
「うん。信じてるよ」
僕は頷いて即答する。僕はルイーゼを信じている。ちょっと意地っ張りだったり、時には先走っちゃうこともあるけれど、主体性があって決断力もある、頼れる僕らのリーダー。かわいくって初心で、仲間想いでいつも明るくて、知り合ったばかりの僕みたいなヤツにも優しい素敵な女の子。なんでも1人で抱え込み過ぎちゃうところもあるけれど、そんな彼女だから支えたくなる。
「そ、そう……」
僕が喰いつくようなスピードで即答したからか、ルイーゼが僕から目を逸らして、少しだけ頬を染めて口ごもる。照れちゃったのかな? かわいい。
「じゃなくて!」
ルイーゼのまっすぐな瞳に再び見つめられる。
「いい? あたしを信じなさい!」
「うん」
「そして、あたしの信じるあなたを信じなさい!」
「ルイーゼの信じる僕…?」
これまで考えたこともなかった。ルイーゼの信じる僕? こんなダメダメな僕に信用できるところなんてあるのだろうか?
「そうよ! あたしはあなたを信じているの!」
「でも……」
僕はルイーゼに信じてもらえるような、そんな良い人間じゃないし……。
「でも、じゃないわよ! あなたが信じてるあたしが信じてるのよ? 少しは自分を信じなさいよ!」
僕は初めてルイーゼの言葉に異を唱えた。ルイーゼやラインハルトの言い分も分かる。ルイーゼだけではなく、ラインハルトまで賛同しているということは、それだけ勝算も高いのだろう。僕の言ってることは見当違いの間違いで、僕が必要以上に怯えているだけかもしれない。でも、それでも、僕がここで流されてはいけない。以前と同じ失敗は繰り返さない。たとえその結果パーティのメンバーから不愉快に思われても、僕はここで一度踏み止まらなくてはいけない。
「だから、1つずつ行こうよ。次はレベル5のダンジョンにしよう。レベル5ダンジョンの次はレベル6。その次はレベル7。きっとすぐだよ」
なにも急ぐ理由なんて無い。無理をする必要なんてどこにもないんだから。
「それじゃあ遅いかもしれないじゃない……」
「え?」
小さく呟かれたルイーゼの言葉を、僕は聞き逃してしまった。
「とにかく! 次に行くのは『万魔の巨城』! これは決定よ!」
なぜルイーゼはそんなに『万魔の巨城』に拘るんだろう? ルイーゼの決定に思わずいつものように頷きそうになったけど、僕はなんとか踏み止まる。ここで流されてはいけない。人の判断に従うのはとても楽だ。自分が責任を負わなくていいから。でも、それじゃダメなんだ。僕はもう、自らの口を閉じて楽に流されて後悔なんてしたくない。
「やっぱりいきなりレベル7のダンジョンに潜るのは危ないよ。もっといろいろ経験してから……」
「経験なら大丈夫よ!」
ルイーゼが自信たっぷりに言う。すごいな、僕もそれだけ自分を信じることができたらいいのに……。
「なんでそんなに……?」
気が付いたら、僕はルイーゼに問いかけていた。どうやったらルイーゼのような自信を身に付けることができるのだろう?
僕は自分のことが嫌いだ。昔からそうだった。いつもアンナの言うことを聞いてばかりで主体性が無くて、すごく情けないし、要領が悪いし、かっこわるいヤツだと思う。とてもルイーゼのように自分のことを信じられそうにない。だから、目が眩むほど眩しく見えた。思わず憧れてしまった。欠点ばかりの嫌いな僕だけど、ルイーゼのように、自分のことを信じられる自分になりたかった。それが自分のことを“華”と誇れるようになる第一歩のように思えた。
僕の憧れの視線と、ルイーゼの意思の強そうなまっすぐな視線が交差する。どれほど見つめ合っただろう、ルイーゼの視線がふっと緩んで、柔らかいまるで僕を包み込むような優しい視線へと変わった。僕の鼓動が高鳴るのを感じた。
「あなたがいるから」
「え…?」
僕がいるから…? ルイーゼの眩しいほどの自信の正体は僕だった。ルイーゼにそれほどまでに信用されて嬉しい気持ちと同時に、不安に押し潰されそうになる。僕はルイーゼに信用されるような、そんな大層な人間じゃない。臆病だし、間抜けだし、ルイーゼたちの幼馴染の輪の中に本当に入れるか不安だったし、長い年月と共に育まれた美しい幼馴染の絆に嫉妬する醜い男、それが僕だ。
「あなたがいるから、大丈夫よ。あなたがいるから、あたしたちは迷わずに進むことができる」
「僕がいるから……」
「そうよ。あたしたちを導く光になりなさい」
たしかに『万魔の巨城』の地図は作ったし、安地や罠の場所も分かるけど……僕に皆を導くことができるだろうか……そんなリーダーのようなマネが……僕がミスをすれば皆が……。
「でも……」
僕の心の弱さが、不安に思う心が、思わず否定の言葉を口に出す。僕はルイーゼの信用に応えられないのではないだろうか……。
「でもじゃないわ! あなたならきっとできる! 自分を信じなさい!」
「………」
自分を信じるのなんて、今すぐには無理だよ。僕だって信じたい。でも無理なんだ……。
「あーもう! またその目! また諦めた顔してる!」
僕って顔に出やすいのかな。僕の自虐にも似た諦めなど、一瞬にしてルイーゼに看破されてしまった。
ルイーゼが胸に手を当て、まっすぐに僕を見つめる。
「いーい? まず、あたしを信じなさい!」
「うん。信じてるよ」
僕は頷いて即答する。僕はルイーゼを信じている。ちょっと意地っ張りだったり、時には先走っちゃうこともあるけれど、主体性があって決断力もある、頼れる僕らのリーダー。かわいくって初心で、仲間想いでいつも明るくて、知り合ったばかりの僕みたいなヤツにも優しい素敵な女の子。なんでも1人で抱え込み過ぎちゃうところもあるけれど、そんな彼女だから支えたくなる。
「そ、そう……」
僕が喰いつくようなスピードで即答したからか、ルイーゼが僕から目を逸らして、少しだけ頬を染めて口ごもる。照れちゃったのかな? かわいい。
「じゃなくて!」
ルイーゼのまっすぐな瞳に再び見つめられる。
「いい? あたしを信じなさい!」
「うん」
「そして、あたしの信じるあなたを信じなさい!」
「ルイーゼの信じる僕…?」
これまで考えたこともなかった。ルイーゼの信じる僕? こんなダメダメな僕に信用できるところなんてあるのだろうか?
「そうよ! あたしはあなたを信じているの!」
「でも……」
僕はルイーゼに信じてもらえるような、そんな良い人間じゃないし……。
「でも、じゃないわよ! あなたが信じてるあたしが信じてるのよ? 少しは自分を信じなさいよ!」
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